お富/与三郎(読み)おとみ/よさぶろう

朝日日本歴史人物事典 「お富/与三郎」の解説

お富/与三郎

歌舞伎などの登場人物。天保年間(1830~44)の長唄の三味線弾き4代目芳村伊三郎と,のちにその妻となった女性がモデルとされる。伊三郎は房州木更津で,土地の顔役あかし金左衛門の妾おまさと恋におち,金左衛門の手で半殺しの目にあう。ようやく江戸に逃れ,のちに深川での祭礼でおまさにめぐり合い,夫婦になった。ふたりの間の娘をお富といったという。この事件を講釈師乾坤坊良斎が高座にのせ,さらに一立斎文車や初代古今亭志ん生が演じて好評を博した。江戸の市井で実際に起こった数奇な恋物語である。嘉永4(1851)年3代目桜田治助が歌舞伎に脚色,しかし上演にはいたらなかった。同6(1853)年1月江戸中村座で,3代目瀬川如皐が「与話情浮名横櫛」全9幕30場の作品として脚色,はじめて上演され,お富与三郎の名前が巷間にひろまった。横山町の商家伊豆屋の若旦那与三郎は,放蕩の末に木更津の親戚に預けられる。そこで土地の親分赤間源左衛門の妾お富(昔の深川芸者富吉)にあう。源左衛門に発見されたふたりは半死半生制裁をうけ,ようやく命だけは助かる。数年後,いまは源氏店で人の妾になっているお富のところへ,それとも知らずに無頼漢蝙蝠安につれられて与三郎がゆすりにくる。美貌青年は源左衛門の刀傷で見るも無残な姿の悪党に変貌していた。ここが「しがねえ恋の情が仇」という名セリフで有名な「源氏店」の場である。与三郎の役は初演の8代目市川団十郎の当たり芸で,5代目尾上菊五郎,15代目市村羽左衛門,11代目団十郎の得意芸となった。今日もっとも上演頻度の高い演目のひとつである。

(渡辺保)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

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