改訂新版 世界大百科事典 「アブシンベル」の意味・わかりやすい解説
アブ・シンベル
Abū Simbel
エジプト南部,アスワンより南へ約280km,ナイル川西岸にある二つの岩窟神殿遺跡。ラメセス2世がヌビア地方に造営した七つの神殿のうちの二つ。アスワン・ハイ・ダムの建設に伴う水没から救済するため,1964-68年にユネスコにより移転された。
大神殿はラー・ハラクティ,アメン・ラー,プタハおよび神格化されたラメセス2世自身をまつり,東面して日の出を仰ぐ位置にある。高さ約30m,幅35mの正面に端然と座す四つの巨像は,いずれもラメセス2世(高さ21m)。足もとの立像は皇太后(セティ1世妃)ムトヤ,王妃ネフェルタリ,皇太子アメンヒイコフシェフ等である。正面入口より入った大広間は8本の王のオシリス柱が向かい合って並び,有名なカデシュの戦の浮彫がある。つづいて4本の角柱のある第2広間に至る。ここは三つの扉をへて内陣,至聖所に通じている。至聖所にはラー・ハラクティ,アメン・ラー,プタハ,ラメセス2世の像が年に2度(春分と秋分の日)だけ太陽の直射を受けるように安置され,王が生前に神格化されたことを証する浮彫で飾られている。
小神殿はハトホルと王妃ネフェルタリに捧げられた岩窟神殿で,正面に高さ約10mの王の4体の立像とハトホルをかたどった王妃の2体の立像が彫られている。
執筆者:中山 伸一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報