アゲハモドキ(読み)あげはもどき

改訂新版 世界大百科事典 「アゲハモドキ」の意味・わかりやすい解説

アゲハモドキ (擬鳳蝶)
Epicopeia hainesii

鱗翅目アゲハモドキガ科昆虫アゲハチョウ科の一部と翅の形が非常によく似て,後翅に尾状突起をもち,昼間活動するガ。主として東南アジアの熱帯から亜熱帯に分布するアゲハモドキガ科は,小さな科で5~6種しか知られていない。体液は食虫性の哺乳類や鳥類の好まない味らしく,彼らから敬遠されることによって生命の安全が保証されているようである。同じ地域に混生している外見上類似したアゲハチョウと擬態関係にあると推定されているが,この点における生態学的な研究観察は行われていない。日本には,アゲハモドキただ1種だけが知られ,クロアゲハジャコウアゲハに似ている。アゲハモドキは開張6cm内外。北海道から九州まで全国的に分布し,昼間飛ぶが,灯火にも飛来する。幼虫ミズキ,クマノミズキなどミズキ科の葉を食べる。体は白蠟物質で覆われ,表面のものは糸のように細く突出し,触れると脱落して飛び散る。さなぎの繭も同じ物質に覆われている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アゲハモドキ」の意味・わかりやすい解説

アゲハモドキ
あげはもどき / 擬鳳蝶蛾

昆虫綱鱗翅(りんし)目アゲハモドキガ科のガの総称およびそのなかの1種名。この科はおもに東南アジアに分布する小さな科で、日本にはアゲハモドキEpicopeia hainesii1種を産する。はねの形、色彩斑紋(はんもん)が一見クロアゲハによく似ているが、はねはクロアゲハより横に長い。昼飛性であるが、飛び方はアゲハチョウのように活発ではなく、夜間、灯火に飛来することも多い。1年に2回発生し、成虫は6月と8月に出現する。幼虫は白ろう物に覆われ、ミズキ、ヤマボウシなどミズキ属の葉を食べる。蛹化(ようか)するときにつくる繭にも白ろうがつけられる。この科の各種は同地域に生息するアゲハチョウと擬態関係にあるものと推定されている。

[井上 寛]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アゲハモドキ」の意味・わかりやすい解説

アゲハモドキ
Epicopeia hainesii

鱗翅目アゲハモドキガ科。前翅長 29~37mm。一見ジャコウアゲハに似たガで,後翅に長い尾状突起がある。後翅外縁には紅色斑が並ぶ。雄の触角櫛状。昼間飛翔するが灯火にも集る。年2回,5~6月と8月に出現する。幼虫はヤマコウバシを食べる。北海道,本州四国,九州に普通で,中国,チベットにも分布する。なお,アゲハモドキガ科 Epicopeidaeは東アジアにのみ分布する特異な類である。

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