アエノコト(読み)あえのこと

山川 日本史小辞典 改訂新版 「アエノコト」の解説

アエノコト

稲の収穫後,田の神を家に迎えて饗応する奥能登地方の農耕儀礼。12月5日(旧11月5日)の早朝,ゴテとよぶ戸主が山から木を採り,これを座敷の種籾俵に立てる。夕刻に田の神を家に招き,甘酒を供えたあと風呂に案内し,つづいて座敷で膳をすすめ,言葉をかけつつもてなすなど擬人的な儀礼を行う。その後,田の神は家に滞在して翌年2月9日(旧正月9日)に,迎えたときと同様の作法で田に送り返す。田の神とともに稲種子を祭る稲作行事である。類似の儀礼が福井県越前市や鳥取県中・西部にもみられる。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアエノコトの言及

【イネ(稲)】より

…最後に刈り取った稲束のなかに,田の神が宿るという考えがかいま見られるが,この田の神の祭りは,ヨーロッパに広く伝えられている,刈り残されたムギの束のなかに穀霊が宿るという最後の束型の習俗とよく似ている。また,石川県の能登半島の一部の農村では,収穫儀礼をアエノコトといって,その日,田の神がたんぼから家に帰ると伝えられ,農家の主人が正装して,たんぼに出かけて田の神を迎え,家にお連れしてふろ(風呂)に入れ,ごちそうをととのえて田の神を供応する。ここでは,東南アジアの稲魂(いなだま)と同じように,田の神が擬人化され,男神とも女神ともいわれている。…

【温泉】より

…神と共饗共寝するこの宮廷儀礼では,天皇は湯に入ることによって禊祓をし新たな心身状態へのよみがえりを準備しなければならなかったからである。同様のことは今日,民間の新嘗祭として知られる能登半島のアエノコトの行事においてもみられる。これは秋の収穫のあと田の神を家にみちびいてまつり,神饌を供して共食する神事であるが,このとき司祭者としての家の主人は田の神を湯殿に案内して湯あみをさせる。…

【霜月祭】より

…稲の収穫祭で,民間の新嘗祭といえるが,祭りが実際の収穫期より1ヵ月ほど遅いのはこの間物忌(ものいみ)に服するためと説明されている。北九州の丑の日祭,奥能登のアエノコト,天草や長島の山祭,中国地方の先祖講,ダイジョウ講のほか,各地の氏神祭や大師講などが代表的なものといえる。また三遠信の国境地帯の遠山祭,冬祭,花祭や秋田県保呂羽(ほろは)山の霜月神楽のように神楽形式の祭りを行う場合も多い。…

【田の神】より

…これには,田から家へ帰る,家から田へ出て行く,山から家へ降りてくる,家から山へ帰る,家と田とを去来する,これらの伝承を欠く,去来せず留守神となる,という7種の型がある。奥能登に伝わるアエノコトは秋の収穫後に田から家へ田の神を迎え饗応する行事で,かつては正月に家から田に送る行事もあった。前者はもとは11月5日,今は12月5日に行い,後者はもとは1月9日,今は2月9日に行われてきた。…

【俵】より

…このほか,俵松といって年神の松を米俵にさして祝ったり,餅花をさす所もみられた。奥能登のアエノコト(田の神迎えの行事)では,種俵が田の神の神体とみられ,供物を供えてまつられた。桟俵(さんだわら)【飯島 吉晴】。…

【新嘗祭】より

…ニヒ,ニフは稲積(にお)を意味するニホとも関連が深い。北陸に民俗行事として伝承されるアエノコトや,関東の十日夜(とおかんや)などは,民間で古くから行われた収穫関係の行事で,ニイナメの基礎をなすものである。大嘗祭(だいじょうさい)【萩原 竜夫】。…

【柳田[村]】より

…京浜・阪神方面への出稼ぎも多い。田の神を家に迎える行事として行われる〈アエノコト〉は国指定の重要無形民俗文化財。柳田温泉,黒川温泉がある。…

※「アエノコト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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