〘助動〙 (活用は「〇・まじく・まじ・まじき・まじけれ・〇」。補助活用は「まじから・まじかり・〇・まじかる・〇・〇」。動詞型活用語の
終止形に付く。ただし、ラ変型活用語(形容詞・
形容動詞)には
連体形に付く。→語誌) 「べし」の打消に相当し、推量・意志などの強い打消を表わす。
① 不適当であるとの判断、または、しないことが当然・
義務である意を表わす。…ないほうがよい。…のはずがない。…べきでない。
※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「為不(マジキ)行を為言ふ不(マジキ)行を為」
※土左(935頃)承平五年二月一六日「かくて京へ行くに、島坂にてひとあるじしたり。必ずしもあるまじきわざなり」
② 禁止、または、しないことを勧誘する意を表わす。…ないようにせよ。
※
落窪(10C後)三「三日は、爰のものは外へは持ていくまじ」
③
否定的な意志を表わす。…しないでおこう。…しないつもりだ。
※竹取(9C末‐10C初)「み命のあやうさこそおほきなるさはりなれば、猶つかうまつるまじきことを」
※
平治(1220頃か)中「にくいやつばら。
一人もあますまじ」
④ 否定的な推量の意を表わす。否定的に予想し、また推定する。きっと…ないだろう。…ないに違いない。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)「十千の魚有りて、日の為に暴(さら)されて、将に死なむこと久しくある不(マジ)」
※竹取(9C末‐10C初)「重き病をし給へば、え出おはしますまじ」
⑤ 不可能だという判断を表わす。…できないだろう。
※竹取(9C末‐10C初)「なほ、この女見では、世にあるまじきここちのしければ」
[語誌](1)
上代語の「ましじ」の変化したもので、中古になって成立した。「ましじ」と「まじ」には、
接続・意味・
用法において類似性が認められる。「ましじ」から「まじ」への変化は、類音が連続した場合、
一方が落ちるという傾向によるものであろう。
(2)中古においては、和文の
散文に見られ、
和歌や漢文訓読資料においてはあまり見られない。中世以降、
口頭語では次第に「
まじい」「まい」が
勢力を広げ、「まじ」は徐々に衰退していく。
(3)一般に、「まじ」は「べし」の否定であるといわれ、対応が注意されているが、接続・意味・文法機能において共通性が認められる。原則的に
両者が承接しないことも注意される。
(4)接続は、中世以後、
口語「まい」の接続の
混乱が「まじ」にも及び、特に
未然形に付く例が多くみられる。「金刀比羅本平治‐下」の「一人も助けまじき物を」など。