松明(読み)タイマツ

デジタル大辞泉 「松明」の意味・読み・例文・類語

たい‐まつ【松明/×炬】

《「たきまつ(焚松)」の音変化か》松の樹脂の多い部分を細かく割り、束ねたもの。火をつけて照明に用いた。のち、竹やアシなども用いるようになった。打ち松。続松ついまつぎ松。松火。
[類語]行灯あんどん雪洞ぼんぼり提灯ちょうちん燭台手燭万灯灯台角灯灯籠雪見灯籠回り灯籠走馬灯石灯籠ランプランタンカンテラ

しょう‐めい【松明】

たいまつ」に同じ。

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精選版 日本国語大辞典 「松明」の意味・読み・例文・類語

たい‐まつ【松明】

〘名〙 (「たきまつ」の変化した語) 松の脂が多い部分、または竹や葦などを束ね、火を点じて照明に用いたもの。うちまつ。しょうめい。続松(ついまつ)。たきあかし。まつ。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「たいまつのひかり中将みるに」
[語誌]平安時代には、単に「まつ」とも言い、庭上で立てて使う場合は「たてあかし」「たちあかし」とも呼んだ。また、「ついまつ(続松)」と記した例も多く、両者は同じように使われたらしい。鎌倉室町時代になると「まつび」「まつあかし」「あかしまつ」などの呼び名も生まれた。

しょう‐めい【松明】

〘名〙
① 照明具の一つ。松の油の多い部分を細く割ったものや、竹・葦などをたばねて火をともすようにしたもの。たいまつ。
雑談集(1305)一〇「春日へ光儀有て、松明(セウメイ)をほく」
評判記色道大鏡(1678)一五「敵松明(セウメイ)をともして、爰かしことかけまはりつれど」 〔陸游‐雑題詩〕
油火のこと。
浮世草子男色大鑑(1687)一「同じ油火も松明(シャウメイ)進むると云なし」

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改訂新版 世界大百科事典 「松明」の意味・わかりやすい解説

松明 (たいまつ)

灯火具の一種。枯れた松の脂(やに)の多い部分を集め,たばねてつくる。神話では伊弉諾(いざなき)尊が黄泉国(よみのくに)を訪れるとき,櫛の男柱を欠いて燭(しよく)としたとつたえる。国語の〈たいまつ〉は〈たきまつ(焼松)〉の音便であろう。手火松(たひまつ)とする語源説は文献からは成立しない。松を灯火に用いるには,〈ひで〉(根の脂の多い部分)をこまかく割って台の上で燃やすことが,近年まで日本の山村や中国の一部で行われており,松脂をこねて棒にした〈松脂ろうそく〉も用いられていた。平安時代の物語などにみえる〈ついまつ(続松)〉はこの松脂ろうそくのことと思われ,〈たいまつ〉は主として屋外用に,〈ついまつ〉は屋内用に併用されていたようである。中国では古くたいまつの材料には葦が使われることが多かったようで,《正字通》に〈滇人(てんじん)(滇は雲南省)松心をもって炬(きよ)となし,号して松明という〉とあり,《燕間録》に〈深山老松の心,油あること蠟(ろう)のごとし。山西人多くもって燭に代え,これを松明という〉とあるなど,松を灯火に用いるのは異民族の風習として珍しがられた。日本では《令義解(りようのぎげ)》の軍防令に,たいまつは,かわいた葦を心にして,かわいた草で節々をしばり,しばったまわりに松明(しようめい)(脂ある松)をはさんでつくると規定されている。近世の《和漢三才図会》によると,ふつう細い竹を心として,脂のある松,クヌギ,杉などを細く割ったものでつくり,鉄の帯でもとを巻いた。長さ3尺(約1m)くらいで,1時間あまりもつという。福島県須賀川市の〈たいまつあかし〉の行事は,旧暦10月10日の夜に手に手に火をもった青年が丘に集まり,火をふりまわして藪を焼きはらう。ムジナ退治が起源であるといいつたえるが,古くその行事の行われた丘を十日山とよぶように,全国的な〈十日夜(とおかんや)〉の農耕儀礼の一つにほかならない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「松明」の意味・わかりやすい解説

