お夏/清十郎(読み)おなつ/せいじゅうろう

朝日日本歴史人物事典 「お夏/清十郎」の解説

お夏/清十郎

江戸時代の恋愛説話の主人公。モデルは同名の播州姫路の商家但馬屋の娘と恋人の手代。寛文2(1662)年ふたりは駆け落ちするが,お夏は連れ戻されて狂乱し,悲恋に終わるのが基本的な伝承である。しかし事件が起きた年には万治2(1659)年説,同3年説もあり,また事実内容も明確ではない。その後「向ひ通るは清十郎ぢやないか,笠がよく似た菅笠が」(清十郎節)や「清十郎殺さばお夏も殺せ」(歌祭文)という文句が流行,ふたりの名を広め,数年後には上方,江戸で歌舞伎化された(『松平大和守日記』『玉滴隠見』)。これらの影響のもとに,井原西鶴の浮世草子『好色五人女』巻1が成立する。ここでは清十郎は但馬屋の金紛失の疑いがかかって処刑され,お夏は狂乱,のちに出家する結末になっている。元禄5(1692)年上演といわれる大坂の歌舞伎「但馬屋おなつ清十郎卅三年忌」上演後,近松門左衛門の「五十年忌歌念仏」が作られた。近代になってから坪内逍遥舞踊「お夏狂乱」が発表され,現在も度々上演される。

(近藤瑞男)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

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