アカボウクジラ(英語表記)Cuvier's beaked whale
Ziphius cavirostris

改訂新版 世界大百科事典 「アカボウクジラ」の意味・わかりやすい解説

アカボウクジラ (赤坊鯨)
Cuvier's beaked whale
Ziphius cavirostris

クジラ亜目アカボウクジラ科の哺乳類。同科中もっともふつうの種類で,南・北両極圏以外のいたるところの外洋に分布する。成体では平均体長6m前後に達し,雌は雄よりも30cm程度大きい。体は紡錘形頭部は小さく,短い吻(ふん)は滑らかに前頭部に移行する。鼻孔は頭頂部に1個ある。咽喉いんこう)部には,後方に開いた“ハ”の字形の1対の溝がある。上あごには歯がなく,下あご先端にのみ1対の丸い歯があるが,幼体や雌では出ていないことがある。胸びれは小さい。背びれは尖り,体の中央より後方にある。体色は黒色ないし黒褐色であるが,成体では頭部から後方背面にかけて淡色である。出生時の体長は2.7m前後,性的に成熟した体長は5.3m以上,寿命は36年以上である。イカ類を好んで食べる。胃は多数の小室に分かれている。日本ではかつては小型捕鯨業の対象とされ,年間30頭ほど捕獲されていたが,現在では捕獲対象とされていない。食用ならびに採油原料となる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アカボウクジラ」の意味・わかりやすい解説

アカボウクジラ
Ziphius cavirostris; Cuvier's beaked whale

クジラ目ハクジラ亜目アカボウクジラ科アカボウクジラ属。体長は雄約 7.5m,雌約 7mに達する。体重の最大記録は約 3t。出生体長は 2.7m程度。体色は茶色,ねずみ色,黒褐色と変異に富み,ヒョウのような白い斑紋を全身に呈するもの,顔面部が淡色をなすもの,嘴 (くちばし) のまわりや腹部が桜色を帯びるもの,咬傷が白い筋となり残っているものなどさまざまであるが,一般に背部が濃く,腹部は薄い。前頭部はわずかに盛上がり,嘴は太く非常に短い。頭部から背部にかけてはきわめてなだらかにふくらむ。噴気孔は1個で大きく,頭部正中線上のやや左側に位置する。咽喉部にハの字状の約 60cmほどの長さの溝がある。背鰭 (せびれ) は大きく,体の後方3分の2に位置し,三角形状で先端はとがり後縁は鎌状である。胸鰭は比較的小さく,へりの前縁と後縁が平行である。下顎の先端に1対の歯がある。潜水時間は約 40分。2~7頭程度の小群で行動する。おもにイカ類を食べるが,食性範囲が広く,底生魚類,甲殻類やほかの底生動物も捕食する。全海洋の熱帯域から温帯域の外洋に広く分布し,まれに両半球の極域境界付近にも出現する。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アカボウクジラ」の意味・わかりやすい解説

アカボウクジラ
あかぼうくじら / 赤坊鯨
Cuvier's beaked whale
[学] Ziphius cavirostris

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目アカボウクジラ科に属する中形のクジラ。この科には5属18種が知られる。寒海を除く世界中の海に分布するが、生息数は多くない。体長6メートル前後、紡錘形で側扁(そくへん)し、体幅よりも体高が大きい。頭部に前方に突出している短い嘴(くちばし)があり、その下あごの先端に1対の歯があるほか、多数の痕跡歯(こんせきし)がある。体色は褐色や灰黒色で変異が多く、背側が濃く、腹側が淡い。皮膚には傷痕が多い。外国では利用していないが、日本では小型捕鯨業の対象種として年間十数頭が捕獲され、鯨油を採取し、肉は食用に供されているが美味ではない。海岸に自らのし上がって死ぬ例が多い。

[西脇昌治]


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