アルザスロレーヌ問題(読み)アルザスロレーヌもんだい

改訂新版 世界大百科事典 「アルザスロレーヌ問題」の意味・わかりやすい解説

アルザス・ロレーヌ問題 (アルザスロレーヌもんだい)

アルザスAlsaceとロレーヌLorraineはフランス北東部の地方である。1870-71年の普仏戦争の結果,フランスはベルフォール管区を除くアルザスとロレーヌ北部をドイツに割譲した。この地方はドイツとフランスの接触地帯として軍事的に重要な地位にあり,また鉄鉱石炭,カリウムなどの資源が豊富であるため,独仏両国の絶えざる係争の地となった。1872年11月1日以前に,フランス国籍を選んだアルザス・ロレーヌ人は15万8000で,フランスやアルジェリアに亡命した。1871年から1914年にかけて,アルザス・ロレーヌ領有問題はフランスの軍事計画と外交政策に重要な意味をもっていた。両地方を失った結果,戦略上の重要性以外に,ドイツがルールの石炭と鉄鉱産地,製鉄・製鋼設備を手に入れたことである。アルザス・ロレーヌ地方の人々は併合に抗議し,国民投票を要求したが拒絶された。1879年に地方政府が認められたというものの,ドイツ帝国政府の代理者が絶対的な権限をもち,地方自治へのあらゆる試みは芽のうちに摘まれた。95年以後,フランス政府は教権反対政策によってアルザス・ロレーヌのカトリック教徒の大多数をドイツから離間させ,ドイツ領内の自治州化をはかった。1911年の新憲法によって自治への道は開かれたが,その政治効果は駐留するドイツ軍によって相殺された。その結果,軍隊と市民の衝突がしばしば起こった。第1次大戦後,再びフランス領になり,列強としてのフランス復活の象徴となった。しかし,フランスへの急激な同化政策は宗教教育を廃した学校教育と,公用語としてアルザス語からフランス語へ切り換えようとした際,摩擦を引き起こした。第2次大戦中,ドイツは再びアルザス・ロレーヌを併合し,同化をはかったが失敗に終わり,戦後再びアルザス・ロレーヌはフランスへと復帰した。ドーデの《月曜物語》中の〈最後の授業〉は,この地方の民族悲劇を描いたものとして著名である。
アルザス
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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