フランスの作家ジュール・ルナールの長編小説。1894年刊。作者の自伝的要素が濃い。主人公の少年は、顔がそばかすだらけで赤い髪をしているので「にんじん」とよばれている。父親ルピック氏はお人よしだが、母親ルピック夫人は口やかましく少々意地が悪い。姉と兄はずる賢い。「にんじん」は母親になじめず、「家庭とは憎み合う同士が住むところ」と考え、納屋で自殺を図る。しかし、すんでのところで父親の人間性に救われる。作者はルピック夫人の生き方を通して人間のエゴイズムをも描き出す。詩情をたたえる簡潔な文体が、作品全体をヒューマンな雰囲気でくるんでいる。1900年、作者自身の手で一幕の戯曲となり、アントアーヌ座で初演され、好評を博した。
[窪田般彌]
フランス映画。1894年に出版されたジュール・ルナールの自伝的小説をもとに、ジュリアン・デュビビエ監督が1925年と1932年に2度映画化した。後者は1934年(昭和9)に日本でも公開されて、キネマ旬報ベストテン第3位となり、絶大な人気を博した。映画評論家の南部圭之助(なんぶけいのすけ)(1904―1987)は「デュビビエの出世作で、これによって彼はルネ・クレールの線に達し、次第にクレールを抜いて行った」と高く評価した。息子役のロベール・リナンRobert Lynen(1921―1944)と父親役のアリ・ボールHarry Baur(1880―1943)も絶賛された。赤毛のゆえに両親にまで「にんじん」(原題は「にんじんの毛」)とよばれる少年の夏休みを描いたもので、いじめられる少年の立場からみた厳しい世界が描かれる。自暴自棄になった主人公が自殺を企てるほど暗い内容だが、若いお手伝いのアネットと親しくなり、最後には町長となった父親と心が通じ合うなど、後半にかけて明るさがみえてくる。最後に父親は息子を「にんじん」ではなく、「フランソワ」と実名でよぶ。
[古賀 太]
『『にんじん』(岸田国士訳・岩波文庫/窪田般彌訳・角川文庫)』
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