はげ山(読み)はげやま

改訂新版 世界大百科事典 「はげ山」の意味・わかりやすい解説

はげ山 (はげやま)

一般的には樹木の生えていない山のことを称するが,これは茂った山になる能力をもちながら,伐採や山火事によって一時的に樹林を失っているにすぎない。真のはげ山とは樹木が再生するだけの土壌を失い,荒廃した地肌の露出している山である。これは本来日本のような高温多湿の地方に天然に形成されることはまれで,年間の大半が乾燥し樹木の生育に不利な地方に発達しており,人類や草食獣の作用で樹木が失われ,その結果露出した土壌が急速に雨や風によって浸食亡失した場合に生ずる。日本ではげ山が著しく発生したのは,近世に樹木の伐採や草地の過利用(おもに燃料および緑厩肥用として)によって,植物の再生が妨げられた結果であった。ことに人口の集中する商工業地帯に近接する里山(さとやま)にその傾向が認められ,幕末に東海道沿岸を観察したドイツの地理学者リヒトホーフェンF.von Richthofen(1833-1905)は,風景はすべて赤茶けた土山であると記した。山土の流亡はことに地質的に粘土質に乏しい花コウ岩の深層風化や第三紀の砂礫層で構成された丘陵に著しく,もっとも著しいのは近畿地方の諸盆地をめぐる山々と瀬戸内海沿岸部とであった。これら丘陵から流下する土砂によって,多くの河川は河道が高まりいわゆる天井川を形成し,洪水によって氾濫しまた沿岸耕地を湿地化するなどの影響がはなはだしかった。こうした丘陵地砂防工事が施され,はげ山景観がほとんど消滅したのは,造林事業と燃料,肥料の変化に伴う,1960年以降の現象といえる。しかし,朝鮮半島や中国南部などアジア各地には,今なおはげ山はまれではない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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