イサチン(英語表記)isatin

改訂新版 世界大百科事典 「イサチン」の意味・わかりやすい解説

イサチン
isatin



2,3-ジオキソインドリンともいう。1840年代にエルトマンO.L.ErdmannおよびローレントA.Laurentがインジゴの酸化によって初めて得た。構造はA.F.ケクレが69年に提出,78年にJ.F.W.A.vonバイヤーによって別途に合成されて確認された。インジゴ系染料の中間体として重要な化合物である。赤色針状結晶で昇華性があり,融点は203.5℃。冷水には溶けないが,熱水エーテル,熱アルコールには溶けて赤茶色の溶液となる。X線回折法によると結晶状態での構造はラクタム型で,溶液状態では互変異性体のラクチム型(プソイド(ψ)-イサチン)も存在する。両性物質で,ナトリウム塩や銀塩,過塩素酸塩をつくる。また,硫酸中ではチオフェンと反応し深青色を呈する。この反応はインドフェニン反応といい,チオフェンの検出に用いられる。アニリンクロラールおよびヒドロキシルアミンとを縮合させて合成される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イサチン」の意味・わかりやすい解説

イサチン
いさちん
isatin

環内に窒素原子を含む複素環式化合物の一つ。1H-インドール-2,3-ジオンともよばれる。容易に相互変換するラクタム形とラクチム形の平衡混合物として存在する。ラクチム形をψ(プサイ)-イサチンとよぶ。

 黄赤色結晶で昇華性がある。冷水には溶けにくく、熱水、熱エタノールに溶けるが、エーテルには難溶である。加熱すると加水分解してイサチン酸になる。バット染料(建染(たてぞ)め染料)の中間体、銀および銅の検出試薬としての用途をもつ。

[廣田 穰]

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化学辞典 第2版 「イサチン」の解説

イサチン
イサチン
isatin

indoline-2,3-dione.C8H5NO2(147.13).インジゴインドール類の酸化反応で生成する.ラクタム-ラクチム互変異性混合体.反応試薬によってラクタム形あるいはラクチム形として反応する.黄赤色の柱状晶.融点203.5 ℃.pKa 10.34±0.20.昇華性である.冷水に難溶,熱水に易溶,メタノール,エタノール,アセトン,ベンゼンに可溶,冷希アルカリに可溶(紫色).加熱により加水分解してイサチン酸を生じる.[CAS 91-56-5]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イサチン」の意味・わかりやすい解説

イサチン
isatin

化学式 C8H5NO2 。黄赤色結晶で融点 204℃。銀や銅イオンの検出,ベンゼン中の微量チオフェンの比色定量に用いられる分析試薬。合成化学上の用途はあまりないが,ラクタム-ラクチム互変異性体として構造上興味ある物質である。

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世界大百科事典(旧版)内のイサチンの言及

【ラクタム】より

…ラクタムは-N=C(OH)-構造をもつラクチムlactimと互変異性の関係にある。たとえば,イサチン酸のラクタムであるイサチンは,次に示すようにラクタム型では(1),ラクチム型では(2)の構造をもつ。(化学式)γ‐およびδ‐ラクタムは相当するアミノ酸を加熱すると得られるが,ε‐ラクタム以上の大環状ラクタムはこの方法では生成せず,環状ケトキシムのベックマン転位により合成される。…

※「イサチン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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