かくれんぼ

改訂新版 世界大百科事典 「かくれんぼ」の意味・わかりやすい解説

かくれんぼ

古くから行われてきた子どもの遊びで,〈かくれあそび〉〈かくれおに〉〈かくれんぼ〉が一般的な名称だが,近年は〈かくれんぼ〉が全国的通称になっている。山東京伝の《骨董集》(1814-15)に〈かくれ遊びとあるは今云ふかくれんぼなるべし。(中略)かくれんぼはかくれ子の転語〉とあるところから,かくれあそびが古く,かくれんぼは少なくとも江戸期になってからの名称である。《物類称呼》(1775)に〈かくれんぼは小児のたはむれ也,出雲にてかくれんごと云ふ,相模にてかくれかんぢやうと云ふ,鎌倉にてはかくれんぼと云ふ,仙台にてかくれかじかと云ふ〉と,当時の各地方の名称を記している。そのほか〈かくれかご〉〈かくれかしこ〉〈めっけっこ〉などの呼称があるが,他の遊びと比べて別称が少ない。

 遊びの形式や方法も単純素朴で,鬼が子を追跡して発見しようとし,子は事物を利用して身をかくし鬼の発見をのがれようとする。《守貞漫稿》に〈隠れんぼは一童眼を袖にて覆ひふさぎ,其の間に衆童諸所に潜み隠れ,是を尋ね求めしむる戯也〉とあり,今昔変りない遊びであることがわかる。具体的な遊び方は以下のとおりである。(1)鬼定め(〈鬼ごっこ〉の項目を参照)によって鬼を決め,他者全員が子となる。(2)鬼は所定の場所で,目を覆って〈もういいかい〉と叫び,〈もういいよ〉の返事があったときにさがしはじめる方法と,あらかじめ決められた数を数え終わったときにさがしはじめる方法とがある。(3)鬼の交替は,だれか1人が見つかったとき行う方法と,全員が発見されたのち最初に見つかった者が鬼になる方法がある。後者の場合,かくれている者のだれかが鬼に発見されないうちに〈ダット〉と言ってタッチすれば,すでに発見された者全員が助かるという方法もある。
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日本では1人の鬼と数人のかくれる者とで遊ぶのが普通であるのに対して,欧米では多数が追いかけ,1人ないし少数の人間がかくれ,追手につかまらぬようにホームにかえる形式が一般に行われている。イギリスではハイド・アンド・シークhide-and-seek,フランスではカーシュ・カーシュcache-cache,ドイツではフェルシュテッケンVersteckenと呼ばれる,かくれんぼに類する遊びがあり,それぞれ多くの変形がある。イギリスのホー・スパイho-spyは,鬼をスパイと呼ぶのでその名があり,マーダーmurder(殺人者)は現代のかくれんぼで,探偵小説から形をかりた尋問形式をとりいれて遊んでいる。中国では提迷戯,迷蔵,迷朦,紮盲,模蝦児,蔵模など,かくれんぼにあたる遊戯が行われ,モンゴルではタルバカという遊びがある。タルバカはこの地方にすむイタチに似た動物で,これを追いかける犬をまねて遊ぶものである。

 〈ごみかくし〉は,かくすべき木片小石などを見せあったのち,決められた区域内の地中にうずめ,それを鬼がさがす。江戸時代,日暮れの通りなどで盛んに行われた〈ぞうりかくし〉〈げたかくし〉も同種の遊びである。イギリスのハント・ザ・スリッパーhunt-the-slipper(スリッパさがし)やハンディ・ダンディhandy-dandyもこのタイプに属し,歌などうたわれている間に移動する対象が,だれの手にかくされているか,どちらの手にかくされているかをあてる遊びである。

 トラッキング・ゲーム(追跡遊び)のタイプは,同類の遊びのなかで最も複雑なもので,敵や動物をその通った跡や味方の先発隊のつけた目印によって追跡する北米インディアンなどの遊牧民習俗に発し,いまではボーイ・スカウトの行進の訓練にも使用されている。一定の間隔で先発隊がつけた目印を判読して後続者が前進し,しんがりは目印を消して原状にもどさなければならない。その印には,地面に描いた記号,石,折れ枝,森林地帯では樹皮をけずって刻んだ記号などが用いられ,簡単なものはのこくずをまいたり,茂みに毛糸を結んだりする。ペーパー・チェースpaper-chase(散紙競走)は簡単なトラッキング・ゲームで,19世紀に流行したイギリスの伝統的スポーツ(一隊の犬をつれた兎狩り)に由来している。兎になった一群のあとを,それがまきちらした紙片をたどって犬になった一群が追跡する遊戯で,この紙は兎の体臭を象徴し,紙片のかわりにチョークでも行われる。トレジャー・ハントtreasure-hunt(宝さがし)もこのタイプの一つで,屋内,屋外を問わず遊ばれる。パズル形式の手がかりをとくと次の手がかりが教えられ,最後の手がかりによってかくされた宝に導かれる。
鬼ごっこ
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「かくれんぼ」の意味・わかりやすい解説

かくれんぼ

子供の遊戯の一つ。鬼になる者1人を決め,他の者は各自思い思いの場所に身をひそめ,合図とともに鬼が隠れた者を捜し出す遊び。古くから行われた遊びで,『嬉遊笑覧』には,「かくれあそびはうつぼまた栄花物語などにかくれあそびのわらはげたることをいへるはいまのかくれんぼなり」とあって,初め「隠れ遊び」といわれてきたものが,化政期 (1804~30) には現在と同じく「隠れんぼ」と称されていたことがわかる。

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デジタル大辞泉プラス 「かくれんぼ」の解説

かくれんぼ〔曲名〕

日本の歌の題名。作詞:村田さち子、作曲:寺内タケシ。

かくれんぼ〔唱歌〕

日本の唱歌の題名。作詞:林柳波、作曲:下総皖一。

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世界大百科事典(旧版)内のかくれんぼの言及

【鬼ごっこ】より

…(9)陣取り型 〈陣取り〉の項参照。(10)かくれんぼ型 単に逃げまわるだけでなく,適当な場所を見つけ,身を隠しながら鬼の追跡をのがれる。 他にも木鬼,金鬼,高鬼など変型も数多くきわめて多彩である。…

※「かくれんぼ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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