アズキ(読み)あずき(英語表記)adzuki bean

翻訳|adzuki bean

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アズキ」の意味・わかりやすい解説

アズキ
あずき / 小豆
adzuki bean
small red bean
[学] Vigna angularis Ohwi et Ohashi var. angularis

マメ科(APG分類:マメ科)の一年草。アジア極東地域原産とされ、中国では2000年も前から栽培された。日本には中国から渡来し、農耕文化が始まったころからの作物である。豆は餡(あん)の原料や汁粉(しるこ)、赤飯などに使われるほか、甘納豆(あまなっとう)、羊かんなど和菓子の材料とされる。日本人以外にはあまり好まれない豆で、歴史の古い中国や朝鮮でも栽培される量は少ない。近年南アメリカやアフリカのコンゴなどでも栽培されるが、アフリカのアズキは日本への輸出用が主である。北アメリカ南部では、青刈り飼料用として栽培される。

 アズキは日本人の嗜好(しこう)がとくに強く、また日本人の生活習慣に欠かせない。需要量は十数万トンで、現在でこそ中国やアフリカのコンゴなどから1万~数万トンの輸入があるが、従前はほとんど国産に限られていた。しかも国内でもその70%が北海道で生産される。アズキは年の気候によって豊凶の差が大きい作物なので、とくに北海道での作柄によってアズキの価格、小豆(しょうず)相場の変動が大きい。このためアズキは「赤いダイヤ」とよばれた。

 草丈は30~70センチメートルで、節間はあまり伸びない。葉は3枚の小葉からなる複葉で、葉柄は長い。夏から秋に、各葉腋(ようえき)から出る花柄(かへい)に10個余の花がつく。花は黄色の5弁からなる蝶形花(ちょうけいか)で、竜骨弁(りゅうこつべん)は左右不相称。莢(さや)は細長い円筒形で、長さ9~13センチメートル、下垂する。中に数個から10個ほどの種子(豆)がある。豆は赤褐色、いわゆるアズキ色のほか、黒や白、黄緑色などの品種もある。長さは6~7ミリメートル、1000粒の重さは60~220グラム。暖かな気候を好む一方、豆が成熟する期間はやや低温の方がよく、生育期間も短いので冷涼地でも栽培できる。代表的品種の大納言(だいなごん)は古くから栽培されている晩(ばん)、極晩生(ごくばんせい)種で赤褐色、中粒で、各地に多くの系統があり、東北地方でよく栽培される。

 日本のアズキ生産の90%以上を北海道が占めているが、ここでのおもな品種は晩大納言(おくだいなごん)、宝小豆、光小豆、寿小豆などである。なお、市場では、粒の大中小をそれぞれ大納言、中納言、小納言とよぶことがあるが、これは品種名ではない。

 多くの品種があるが、感温、感光性により、夏アズキ、秋アズキ、中間型アズキの3型に分ける。夏アズキは北日本に多く、晩霜のおそれがなくなり、平均地温が10℃以上になったら早々に種を播(ま)く。北海道では5月中旬である。秋アズキは、秋の日照時間が長い暖地で栽培し、7月ころまでに種子を播く。収穫は豆が成熟し、黒色となった莢が全体の7~8割になったときにダイズ収穫機を利用して行う。莢が開いて粒が落ちるのを防ぐため、曇りの日か、露のある朝のうちにするとよい。小規模の栽培では、莢が開く前に、熟したものから順に摘みとる。収穫後乾燥させ脱粒する。病気にはウイルス病などがあり、害虫ではアズキゾウムシの被害が大きい。連作障害をおこすので、他の作物と輪作する。

 近縁種に、インド原産でつるが伸び、やせ地に強いツルアズキがある。栽培上、アズキの1品種として扱われた時代もあったが、最近では日本ではほとんど栽培されない。

[星川清親 2019年10月18日]

食品

アズキ100グラムの熱量は339キロカロリーであり、ダイズに比べてタンパク質と脂肪が少なく、炭水化物が多い。100グラムのアズキには水分15.5グラム、タンパク質20.3グラム、脂質2.2グラム、炭水化物54.4グラムが含まれる。デンプン粒繊維細胞に包まれていて、餡には好適な舌触りをもつ。このため、需要の75%は餡用である。

 アズキは水洗いしたらすぐに火にかける。これは、他の豆と水の吸い方が異なり、水に漬けてからもしばらくは、なかなか水を吸わず、数時間後、皮の一部が切れてから急に吸水を始めるが、同時に成分の一部が溶け出して、温度が高いと腐敗するからである。低温下では水に漬けてもよいが、普通は水洗い後、すぐに煮る方がよい。アズキの種皮に含まれる色素はアントシアンで、アルカリや鉄鍋で煮ると黒ずみ、酸や空気に触れると赤みを増す。

 赤飯をつくるには、アズキが煮立ったら、色着けに使うため、ゆで汁を一度とって、次に煮立ったら、胴割れを防ぐため弱火とする。これを糯米(もちごめ)とともに蒸し、ときおりゆで汁で打ち水をして色を着ける。餡をつくるときには、あくや渋味がゆで汁に溶け出すので、ゆで水を何度かかえると淡泊な味となる。

