アマ(読み)あま(英語表記)flax

翻訳|flax

精選版 日本国語大辞典 「アマ」の意味・読み・例文・類語

アマ

〘名〙 (amah ama 阿媽)
① 日本や中国などに住んでいる外国人の家庭に雇われていた、その土地出身の女性。メイド
※或る女(1919)〈有島武郎〉後「西洋人の子供達が犢(こうし)程な洋犬やあまに附き添はれて」
※魔の河(1957)〈火野葦平〉一五「母を助けて阿媽(アマ)として働いた」
外国航路の汽船で働く女性。
[補注]中国語の「阿媽」はヨーロッパ語の amah, ama とは無関係かもしれない。

アマ

〘名〙 「アマチュア」の略。⇔プロ
※にんげん動物園(1981)〈中島梓〉六二「プロは、アマが逆立ちしてもできぬわざを見せるのがあたりまえ」

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デジタル大辞泉 「アマ」の意味・読み・例文・類語

アマ

アマチュア」の略。⇔プロ

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改訂新版 世界大百科事典 「アマ」の意味・わかりやすい解説

アマ (亜麻)
flax
Linum usitatissimum L.

茎からは繊維を,種子からは油を採る作物。その繊維で肌ざわりがよく薄手の織物リネンを織る。

 アマ科の一年草で,カフカス地方から中東にかけての一帯が原産地とされる。古代エジプトでも栽培,利用された。日本には17世紀に中国から渡来したが,当時は薬用とする亜麻仁油を採るのが目的であった。繊維を採る目的で北海道に導入されたのは明治初期のことである。

 葉は細く,長さ2~3cmで,互生する。茎は高さ60~120cmで細い。繊維用品種は枝分れしないが,種子(油)用品種は多くの枝を出す。夏に青紫色または白色で直径1.5cmほどの5弁花が咲く。蒴果(さくか)には数個の種子がはいる。種子はつやのある黄褐色の楕円形で扁平。長さ5mm前後で,種子(油)用品種は繊維用品種より大型である。種子用品種の栽培は温暖地でもよいが,繊維用品種の栽培には冷涼で湿度の高い気候が適し,日本では北海道が適地。春早く播種(はしゆ)し,夏に種子が熟しかけたころ抜き取り,乾燥後,種子を採り,また繊維を調製する。

 茎から採る繊維は光沢があり,けばだたず,柔らかである。亜麻繊維からの織物(リネンlinen。リンネルともいう)は麻布と呼ばれ,汗を吸い,またそれをすぐに発散させるので,夏用の服地として利用する。感触がよいので,乳児や婦人用の肌着,ハンカチーフ,ナプキン,テーブルクロス,シーツなどにする。また耐久力があり,布ホース,防水布,テント,帆布,油絵用キャンバス,パッキングなどにも使う。繊維のくずは壁材やろ過材とし,また,紙幣などにする良質紙のリネン紙をつくる。種子には40%前後の油,亜麻仁油が含まれる。亜麻仁油は良質の乾性油で,ペイントや油絵具,印刷用インク,リノリウムセッケンなどの材料とするほか,薬用としても使う。繊維を採り去った茎は燃料とし,種子の絞りかすは飼料として利用する。
アサ →麻織物
執筆者: アマ属Linumは北半球の温帯を中心に約200種ほどが知られ,一~多年草だが,茎の基部が木質化するものもある。繊維植物であるアマのほかに,花を観賞するため栽培されるものがあり,タカネアマL.alpina L.やシュッコンアマL.perenne L.はヨーロッパ原産の多年草で,ロックガーデンに栽植される。またベニバナアマL.grandiflorum L.は北アフリカ原産で切花にされる。

 アマ科Linaceaeは,北半球温帯に多いが世界的に分布しており,低木あるいは一~多年草で,13属300種ほどが知られている。葉は単葉で互生し,花は放射相称で,花弁は基部で合着することはあっても離弁的で,子房は上位である。カタバミ科フウロソウ科に近いという意見があり,フウロソウ目にまとめられたり,あるいはアマ目として独立させられたりする。
執筆者:

