のに

精選版 日本国語大辞典 「のに」の意味・読み・例文・類語

の‐に

(格助詞「の(一)①」が接続助詞「に」の前に介入したもの) 用言連体形を受ける。→語誌(1)。
[1] 〘接助〙
(イ) 予期しない結果に対して意外に思う気持を表わす逆接条件を形成する。
狂言記・皸(1660)「ゆるすといふのにおわれをろ」
(ロ) 逆接的な意のない場合にも用いられることがある。
人情本・英対暖語(1838)三「併(しかし)お前は上品だのに肌目が細かひから、汗なんぞをおかきではなひネ」
[2] 〘終助〙 (接続助詞「のに」の後件が自明の事として略されたもの) 予想に反した意外な気持や、期待外れの不満を表わす。
歌舞伎傾城壬生大念仏(1702)中「『それは戒名じゃ』『戒名は山田といふのに』『我が言ふは名字といふ物じゃ』」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉六「そんなら、さう仰っしゃればいいのに」
[語誌](1)(一)(ロ)の挙例のように断定助動詞「だ」および形容動詞に付く場合、古くは終止形を受ける。しかし、「だ」については古くは連体形の「だ」も考えられ、語源の上からも連体形接続とする方が考えやすい。→助動詞「だ」
(2)近代に入ると「色々な噂が耳に這入った筈なのに」〔或る女〈有島武郎〉前〕などのように「…なのに」という形が現われ始め、現在では「だのに」よりこの形の勢力が強くなっている〔湯沢幸吉郎「現代口語の実相」〕。
(3)「のに」は「に」に代わって元祿一六八八‐一七〇四)の頃から現われるが数は少なく、江戸後期には多く使われるが、なお「に」の勢力も強い。現在では「のに」を用いるのが普通である。→接続助詞「に」
(4)まれに文頭に来て接続詞的に用いられる。「まだ間がある。のに日は落ちた」〔虞美人草〈夏目漱石〉一四〕など。
(5)「此暑いのに、何が楽しみで気のつまる本を見る」〔咄・聞上手‐格子作り〕、「昨日あの降るのに夜通し歩いて」〔人情・春色雪の梅‐四〕のような「のに」は、接続助詞ではない。「此」「あの」は下に体言を期待する語であるから「の」は名詞的性格を持つ格助詞であり、「に」も格助詞と見るべきである〔湯沢幸吉郎「江戸言葉の研究」〕。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「のに」の意味・読み・例文・類語

のに[接助・終助]

[接助]準体助詞「の」+接続助詞「に」から》活用語の連体形に付く。内容的に対立する二つの事柄を、意外・不服の気持ちを込めてつなげる意を表す。「東京は晴れなのに大阪は雨だ」「十分言い聞かせたのに理解していない」「九月だというのに真夏の暑さだ」
「それはまあ、よく忙しい―、気をつけておくれだ」〈人・娘節用・後〉
[終助]の文末用法から》活用語の連体形に付く。不平・不満・恨み・非難などの気持ちを表す。「これで幸せになれると思ったのに」「いいかげんにすればいいのに
「あれほど待って居てくんなといふ―」〈滑・浮世風呂・二〉
[補説]近世以降用いられ、近代になって多用されはじめた。他の逆接の助詞「けれども」「が」などに比べると逆接の意が強い。

の‐に[連語]

[連語]《準体助詞「の」+格助詞「に」》
…時に。…場合に。「地震が来るのに備えておこう」
…のものとして。「儀式用のには不適当だ」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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