まい

精選版 日本国語大辞典 「まい」の意味・読み・例文・類語

まい

〘助動〙 (活用は「◯・◯・まい・まい・(まいけれ)・◯」。「まじ」の口語形。一般に、五(四)段活用の動詞には終止形に、その他の動詞には未然形に付く。→語誌(1))
① 当然・適当の意の打消を表わす。…はずがない。…べきでない。
※漢書列伝竺桃抄(1458‐60)公孫弘卜式児寛第二八「学問をせいではかなうまい事ぢゃけると思たものぞ」
② 禁止の意を表わす。…してはならない。…するな。
※百丈清規抄(1462)四「左手では灰や土をばとるまいぞ」
③ 否定的に推量する意を表わす。…ないだろう。
※虎明本狂言・鼻取相撲(室町末‐近世初)「誠にあひてがなくはせうぶがしれまひ」
④ 否定的な意志を表わす。…ないつもりだ。…ないでおこう。
歌舞伎・仏母摩耶山開帳(1693)二「今となって、網干へ行くまいとぬかし、身に大分の損をかくる」
⑤ (「…うと…まいと」「…うが…まいが」などの対比の形で) 動作・作用・状態を対比し、その肯定の場合、否定の場合どちらにしても関係のない意を表わす。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「不思議な事に此時丈は後足二本で立つ事が出来た。何だか猫でない様な感じがする。猫であらうが、あるまいが斯うなった日にゃあ構ふものか」
⑥ (「あるまいし」の形で)
(イ) 打消の条件を伴った理由を表わす。…ないのだから。
※歌舞伎・傾城江戸桜(1698)中「兄ではあるまいし意見はいらぬもの」
(ロ) 打消の意を伴った逆接条件を表わす。…ないのに。
人情本・清談若緑(19C中)初「他人ぢゃアお在んなさるまいし、〈略〉お堅いことばかり仰被ますネへ」
⑦ (「あるまいに」の形で) 事実反対を仮想する意を表わす。
⑧ ⇒まいか
[語誌](1)接続について、(イ)近世までの接続は、四段活用とナ変の動詞には終止形に、ラ変には連体形に付くのが普通であるが、中世室町時代)・近世を通じて、未然形に付いた例もまれにみられる。「長ては魚の中には入らまいぞ」〔史記抄‐一〇〕など。(ロ)一、二段活用とカ変の動詞には未然形に付くのが一般であるが、終止形に付く場合もある。(ハ)サ変には、未然形に付く「せまい」の他、「しまい」の形もみられ、文語的に「すまい」となる場合もある。「人情本・春色梅児誉美‐四」の「娣(いもと)もなかなか得心しまい」など。(ニ)現代語では、五段活用動詞には終止形に、上一段、下一段、カ変、サ変(「し」)の動詞・助動詞には未然形に付くほか、一段動詞の場合、終止形にも、カ変・サ変の場合、「くまい」「くるまい」「すまい」「するまい」のようにも接続する。
(2)活用形は、終止・連体・已然の三つに限られる。(イ)已然形「まいけれ」は、室町時代以後、文語「まじけれ」の口語形として「ども」に続く場合に用いられたものであるが、近世以後「まい」と「けれども」とに分割されて「けれども」が接続助詞化した。(ロ)連体法は、近世以後次第に少なくなり、現代語では「あろうことか、あるまいことか」「ゆくまいものでもない」など限られた表現にのみ用いられ、肯定の「う」「よう」の場合と同じく、終助詞的性格を強めている。また、「まい」の代わりに、「…ないだろう」「…ないでおこう」などの表現の用いられることが多い。
(3)語源については「まじ」に起源が求められる。

まい

〘助動〙 (助動詞「ます」の命令形「まし」の変化した語) 軽い敬意をこめた命令を表わす。…なさい。
※虎明本狂言・地蔵舞(室町末‐近世初)「ぢざうまいをみまいな、みまいなと、はやさせられひ」

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デジタル大辞泉 「まい」の意味・読み・例文・類語

まい[助動]

[助動][○|○|まい|(まい)|○|○]五段活用動詞・助動詞「ます」の終止形、五段活用以外の動詞・助動詞「せる」「させる」「れる」「られる」「しめる」の未然形に付く。ただし、サ変では「せ」のほか「し」の形の未然形や、終止形「す」「する」にも付き、また、カ変は終止形「く」「くる」に付くこともある。
打消しの推量の意を表す。…ないだろう。
「よもや化物ばけものではあるまい」〈漱石草枕
「我ホド不運ナ者ワマタモゴザルマイ」〈天草本伊曽保・パストルと狼〉
打消しの意志の意を表す。…ないつもりだ。「何があっても泣くまいと決心した」
「人は嫁するとも我は嫁せまい。我は貞女ぞ」〈毛詩抄・二〉
禁止の意を表す。…てはいけない。
「はずれたら笑うまいぞ」〈鴎外・佐橋甚五郎〉
「よい時分に迎へに行く程に、必ず物をいふまいぞ」〈虎寛狂・金津〉
(「…まいか」の形で)勧誘・依頼の意を表す。「少しでもいいから寄付をしてくれまいか」
「是はめでたい事ぢゃ程に、いざはやし物をして戻るまいか」〈虎明狂・三本の柱
(「…うと…まいと」などの形で)動作・作用を対比し、どちらも関係のない意を表す。「話そうと話すまいとぼくの自由だ」
(現代語では多く「あろうことかあるまいことか」「なろうことかなるまいことか」の形で)否定するのが当然・適当である意を表す。…するべきではない。…するはずがない。「あろうことかあるまいことか、子を殺すなんて」「思いどおりになろうことかなるまいことか、しっかり考えてみろ」
(「あるまいし」の形で)
㋐打消しの意を伴った逆接条件を表す。…ないのに。「選手になれるわけでもあるまいし、よくおそくまでがんばるね」「身内でもあるまいし、よくそんなに面倒みられるね」
㋑打消しの条件を伴った理由を表す。「もう子供ではあるまいし、自分のことは自分でやりなさい」
「兄ではあるまいし、意見はいらぬもの」〈伎・傾城江戸桜〉
(「…まいに」の形で)事実と反対を仮想する意を表す。「実の親だったらあんなしうちはしまいに」
[補説]室町時代以降に用いられた語で、「まじ」の音便形「まじい」の音変化から、「べし」と「まじ」の意味的相関関係から、また「べい」と「まじい」との対比で「べしい」形とこの「まい」形が生じたとする説などがある。室町時代には、「まじけれ」の口語形として、「水の中では見えまいけれども詩人が言ひなすぞ」〈毛詩抄・二〉のように已然形「まいけれ」も生じた。現代語では、1には「ないだろう」2には「ないことにする」「のはよそう」などを用いるのが普通で、「まい」が用いられることは少なくなっている。

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