エジプト,バビロニアフェニキアなどの古代文化においてすでに亜麻が用いられていたことはミイラの布などからも明らかである。6世紀初頭に成立したとみられるサリカ法典においても〈誰かが他人の畑地より亜麻を盗み,しかしてそれを馬もしくは荷車にて運び去りたる場合,彼は同じ物あるいは同価のものや贖罪(しよくざい)金の他600デナリウスすなわち15ソリドゥスの責あるものと判決せらるべし〉(27章8節)とあり,亜麻がヨーロッパ大陸においても貴重な素材であったことがわかる。亜麻はときには支払手段としても用いられていた。8世紀になると,それまでの毛皮の衣服に代わって青や灰色の亜麻布の上衣が用いられるようになる。カール大帝時代にはすでにライン川下流域で,ローマの伝統を受けついで羊毛生産はかなり盛んに行われていたが,カール大帝自身も亜麻布の素朴な衣服を身につけていたといわれている。

 亜麻の生産地としてはシュレジエンラウジッツ,ウェストファーレン,シュワーベン,ボーデン湖周辺,バルト海沿岸などのドイツ各地とアイルランドベルギーネーデルラントが主たるところであり,イタリアやスペインなどはドイツから輸入していた。11世紀にいたるまで織物生産は,一般に家内で営まれるか領主館や修道院の隷属民の労働によっていたが,11世紀以降になると織工の組合が生まれ,営利生産が行われるようになる。しかしそれと同時に羊毛生産と亜麻生産が競合し,羊毛生産者が都市内で高い地位を占めていったのに対し,亜麻布織工は多くの地域で賤民(せんみん)として組合結成の自由すら認められない場合が多かった。本来農村を主たる舞台としていた亜麻布織業が都市内に進出していった場合でも,繊維をたたく騒音などのために市壁の近くに定住させられ,亜麻布織工の子弟は他の手工業の徒弟となることも禁じられる場合が多かった。

 亜麻布織工は,ドイツでは15世紀末になると都市内に移住を開始する。そのころ通商路の大西洋への移動にともなって都市経済の発展は限界に達し,手工業組合は婦人労働をも駆逐しはじめていたから,市内に新たに競合する組合の設立を認めず,農村から流入してくる亜麻布織工を賤民として位置づけていった。同じころに刑吏も賤民の最下層に位置づけられていったが,亜麻布織工と粉ひきには刑場の絞首台を設置する義務が課される場合がしばしばみられる。刑吏の用いる絞首台用の綱を用意する亜麻布織工が賤民視されていったのは,まさに彼らが貧民として農村から大量に都市に流入し,既存の職人層の生活基盤を脅かしたからであるが,こうした道具をつくる義務は地域によっては1653年には免除されている(たとえばビュルツブルク)。亜麻布織工が賤民身分から解放されるには18世紀をまたねばならなかった。
執筆者:

亜麻は長らく人々の日常生活の必需品であったため,栽培者にとってその収穫量が大きな関心事であった。そこでイギリスでは,夏至の日にかがり火をたき,それを飛び越えて豊作を祈るまじないとした。英名flaxは〈皮をはぎ繊維を採ること〉を意味する古チュートン語に由来しているが,これを人間に教えたのは大地の女神フルダHuldaといわれ,伝承によれば女神はチロルのウンターラッセン近くにある洞穴から,夏と冬の2回地上へ現れ,人々の働きぶりと亜麻の育ちぶりを見て回るという。もしも人々が十分な労働をしていなければ,翌年の収穫量は減らされることになり,したがって花ことばにも〈家事熱心〉が選ばれている。亜麻は魔女が嫌うため,悪いまじないをはねつける力があるとされ,戸口に置いたり牛の角に結びつけて魔除けとした。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アマ」の意味・わかりやすい解説

アマ
あま / 亜麻
flax
[学] Linum usitatissimum L.

アマ科(APG分類:アマ科)の一年草。別名ヌメゴマ、アカゴマなど。原産地はコーカサスから中近東にかけての地域といわれる。茎は細く高さ0.6~1.2メートルで、葉が互生する。葉は葉柄がなく披針(ひしん)形で長さ2~3センチメートル。夏に、青紫色または白色で、直径1.5センチメートルほどの5弁花をつける。果実は球形で数個の種子が入る。種子は長さ5ミリメートルほどの楕円(だえん)形で扁平(へんぺい)、黄褐色でつやがある。

