アリバチ(読み)ありばち(英語表記)velvet ants

改訂新版 世界大百科事典 「アリバチ」の意味・わかりやすい解説

アリバチ (蟻蜂)
velvet ant

膜翅目アリバチ科Mutillidaeに属する外部捕食寄生性のハチ総称カリウドバチより原始的で,巣はつくらず寄主を刺針で麻痺させてからその体表に卵を産みつける。雄は一般に有翅だが雌は無翅。体は暗色の毛に覆われ,腹部白色,黄色,赤色などの密な毛が横帯を形成する。体長3~30mm,通常雄のほうが大きい。世界中に分布し,とくに熱帯と亜熱帯に多い。ほとんどが膜翅目の有剣類に属するハチ類の前蛹(ぜんよう)やさなぎの体表,またはそれらの入っている繭の内面に卵を産みつける。獲物はほとんど動かないので,麻痺させる必要はなく,産卵管産卵と産卵のために繭を貫通することだけに使われる。日本産のミカドアリバチMutilla europaea mikadoは,コマルハナバチトラマルハナバチを寄主とする。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アリバチ」の意味・わかりやすい解説

アリバチ
ありばち / 蟻蜂
velvet ants

昆虫綱膜翅(まくし)目アリバチ科の総称。和名は「アリに似たハチ」の意であるが、アリも実はハチの仲間である。雌は体長5~12ミリメートル、つねに無翅で、有翅の雄よりも小さく、形態も異なる。全身密に剛毛に覆われてビロード状なのが英名の由来。寄生性の昆虫で、雌は地上を徘徊(はいかい)し、地中の他のハチ(アナバチベッコウバチコハナバチ、マルハナバチなど)の巣に侵入してその幼虫に産卵する。日本にはミカドアリバチ属Mutilla、ヒトホシアリバチ属Smicromyrme、フタホシアリバチ属Timulla、トゲムネアリバチ属Squamulotillaなどの4属を産するが種数は多くない。形態や和名が似ているアリバチモドキ属Myrmosaやツヤアリバチ属Methochaは、近縁のコツチバチ科に属する。ツヤアリバチ類は日本には2種いて、甲虫のハンミョウ類の幼虫に寄生する。

[平嶋義宏]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アリバチ」の意味・わかりやすい解説

アリバチ
Mutillidae; velvet ant

膜翅目アリバチ科の昆虫の総称。一般に小型のハチで,日本産種は体長 10mm以下のものが多い。和名は雌が無翅で一見アリに似ることによるが,英名は体に密生する短い剛毛の特徴による。雄は通常有翅。体は黒色胸部が赤褐色を帯びる種が多く,普通腹部には毛による斑紋がある。第2腹節背板両側にフェルト線と呼ばれる微毛帯があり,本科の顕著な特徴となっている。雌の胸部は背面で完全に融合し環節が認められないが,雄では普通の環節がある。産卵管は非常に長く,刺されると非常に痛い。砂地に多くみられ,他の狩人蜂やミツバチ類の幼虫に寄生する。日本にはマルハナバチの巣に寄生するミカドアリバチ Mutilla mikadoなど約 10種を産する。

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百科事典マイペディア 「アリバチ」の意味・わかりやすい解説

アリバチ

膜翅(まくし)目アリバチ科の総称。雌は翅を欠き,一見アリに似るが,産卵管は他のハチと同様に毒針でもあるためこの名がある。雄は翅をもつ。日本にはミカドアリバチなど数種類あり,いずれもほかの昆虫の幼虫に寄生する。

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