かまくら

精選版 日本国語大辞典 「かまくら」の意味・読み・例文・類語

かま‐くら

〘名〙 雪国、主に秋田県に伝わる小正月(正月一五日)前後の子どもの行事。雪で作った室(むろ)の前で火を焚(た)いて鳥追いの歌をうたう。子どもたちは、幾日も前から室の中で遊び、一五日前夜には、餠や甘酒などを供えて神をまつる。正月小屋。鳥追い小屋。《季・新年》 〔諸国風俗問状答(19C前)〕

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デジタル大辞泉 「かまくら」の意味・読み・例文・類語

かま‐くら

秋田県の小正月(正月15日)の行事。子供たちが雪室ゆきむろを作り、その前で鳥追いさえの神の火祭りをする。大人が賽銭さいせんもちなどを持ってお参りに来ると、子供たちはこれに甘酒をふるまう。横手市のものが有名。また、その雪室のこと。 新年》「―の明一本の燭で足る/誓子

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「かまくら」の意味・わかりやすい解説

かまくら

秋田県に行われる小正月(こしょうがつ)行事の一つ。いまはすべて子供の行事で、道端などに縦横2メートルぐらいに雪を積み上げて固め、中を掘り広めて雪室(ゆきむろ)をつくり、莚(むしろ)や毛布を敷き、こんろを持ち込んで餅(もち)を焼いたり、甘酒を沸かして飲食し、また通りがかりの人にふるまって銭や餅をもらう。横手市のものは雪室の中に祭壇を設けて幣を立て、灯明をともして水神を祭る。かまくらという名称は、囲み、固めたこの雪洞(ゆきあな)の形からの命名で、竈(かま)や釜(かま)、あるいは地形名として各地にある「かま」や「かまくら」と同類のものである。神奈川県鎌倉市も同様の地形地名であるにすぎず、秋田の「かまくら」を鎌倉幕府や鎌倉権五郎と関係づけようとするのは、後世の付会である。この行事は、正月小屋、とんど小屋、鳥追い小屋と一連のもので、年の初めに遠来の神を迎えてもてなし、また小屋にこもって物忌みの生活を送ることが本旨であった。とんど小屋のほうは火祭りに興味の中心が移り、小屋生活の面が薄れているのに対して、かまくらは雪室であるため小屋生活のおもかげをいまに残したのである。同じ秋田県の秋田市東南部(旧河辺(かわべ)郡)あたりでは、これが鳥追い行事と結び付いており、名称も「かまくら」と「鳥追い」と両様によんでいる。田畑の中に5、6本の杭(くい)を立てて上を結わえ、周りに藁(わら)や炭俵を積んで火をつけ、燃える俵を棒に挿して振り回す。また、松明(たいまつ)を持って鳥を追いながら田畑を練り歩く。仙北(せんぼく)郡美郷(みさと)町六郷(ろくごう)では、「かまくら竹合戦」といい、青年たちが二手に分かれて青竹で打ち合う行事がある。文化(ぶんか)年間(1804~18)の記録にも、松明を振り回す「かまくら」を述べたものがある。

[井之口章次]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「かまくら」の意味・わかりやすい解説

かまくら

秋田県各地で旧暦小正月(1月14,15日)に行なわれてきた子供の行事の一つ。今日では月遅れで 2月に行なわれている。各地それぞれに特徴があるが,一般に知られているのは横手市の「横手のかまくら」(2月15日)で,路傍に雪で高さ 2m前後のかまど形の雪室をつくり,内部の正面に祭壇を設けて水神をまつる。餅,ミカン,甘酒などを供え,子供たちも食べる。通行人は餅や賽銭を供え,子供たちは甘酒をふるまう。美郷町六郷の「六郷のかまくら」では,雪壁にわら屋根を載せた鳥追い小屋と呼ばれる雪室に鎌倉大明神がまつられ,子供たちは 2月13日からほかの小屋を行き来して鳥追い歌をうたって過ごす。行事の最後,15日の晩には,鳥追い小屋に飾りつけていた天筆(てんぴつ)という願い事を書いた五色の紙を焼くとともに,南北二手に分かれた青年たちが青竹を打ち合う竹打ちがある。秋田市楢山太田町の「楢山のかまくら」は,雪壁をつくり木組みにわらをふいた屋根を載せた小屋に水天宮と鎌倉権五郎をまつる。ここではかつて,子供たちがほたき棒という柳の棒で通りがかりの女性の尻を叩くことが行なわれ,7日間の行事の最後,旧暦 1月14日夜に,雪室の屋根から抜き取ったわらに火をつけて振り回す火振りも行なわれていた。また,秋田市仁井田町では 1月15日の晩,角館では 2月14日晩に,火のついた炭俵を振り回す「火振りかまくら」が行なわれている。

