日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
アダムズ(Henry Brooks Adams)
あだむず
Henry Brooks Adams
(1838―1918)
アメリカの思想家、歴史家、作家。2月16日ボストンに生まれる。曽祖父(そうそふ)は第2代大統領、祖父は第6代大統領、父は駐英公使を務めた政治家で歴史家、兄弟にも歴史家として活躍した人物がいたほどのアメリカきっての名門の出身。ハーバード大学に学び、ベルリン大学に留学、父の秘書として7年間ロンドン生活を送ったのち帰国して母校で中世史を講じ、『北米評論』の編集長も務めた。1885年に妻の自殺にあい、その後は世界各地を旅行して回った。9巻の大著『トマス・ジェファソンおよびジェームズ・マディソン治下の合衆国史』(1889~1891)でアメリカ民主政治の真の姿を自分の目で確かめようとしたが、先に書かれた小説『デモクラシー』(1880)には民主政治への激しいほどの絶望が表現されている。それを新しい史観で説明しようとして数編の歴史論文も書いた。晩年の2著『モン・サン・ミシェルとシャルトル』(1904・私家版)、『ヘンリー・アダムズの教育』(1907・私家版)は、混沌(こんとん)としたアメリカ精神および20世紀世界に対する懐疑と、統一的なヨーロッパ中世世界の精神に対する傾倒を、まれにみる美しい文体で表現した名著であるが、楽天的性向の強いアメリカ精神のなかでは、かならずしも十分に評価されてこなかったうらみがある。1918年3月27日ワシントンで没す。
[後藤昭次]
『刈田元司訳『ヘンリー・アダムズの教育』(1971・八潮出版社)』▽『野島秀勝訳『モン・サン・ミシェルとシャルトル』(2004・法政大学出版局)』