 茎からは繊維を、種子からは油をとるために栽培される。古代に中近東で栽培化され、アーリア人によって東西に広められたらしい。その繊維はインドやエジプトでは5000年以上昔から衣服として利用されていた。また、新石器時代のスイス湖上生活人の遺跡からアマが出土しており、ヨーロッパでは木綿が普及するまでは、主要な衣料作物であった。日本には17世紀末期に中国から渡来したが、当時は薬用のあまに油をとるために栽培された。繊維用作物としては、1886年(明治19)にアメリカやヨーロッパから北海道に品種を導入したのが最初である。枝分れせずまっすぐに伸びる繊維用と、油をとるための種子用とがあり、繊維兼種子用の品種もある。種子用品種は枝が多数出て、種子は大形。種子用栽培は温暖な地でもよいが、繊維用栽培は冷涼多湿の地がよく、日本では北海道が適地である。

[星川清親 2020年7月21日]

利用

茎の表皮に近い部分に存在する靭皮(じんぴ)繊維がとくに長いのでこれを利用する。果実が未熟なときに刈り取り、乾燥させ、果実を除いてから水に漬けて一部分を腐らせて繊維だけを機械にかけて取り出す。この繊維は強さと美しさと耐久性で綿(めん)よりも優れているので、これで織ったリンネル(リネン)は高級品とされる。

 種子(亜麻仁)を冷圧して得た澄明黄色の脂肪油をあまに油と称する。リノール酸、リノレン酸、油酸を主とする不飽和脂肪酸のグリセリンエステルを多く含有していて、空気中の酸素を吸収して皮膜をつくりやすいので、乾性油(ヨウ素価160~200)として油絵の具、ペイント、リノリウム、油布、印刷用インク、ワニス、パテなどの工業用油として多く使用される。食用にも利用される。

 薬用としては、種皮に含まれる粘液(3~9%)が作用物質なので、種子の煎液(せんえき)を緩下(かんげ)、緩和、鎮咳(ちんがい)、鎮痛、利尿剤として使用する。油をとったかすはタンパク質に富む飼料となるが、リナマンという青酸配糖体を含有するために、加熱したり完熟種子だけを使用するなど、中毒を避けるくふうを必要とする。

[長沢元夫 2020年7月21日]

民俗

その青い花はゲルマン民族の雷神ドナールの青い稲妻と結び付き(春山行夫説)、不思議な魔力があると信じられた。その一つに、カーニバルの夜、乙女がアマの種子を詰めた枕(まくら)で眠ると、夢で未来の夫が姿をみせるという中世ドイツの結婚占いがある。なお、結婚後12年目の記念式を亜麻婚式というが、これはアマが身近で重要な植物であったことの現れである。

[湯浅浩史 2020年7月21日]


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世界大百科事典(旧版)内のアマの言及

【アサ(麻)】より

…また,広義にはタイマに類似した靱皮繊維を採る植物,およびその繊維の総称でもある。アサと呼ばれる植物には,タイマ(アサ科)のほかに植物学的には直接的な類縁がないチョマ(苧麻,カラムシ),ボウマ(莔麻,イチビ),コウマ(黄麻,ジュート,ツナソ),アマ(亜麻),ケナフ(洋麻)などがある。タイマと同様これらの茎の表皮のすぐ下の部分(靱皮)から繊維が採れる。…

【麻織物】より

…天然の植物繊維である麻を使った織物。麻の種類や幹,茎,葉など採取する部分の相違によって種類,製法もきわめて多く,性能,用途も異なる。おもなものに亜麻(フラックス。織ったものをリネンと呼ぶ),苧麻(ちよま)(ラミー,カラムシともいう),大麻(ヘンプ),黄麻(ジュート,つなそともいう),マニラ麻,サイザル麻などがある。麻類はそれぞれ相違はあるが,多くは繊維細胞が集まって繊維束を形づくっており,繊維束の繊維素以外に表皮や,木質部,ゴム質,ペクチン質などを含有しているので,より細かく分繊して糸にし織物にするのが良く,ロープ,紐類などは繊維束をそのまま撚り合わせて使用する。…

【亜麻仁油】より

…アマの種子から得られる乾燥性の脂肪油。通常,圧搾法で採油する。…

【織工】より

…織物の製造に従事する職人。用いる材料によって,また織り方によって職種や職人のあり方は歴史的地域的に多様であり,〈織物〉〈絹織物〉〈毛織物〉〈綿織物〉などの項目も参照されたい。また日本の古代・中世の高級織物の織成に従事した〈織手(おりて)〉については別に独立項目がある。
[ヨーロッパ]
 織物生産は古来農家の副業として婦人によって営まれ,領主館や修道院では隷属民が亜麻布を生産していた。ドイツの商人たちはそれらをシャンパーニュの大市などに運んでいたのである。…

※「アマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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