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改訂新版 世界大百科事典 「かまくら」の意味・わかりやすい解説

かまくら

正月15日(現在は2月15日が多い)の夜に秋田県下で行われる子どもの行事,もしくはその際に作られる雪室。有名な横手のものは,道路脇に竈(かまど)形の雪室を作って正面奥に設けられた祭壇に水神をまつり,中で子どもたちが餅を焼いて食べたり甘酒を飲んで過ごすもので,良い飲料水を願う行事のように考えられている。しかしおそらくこれは横手独自の変化形で,本来は長野・山梨県から関東・東北地方にかけて分布する鳥追行事の一種と思われ,子どものこもる仮小屋が雪国ゆえに雪室となったのであろう。横手以外のものには小正月の火祭と結びついたものが少なくない。六郷町の竹打ちは左義長の火を竹竿でたたいて火によって身の不浄をはらおうとしたものであり,角館の〈火ぶりかまくら〉も同じ意味の行事とされる。江戸時代後期には秋田市の旧武家町でも,雪室を作って中に正月に用いた飾りの類を入れて大騒ぎしながら燃やすことが行われていたが,これは〈鳥追かまくら〉といわれた。
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百科事典マイペディア 「かまくら」の意味・わかりやすい解説

かまくら

秋田県下で小正月に行われる子どもの行事。井戸端や路傍に雪を積み,掘って雪室(かまくら)を作る。縦横2mぐらい,正面に祭壇を設け水神をまつる。灯明をともし供物を供え,餅(もち)を焼き甘酒などを飲む。左義長(さぎちょう)や鳥追行事を〈かまくら〉と呼んでいる所もある。
→関連項目正月小屋横手[市]

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日本歴史地名大系 「かまくら」の解説

かまくら

大森金五郎 大正一四年刊

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日本文化いろは事典 「かまくら」の解説

かまくら

本来「かまくら」とは、雪をくりぬいて作る家だけのことを指すのではなく、生活に密着した神様を祀る行事でした。現在では、東北地方で水神様をお祀りする行事として、主に小正月(1月15日〜20日頃)に行われています。

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事典 日本の地域遺産 「かまくら」の解説

かまくら

(秋田県横手市)
美しき日本―いちどは訪れたい日本の観光遺産」指定の地域遺産。

出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域遺産」事典 日本の地域遺産について 情報

デジタル大辞泉プラス 「かまくら」の解説

かまくら

株式会社リン・クルーが展開する居酒屋のチェーン。

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世界大百科事典(旧版)内のかまくらの言及

【かまど(竈)】より

…食物の煮炊きに用いる施設。
【中国】
 中国の新石器時代では,(てい)・(れき)など3本足のついた器と,鍋・釜など丸底の器とを用いて煮炊きした。前者は直接火にかけるので,かまどは不用である。後者は底を支える支脚ないしは胴部をかけるかまどを必要とする。初期の畑作農耕文化に属する磁山文化の土製支脚は古い例で,平底円筒形の器を支えている。初期稲作農耕文化に属する河姆渡(かぼと)文化(河姆渡遺跡)には,鍔付き釜あるいは(こしき)があり,かまどの存在が予想できる。…

※「かまくら」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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