松明
たいまつ

灯火の一種。タケ、マツなどの割り木を手ごろな太さに束ね、その先端に点火し、手に持って照明としたもの。ほかにカヤ、アシ、苧殻(おがら)、枯れ葉なども資材とした。古くは、手に持つ灯火を「秉炬」「手火」と書いてタビと読み、いまもこれをタイといっている地方がある。のちに「炬火」「焚松」「松明」などと書いてタイマツとよぶようになった。今日、タイマツと読まれている松明の語は、本来は、脂(やに)の多い松材の意で、続松(ついまつ)、肥松(こえまつ)のこと。松明には、手に持つもののほか、柱松明(たちあかし)といって、儀式などの際に地面に植えて庭上を照明するもの、投松明(なげたいまつ)といって、夜討ちに際して敵陣に投げ込むもの、車(くるま)松明といって、松明を十文字に組み合わせ、その中央を束ね、三方の先端に火をつけ、敵中に投じて照明とするものなど、いろいろのものがあった。ほかに松明の占手(うらて)といって、松明の燃えぐあいで、その日の夜討ちの運勢を占うことなども行われた。また、民間の習俗としても、清めのために嫁の尻(しり)を藁(わら)松明でたたくことや、投げた松明が消える、消えないで吉凶を占う松明占(うら)などが行われていた。このように松明は、戸外で用いる灯火として、宮廷・武家の儀式、軍陣、葬送などをはじめ、広く民間でも行われてきたが、今日では、大松明に火をかける松明祭の神事や、社寺の祭礼、芸能の場で、わずかに使用されているにすぎない。

[宮本瑞夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「松明」の意味・わかりやすい解説

松明
たいまつ

マツのやにの多い部分をタケやカヤ,枯れ草などと束ね,その先端に点火して照明に用いたもの。起源は古く,『日本書紀』にイザナギノミコトが湯津爪櫛 (ゆつのつまぐし) の雄柱を折って秉炬 (たび) としたことが記されており,『万葉集』には志貴皇子の葬儀に人々が手火 (たび) を持って葬送したことが詠まれている。のちに炬火,松明,焼松,焚松などと書いて「たいまつ」と読むようになったが,いまでも手火と呼ぶ地方もある。屋外の照明から宮廷,武家,民間を問わず儀式,軍陣,葬送などに広く用いられた。 (→あんどん , ちょうちん )

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百科事典マイペディア 「松明」の意味・わかりやすい解説

松明【たいまつ】

枯れて脂(やに)の多いマツを束ねた携行用灯火。《和漢三才図会》には,細いタケを心にマツ,クヌギ,スギなどを細く割って作り,もとを鉄の帯で巻くとあり,約1mで1時間もつという。古来マツはひで(脂の多い根)を裂いて台上で燃やしたり,松脂をこねて蝋燭にして照明にした。平安時代の続松(ついまつ)も松脂蝋燭らしい。

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普及版 字通 「松明」の読み・字形・画数・意味

【松明】しようめい

たいまつ。

字通「松」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の松明の言及

【たいまつ(松明)】より

…平安時代の物語などにみえる〈ついまつ(続松)〉はこの松脂ろうそくのことと思われ,〈たいまつ〉は主として屋外用に,〈ついまつ〉は屋内用に併用されていたようである。中国では古くたいまつの材料には葦が使われることが多かったようで,《正字通》に〈滇人(てんじん)(滇は雲南省)松心をもって炬(きよ)となし,号して松明という〉とあり,《燕間録》に〈深山老松の心,油あること蠟(ろう)のごとし。山西人多くもって燭に代え,これを松明という〉とあるなど,松を灯火に用いるのは異民族の風習として珍しがられた。…

【灯火】より

…夜間や暗所で明りをとるための灯火として,最も基本的なものは炉火,松明(たいまつ),ろうそく,ランプの4種であった。
[炉火]
 人間の住居として欠かせない要件は,外界から居住空間を区画する建物と,その内部に燃えるである。…

※「松明」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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