[星川清親 2019年10月18日]

民俗

アズキは、上古のころから栽培されていたという形跡があるが、当時は食用にするというよりも、むしろ煮ると出てくる赤い色が珍重されて広められた。食物を赤く染めるのは、常とは異なるものであることを表すためで、多くはアズキの煮汁が使われ、赤飯、小豆餅(もち)、小豆粥(がゆ)など節日(せちにち)の食物はいずれもアズキが用いられている。またその赤い色から魔除(まよ)けにも用いられ、たとえばノウサギの害を防ぐには畑にアズキを播(ま)くとよいとか、沖縄では迷子を捜すとき「赤豆(あかまめ)(アズキ)食えよ」と唱えて、人を惑わす悪霊をアズキの呪力(じゅりょく)で追い払うという。出産直前につくる餅に粒のままのアズキを入れ、切ったときのアズキの形状で、生まれてくる子の性別を占うというのも、このアズキの色の特殊性によっている。

[鎌田久子 2019年10月18日]


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改訂新版 世界大百科事典 「アズキ」の意味・わかりやすい解説

アズキ (小豆)
a(d)zuki bean
small red bean
Vigna angularis Ohwi et Ohashi

日本で農耕文化が始まったころからの作物の一つ。米といっしょに炊いて慶弔時に欠かせない赤飯とし,また,あんの原料とするなど,日本人の生活に深く溶け込んでいる。世界中で日本人にだけとくに好まれる豆として特異な存在である。

 マメ科の一年草で,中国南部(四川,雲南)が原産地ではないかと考えられている。中国では2000年も前から栽培され,日本には古い時代に中国から伝わった。草丈は30~70cm,葉は3枚の小葉からなる複葉で,長い柄がある。夏から秋に各葉腋(ようえき)から花茎を出し,10個ほどの花をつける。花は黄色で蝶形。さやは10cmほどの細長い円筒形。中に数粒から10粒ほどの種子(豆)がある。豆は赤褐色,いわゆるあずき色のほか,黒や白,黄緑色の品種もあり,タンパク質と炭水化物を多く含む。アズキには多くの品種があるが,栽培上夏アズキ,秋アズキ,中間型アズキの3型に分けられる。夏アズキは,春に霜の心配がなくなるのを待って種子をまくもので,北日本に多い。秋アズキは夏に種子をまくため,秋の長い,暖かい地方で栽培する。代表的な品種の大納言は古くから栽培されており,各地に多くの変異系統がある。日本のアズキ生産の70%以上は北海道産である。北海道でのおもな品種は晩大納言,宝小豆,光小豆などである。なお,市場では粒の大,中,小で大納言,中納言,小納言と呼んで売る場合があり,必ずしも品種名と一致しない。アズキは暖かな気候を好むが,豆が成熟する期間はやや低温が適し,生育に要する期間も短いため,冷涼地でも栽培できる。また,連作を嫌うため,他作物と輪作される。豆は赤飯や料理にも使われるが,あんその他に加工して和菓子の最も重要な材料とされている。

 近縁種に,インド原産でつるが伸びるツルアズキPhaseolus pendulus Makinoがあり,日本でもバカアズキなどと呼ばれ食用としたが,最近ではほとんど栽培されていない。
執筆者:

小豆は吉凶を問わず,常の日とは異なった晴の日の食物に用いられる。年中行事の中で,小豆が最も多く使われるのは正月の行事であり,出雲から越後にかけての裏日本や近畿地方の海岸部には小豆雑煮を祝う風習が見られる。また小正月に小豆粥(がゆ)を食べる習慣はほぼ全国的に見られ,この粥で作物の豊凶を占う所もある。さらにこの小豆粥を11月23日の大師講のほか,屋移りや葬式の湯灌(ゆかん)の際に食べる所もある。このように,小豆は年や季節の変り目など秩序の更新の際に多く食べられるようであり,庚申(こうしん)様に小豆飯をあげると食物に不自由しないという所も見られる。こうした機会の物忌みの感覚が〈小豆洗い〉のような怪音をだす妖怪を生んだのであろう。一方で,小豆には魔除けの機能もある。古代の宮廷では小豆を水の代りに用いて穢(けがれ)を払ったといい,節分の豆もやはり同じ意味をもつとされる。疱瘡(ほうそう)神など病気や悪神を送る際にもよく小豆を用い,桟俵(さんだわら)に小豆飯をのせて辻(つじ)などに捨ててくる。また沖縄では迷子をさがすときに,子どもの名とともに〈赤豆をくらえ〉と叫んで,子を隠す魔物を退散させる風があった。稲荷の使いのキツネや,家についた座敷童子(ざしきわらし)やミコガミなどのつきものも,小豆飯を好物とするという。
執筆者:


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食の医学館 「アズキ」の解説

アズキ

《栄養と働き》


 原産は東アジアで、日本では北海道が代表的な産地です。
 粒の大きい大納言(だいなごん)と普通小豆(ふつうあずき)の2種類があります。大納言はおもに粒あんなど、粒を活かした用途に利用され、普通小豆はこしあんなどに使われています。
〈ビタミンB1が豊富、かっけや高血圧症に効果〉
○栄養成分としての働き
 アズキの主成分は糖質とたんぱく質ですが、特徴的なのはビタミンB1、カリウム、食物繊維を豊富に含んでいることです。
 ビタミンB1は、体の中で合成できないビタミンで、不足するとエネルギーの代謝がスムーズにいかなくなって、糖質の代謝によってできる副産物のピルビン酸や乳酸が異常に蓄積して疲れやすくなります。ビタミンB1が豊富なアズキを食べれば、糖質の代謝が促進されて疲労回復や夏バテ防止に効果があるのです。また、ビタミンB1には肝臓に負担をかける有害物質を解毒させる働きをもつので、二日酔い解消にも役立ちます。
 そして、腎疾患(じんしっかん)、かっけによるむくみを解消してくれるのが100g中に1500mgと大量に含まれているカリウムです。カリウムは塩分の排泄(はいせつ)効果が高いので、利尿作用があり、高血圧を予防します。
 食物繊維も100g中17.8gと多く、便秘(べんぴ)予防、大腸がん予防、動脈硬化の改善に有効です。
 さらに、アズキの外皮に含まれるサポニンは、カリウム同様に利尿作用をうながし、また、腸を刺激して便通をよくします。コレステロールや中性脂肪を低下させる働きももっています。
○漢方的な働き
 江戸時代からかっけの薬として使われてきたアズキは、その赤い色が縁起がいいとされ、赤飯や小正月のアズキがゆなど、祝い事に用いられてきました。高い利尿効果、解毒作用が期待できる食品です。

《調理のポイント》


 他の豆類とはちがって、アズキはあらかじめ水につけてもどすことはしません。吸水させると胴切れが起こりやすくなるからです。
 調理するときは、4~5倍容量の水を加え、沸騰(ふっとう)したらいったんゆでこぼし、新しい水を入れて再び煮ます。ゆでこぼしはアクや渋みをとるためですが、薬効を期待するなら、ゆでこぼしをせず、浮いたアクをすくう程度にしたほうがいいでしょう。
 1カップのアズキ(160g)をゆでると400gくらいのゆでアズキになります。これは、おしるこなら4人分くらいになります。
 むくみが強いときは、無味のアズキをご飯がわりに食べるのがおすすめです。玄米(げんまい)や白米といっしょに炊(た)いたり、サツマイモやカボチャといっしょに煮たりすれば、味付けをしなくてもおいしく食べられます。とくに米といっしょに食べると、アミノ酸バランスがよくなります。
 おしるこ、ぜんざい、あんこにするとビタミンが激減するので注意しましょう。赤飯やおかゆ、甘みを抑えた煮ものにすれば栄養価を失わずに食べられます。
 また、アズキの色素はアントシアニンという物質です。これは、視力回復に効果があるといわれている成分です。鉄と結びつくと黒ずむので鉄鍋は使わないようにしましょう。

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デジタル大辞泉プラス 「アズキ」の解説

アズキ

サンリオのキャラクターシリーズ「シナモエンジェルス」のメインキャラクター。耳の大きな、クリーム色の犬の女の子。耳が羽のようになっている。

出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報

栄養・生化学辞典 「アズキ」の解説

アズキ

 [Vigna angularis].マメ目マメ科アズキ属の一年草.マメは,菓子などに,広く用いられる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアズキの言及

【商品取引所】より


[機能]
 商品取引所は商品市場のなかで最も高度に組織化され,取引の中心を標準品先物取引に置く市場である。先物取引とは,売買を約束した時点で商品を用意していなくとも,いついつまでに受渡しするという条件で売買できる取引である。標準品先物取引とは,ある銘柄を標準品と決め,その標準品を基準にして一定の価格差で受渡しできる銘柄を選んでおいて行う先物取引をいう。 先物取引では,その商品の総代金の1割程度の証拠金を担保として納めれば,商品をもっていなくとも売ることができ,また商品を引き取る考えがなくとも買うことができる。…

【赤飯】より

…もち米にアズキやササゲを加えてつくる強飯(こわめし)の一種で,一般に〈おこわ〉ともいう。鎌倉末期の成立とされる《厨事類記(ちゆうじるいき)》によると,宮中では3月3日,5月5日,9月9日の節供の御膳に赤御飯,赤飯を進めるのが恒例になっていた。…

【豆】より

…(3)温帯系の豆類 温帯系の豆類にも重要なものがある。地中海域原産の二年生作物であるエンドウソラマメは,どちらも冬作作物であるし,東アジア原産のダイズアズキは夏作作物として栽培される。栽培の歴史の古いエンドウは種子を食用とする以外に,キヌサヤ系の野菜利用品種群が分化している。…

※「アズキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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