てにをは

改訂新版 世界大百科事典 「てにをは」の意味・わかりやすい解説

てにをは

日本語の単語の1類の名称で,助詞または助詞・助動詞にほぼ当たる。この名は鎌倉時代の初めから見え,やや後に〈てには〉ともある。これらの名は漢文訓読の際に用いる〈をこと点〉から出た。〈をこと点〉には各種の点式があるが,博士家で用いた点式での点のよび方によるものが〈てにをは〉で,〈てには〉はその略とも,また別の点式によるものともみられる。この名で一括されるものは,〈をこと点〉で示されるような語一般であるらしい。

 〈て,に,を,は〉の4語は古く《万葉集》にも,その文法的機能の特性がすでに意識されていたことを示す歌がみえ,今日でも使用度数のひじょうに大きい助詞であって,〈をこと点〉の点図中の主要位置を占め,1類の語の代表としてよばれるのは不思議でない。漢文訓読に際して発したのであるが,鎌倉時代には順徳院の《八雲御抄(やくもみしよう)》のように,歌学上の術語として助詞や助動詞用法適否を論ずるのにこの名を用いることになったのである。藤原定家の著と伝えられてきたが,鎌倉末期か室町初期の成立とみられる《手爾葉大概抄(てにはたいがいしよう)》は,語を〈手爾葉〉と〈詞〉とに大別し,対比させている点が注目される。その他〈てにをは〉を説く歌道書には宗祇《手爾葉大概抄之抄》や,《姉小路式(あねがこうじしき)》《歌道秘蔵録》《春樹顕秘抄(しゆんじゆけんぴしよう)》等があり,それらはある場合には今日の助詞・助動詞のほかに動詞の活用語尾その他の接尾語などを含み,分類はくわしくないが係り結びの法則や文末助詞の用法に主眼がある。江戸時代では副詞接続詞の類まで含めた書もある。助詞・助動詞そのものの研究は,栂井(とがのい)道敏《てには網引綱(あびきつな)》,富士谷成章《あゆひ抄》,本居宣長《詞玉緒(ことばのたまのお)》以下で,分類と用例実証の面で研究は一新された。

 〈てにをは〉の名を助詞に限定して用いたのは大槻文彦《広日本文典》である。今日では品詞分類上,助詞といい助動詞といい,総括して付属語また辞(じ)とよぶので,術語としては〈てにをは〉を用いない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「てにをは」の意味・わかりやすい解説

てにをは

「てには」ともいう。漢文訓読の際に付される「ヲコト点(乎古止点)」より発した語。ヲコト点のうち、博士家(はかせけ)点などに用いられる(田の字に似た四角形の)四隅の点を左下から右回りに順に読むと「てにをは」となり、そこに起源が求められる。この起源を明らかにしたのは江戸時代の栂井道敏(とがのいみちとし)の『てには網引綱(あびきづな)』である。室町時代から「てにをは」は「出葉」の意で、草木の名前も春にその葉が出て明らかとなるが、表現も「てにをは」がついてその内容が明らかとなるところからの名称という考えが伝わっていたのを否定して出されたもの。源師時(もろとき)の日記『長秋記(ちょうしゅうき)』にヲコト点を「てにをは点」とよんだ例もあり、道敏の説は確実なものとして認められている。鎌倉時代以後、和歌や連歌(れんが)の世界では、語句の続き方の可否を定める際の語として使われるようになり、以後、「てにをはが合わない」のような言い方が残る。「てにをは」は、その由来からいって、漢文訓読の際に補読される語の意味で、助詞・助動詞など種々の語を含む名称であるが、「て・に・を・は」のそれぞれが助詞であることから、助詞の代名詞的な使われ方もする。「てにをは」を品詞分類の一名目として最初に用いたのは鈴木朖(あきら)の『言語四種論(げんぎょししゅろん)』。以後、「動かぬてにをは」「動くてにをは」などの呼び方で、助詞・助動詞の総称という使われ方もする。

 品詞の一名目として「てにをは」を用いることは明治時代以後の文法でも行われたが、西欧文典の浸透に伴い、品詞名は、その訳語としての漢語名に統一される傾向になっていき、現在の文法論で「てにをは」を品詞名とすることはない。従来の流れを受け、「助詞の別称」「助詞・助動詞の類の別称」「語句の続き具合」といった意味の語として使われる程度である。

[山口明穂]


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世界大百科事典(旧版)内のてにをはの言及

【国語学】より

…後に述べる契沖の研究は,これに対する反論である。また鎌倉時代から室町時代にかけて,しだいに,〈てにをは〉の問題が,修辞の面から注意を払われ,これが,後世の文法研究の源をなすのである。字書の編纂は,古くから行われた。…

※「てにをは」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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