ない

精選版 日本国語大辞典 「ない」の意味・読み・例文・類語

ない

〘助動〙 (現代語の活用は「なかろ(なから)・なく・なかっ・ない・ない・なけれ・◯」。動詞、助動詞「せる」「させる」「しめる」「れる」「られる」「たがる」の未然形に付く打消の助動詞)
① 打消を表わす。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「Aguenai(アゲナイ)。Yomanai(ヨマナイ)。Narauanai(ナラワナイ)。Mǒsanai(マウサナイ)
※雑兵物語(1683頃)上「思ひの外に死なないで、今に命が生てねまる」
② (「か」「かしら」などを伴って) 否定的叙述の疑問を表わす。また、婉曲に命令・希望・勧誘・依頼する意を表わす。
※洒落本・遊子方言(1770)「貴さまいっそかわないか、出来てゐようから」
[語誌](1)起源は、上代東国語の助動詞「なふ」であるとする考え方がある。ただし、「ない」は文献室町末から関東方言として現われるが、上代との間を結びつける証例は得られない。→なう
(2)近世前期の「雑兵物語」「やっこはいかい」などでは、「ない」以外の活用形は見られない。近世後期の江戸語では、打消は「ない」より「ぬ」が一般的である。「口語法別記」(一九一七)では、「ず、ぬ、ね」と「なく、ない、なけれ」について、地方分布を説いた上、「因て、二つながら、通用させる事にした」としている。国定教科書では「尋常小学読本」(一九〇七)以来、「ない」が優位を占めるようになり、今日普通の口語文では、特別の場合のほか、ほとんど「ない」である。
(3)今日のような活用をするようになったのは、後期江戸語以来と考えられている。それは形容詞の活用に類推したものである。ただし、その初めは、「なかった」よりも「なんだ」、「なければ」よりも「ないければ」の言い方のほうが普通である。
(4)江戸語の話しことばとしては、「ない」の形はしばしば「ねえ」の形で現われる。「ねへ」「ねへでも」「ねへければ」など。
(5)各活用形のうち、(イ)未然形「なから(なかろ)」は、ごくまれに用いられた。「人情・花筐‐二」の「この頃うちは種種取込んで居たから、五七日も来なからうが、そりゃア常の事た」など。(ロ)連用形には「なく」「なかっ」の両形がある。「なく」は、「なくて」「なくなる」に用いられる。単独に中止法に用いることは標準的でない。「なくて」の場合、往々「なくって」の形になる。「洒・古契三娼」の「指がどこへかとんで、見えなくなったのさ」、「洒・婦身嘘‐鎌倉和倉下伊蔵茂屋の楼上」の「ゆっくりはなしもできるから、いかなくってよければ、よしなよ」など。「なかっ」は「た」を伴う。「人情・仮名文章娘節用‐後」の「四五日おれが来なかったから」など。なお、「ないで」の「ない」、また「ないで」全体を「ない」の連用形と考える説もある。→ないで。(ハ)已然形「なけれ」は助詞「ば」に続くとき現われるが、「なければ」に先立っては「ないければ」が普通であった。それは、「ない」に「けれども」と同様に助詞としての「ければ」が付いたものと考えられる。「洒・富賀川拝見‐山本屋の段」の「十ぶんな事をして貰はねへければ、おめへもむねがすみやすめへ」など。「なければ」は「なけりゃ」「なきゃあ」となることがある。「洒・郭中奇譚‐船窓笑語」の「わたしかさんに見せなけりゃならぬ」、「人情・春色江戸紫‐二」の「室町へ帰さなきゃアならない理屈」など。
(6)助動詞「そうだ」、動詞「すぎる」には語幹「な」から続く。「できなそうだ」「できなすぎる」など。形容詞「ない」の場合と同様に、接尾語の「さ」を伴うこともある。「できなさそうだ」「できなさすぎる」など。
(7)一般に動詞および動詞活用の助動詞に付くが、(イ)動詞「ある」と助動詞「ます」には接続しないのが通常である。ただし、文献には、次のような例が見える。「浄瑠璃心中宵庚申‐上」の「せく事はあらない」、「滑・八笑人‐二」の「其様なお客はいりましねへ」など。(ロ)サ変動詞「する」は、未然形「し」に付くのが普通であるが、まれに、「せ」に付くことがある。「浄・平仮名盛衰記‐二」の「母人の伽はせないで何をほざく」、「病牀六尺正岡子規〉」の「今日の時勢に敵せないものを改良して行く」など。なお、東北方言には「さ」に付くものがある。カ変動詞「来る」には、未然形「こ」に付くが、関東方言には「き」に付くものがある。
(8)形容詞、形容動詞、助動詞などの連用形、または、それに助詞「は」「も」の付いたものに付く「ない」は、普通、形容詞「ない」の補助用言としての用法とみる。

