〘助動〙
[一] (「でさうらふ」の下略「でさう」が変化したものといわれる) 丁寧な断定の意を表わす。…でござる。狂言で、主に大名・鬼・山伏(ときに奏者も)の名乗りなどに、尊大の
語感をもって用いられる。
※虎明本狂言・
入間川(室町末‐近世初)「罷出たる者は、
東国にかくれもなひ大名です」
[二] (「でござります」→「でござんす」→「であんす」→「でえす」→「です」の
経路で生じたものという) 丁寧な断定に用いる。
(イ) 江戸中期は、遊女・
男伊達・医者・職人など限られた人々の間でほとんど
文末の終止にだけ用いられた。でげす。
※
咄本・軽口機嫌嚢(1728)一「まひ日出ましたれど、いまはこころまかせのしゅぎゃうです」
※人情本・春色江戸紫(1864‐68頃)初「
吾儕(わちき)に限っちゃア大丈夫ですワ〈略〉身につまさるるやうですねへ」
(ロ) 江戸末期、助
動詞「だ」の丁寧体として、終止形以外に未然形「でしょ(う)」、連用形「でし(た)」などの活用形や、「ですが」「ですから」などの用法が一般化した。明治以前は遊里、
芸人の語とされ、明治以後、広く用いられるようになったものの、しばらくは上品でない語感を保ち、現在でも、「です」より一段丁寧なものとして「でございます」が用いられる。
※人情本・春色玉襷(1856‐57頃)初「駒はんはとんだことでしたネ」
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉一「何ですネヱ。お待なさいよ」
※蝴蝶(1889)〈山田美妙〉二「腰を掛けて居るのは、前回に見えた蝴蝶といふ少女です」
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉電影「漸く一本立となったです」
(ハ) 「ば」「から」「て」などの助詞を伴う接続の語句を受けて文を終止し、また、間投助詞のように連用または接続の語句につけて用いる。「たとえ僕がですね、どんなに説明してもですね、納得してくれないでしょう」
※小公子(1890‐92)〈若松賤子訳〉前編「なぜかといふと〈略〉馬と荷車が置いて在ったからです」
※青い海黒い海(1925)〈川端康成〉第一の遺書「私はこのどうしやうもない事実を、その時初めてほんとに心で掴んだのでした。〈略〉しかしです。〈略〉私にとっては、きさ子は二十になってゐないとも言へるのです」
[語誌](1)明治に入って「です」体をとる洋学会話書の出版が続き、「です」の普及の先駆けを果たしたともいわれる。活用語に接続する例は幕末期にも散見するが、明治二〇年代には「でしょう」の使用が普通になった。
(2)「です」は「だ」「である」と同様、体言、副詞、または活用語の連体形に助詞「の(ん)」を伴ったものに付いて説明の語気を加える。「でしょう」の場合には活用語の連体形に直接して単なる推量を、「でした」の場合には「ません」に直接して単なる過去を表わす。また、終止形「です」も、主として形容詞活用の活用語や助動詞「た」などに直接して丁寧表現として用いることが多い。これらは、動詞のように「です」を伴うことのできないことへの補いとして生じた語法であるが、一般に、活用語が「です」を直接伴うことは標準的とは考えられていない。
(3)学校文法では「豊かだ」「平気だ」など形容動詞の丁寧体として、その活用語尾「だ」の代わりに助動詞「です」を用いると説く。