ない

〘感動〙
① 相手の呼びかけに答えて発することば。江戸時代、武家に仕える下僕(中間・小者・奴)などが用いた。はい。
※浄瑠璃・薩摩歌(1711頃)上「ないといらへてふり出す手さきあがりの頭八ぶん」
※浄瑠璃・夕霧阿波鳴渡(1712頃)中「『〈略〉八つ時分迎ひに来い』『ない』」
② 相手の注意をひこうとして呼びかけるとき発することば。なあ。
※破戒(1906)〈島崎藤村〉四「ない(なあと同じ農夫の言葉)、〈略〉貴方もそれぢゃいけやせん」

な・い

〘接尾〙 (形容詞型活用) な・し
(形容詞ク活型活用) 性質・状態を表わす語(多く、形容詞語幹・形容動詞語幹など)に付いてその意味を強調し、形容詞化する。「苛(いら)なし」「うしろめたなし」「切(せつ)ない」「はしたない」など。また、「大層もない」「滅相もない」など、「も」のはいった形もある。
※かた言(1650)一「けふの御成(おなり)は冥加なひ御ことにてさふらふ」

ない

〘名〙 植物「あかりんご(赤林檎)」の古名。
※本草和名(918頃)「㮈 又有林檎〈相似而小〉和名奈以 一名布奈江」

ない

(助動詞「なる」の命令形) ⇒なる

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デジタル大辞泉 「ない」の意味・読み・例文・類語

ない[助動]

[助動][なかろ|なく・なかっ|ない|ない|なけれ|○]動詞・助動詞「れる」「られる」「せる」「させる」「たがる」の未然形に付く。
動作・作用を打ち消す意を表す。「悪い本は読まない
足下そっかのやうにものをいうては論がない」〈滑・浮世床・初〉
文末にあり、上昇調のイントネーションを伴って、発問・勧誘を表す。「学校から通知が来ない」「そろそろ出かけない」→ないかないでなかったなくてならない
[補説]「ない」は室町末期以来主に東日本で使われているが、終止形・連体形以外の用法はきわめて少ない。「ず(ぬ)」に代わって打消しの助動詞として用いられるようになったのは、江戸後期からである。語源については、打消しの助動詞「ぬ」を形容詞化したとみる説、形容詞「なし」、または、東国方言「なふ」の音変化説など諸説がある。「ない」がサ変動詞に付くときは、「しない(じない)」の形をとる。また動詞のうち「ある」には付かない。2は、話し言葉に用いられるが、終止形用法に限られ、ほとんど打消しの意が失われているところから、終助詞として扱うこともある。

ない[名]

《「な」は地、「い」は居の意》
大地。地盤。「ないる」「ないる」などの形で、地震が起こる意で使われることが多い。
下動とよみ―が揺り来ばれむ柴垣」〈武烈紀・歌謡〉
地震。
「恐れのなかに恐るべかりけるはただ―なりけり」〈方丈記

ない[感]

[感]武家に仕える中間ちゅうげんやっこなどが呼ばれて答えるときなどに発する語。はい。
「『馬取り共その間、宮へ行て休息せい』『―』」〈浄・鑓の権三

な・い[接尾]

[接尾]《形容詞型活用[文]な・し(ク活)》形容詞・形容動詞の語幹など性質・状態を表す語に付いて形容詞をつくり、その意味を強調する。「あどけ―・い」「せわし―・い」「切―・い」「はした―・い」

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