イシダイ(読み)いしだい(英語表記)barred knifejaw

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イシダイ」の意味・わかりやすい解説

イシダイ
いしだい / 石鯛
barred knifejaw
[学] Oplegnathus fasciatus

硬骨魚綱スズキ目イシダイ科に属する海水魚。北海道から九州南岸の太平洋と日本海沿岸、八丈島、小笠原(おがさわら)諸島、屋久島(やくしま)、南西諸島、ピョートル大帝湾、朝鮮半島、黄海、中国江蘇(こうそ)省、香港(ホンコン)、台湾など西太平洋に分布する。体高が高く、著しく側扁(そくへん)する。口は小さく、上顎(じょうがく)の後端は目の前縁下に達しない。鳥の嘴(くちばし)のような硬い歯がある。この歯は多くの小さい歯が屋根瓦(がわら)を並べたように重なり合って癒合してできたものである。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨に歯がない。鱗(うろこ)はきわめて小さく、はがれにくい。背びれは11~12棘(きょく)17~18軟条。臀(しり)びれは3棘12~13軟条、背びれと臀びれの軟条部は成長に伴っていくぶん伸長する。体色は淡い青灰色で、体側に背部から腹方にかけて7本の黒い横縞(よこじま)があるのでシマダイともよばれる。成長すると横縞は不明瞭(ふめいりょう)になる。雄では横縞は完全に消失し、口辺が黒ずんでくるのでクログチクチグロとよばれる。南日本の磯(いそ)に多く、成魚は波の荒い岩場にすむ。4月上旬から7月下旬ころ外海に面した岸近くで、日没時に産卵する。1尾の雌に数尾の雄が追尾し、雌が水面近くで反転、急降下して産卵し、雄が放精する。卵は直径約0.9ミリメートルの浮性卵で、孵化(ふか)した稚魚は全長9ミリメートルくらいになるとホンダワラなどの流れ藻の下に集まり、浮遊性の甲殻類を食べて成長する。全長4~5センチメートルになると流れ藻を離れ、海岸近くで数尾の群れをなして遊泳する。このころには横縞がはっきり現れ、臼歯(きゅうし)は8列に並び、コケムシや海藻などを雑食する。全長15センチメートルくらいに成長するとイシダイ特有の嘴状の歯を備えるようになり、岩場に移ってサザエアワビ、ウニ、フジツボ、カニなどをかみ砕いて食べる。1年で全長15センチメートル、3年で25センチメートル、5年で35センチメートルほどになる。最大全長は45センチメートルに達する。定置網刺網(さしあみ)、一本釣り、突きで漁獲され、刺身、塩焼き、煮つけ、鍋物(なべもの)などにするとおいしい。

 好奇心が強くて人になれやすい魚で、水族館ではよく飼育されている。餌(えさ)で手なづけ、条件反射を利用して、玉ころがしや輪くぐりなどの芸をさせて人気を集めている。釣り上げるときに引きが強いので、磯釣りの対象魚として人気がある。高級魚であるので、養殖技術が開発され、人工的に種苗の育成が可能となった。九州方面の水産試験場などでは多数の種苗が生産され、これが各地の海域に放流されている。同科の近似種に、体側の斑紋(はんもん)が石垣模様のイシガキダイがいる。両種の自然交雑種が発見されているが、1970年(昭和45)に近畿大学がイシダイの雌とイシガキダイの雄の人工交雑に成功し、この雑種をキンダイと命名した。

片山正夫・尼岡邦夫 2021年2月17日]

料理

体側に7本の黒線がみられるが、30~40センチメートルくらいの大きさになると、側線がはっきりみえない。この程度のものが味がいい。夏に味が増す。関西ではハフ、紀州(和歌山県)ではイワシナベという異名がある。北海道ではシマダイというが、東京でシマダイというとタカノハダイをさす。刺身、洗い、煮物にする。焼くと肉が固くなるので、塩焼きにはあまりされない。養殖物もあり、味は天然物に劣るが、肉はわりあいに柔らかい。

[多田鉄之助]

釣り

磯の大物釣りの代表魚。水温16℃から22℃あたりが就餌(しゅうじ)もよく、春から秋にかけてが釣り期である。5メートル級のイシダイ用竿(さお)に、両軸受型の磯大物用リールをセットする。道糸は標準の太さ14~16号を150メートルとするが、大形魚の多い釣り場では20号から30号という太いものにする。仕掛けは、オモリが上下に移動する遊動式、天秤(てんびん)の遊動、胴づき式もある。釣り場が岩礁帯の海溝なので、鉤(はり)やオモリが底掛りすることもあり、これが多いときは胴づき式でやったほうが無難である。鉤はイシダイ鉤12~15号が基本で、大形魚には16~20号を用いる。この鉤を結ぶ糸は一般にイシダイ用ワイヤ7本撚(よ)り38番から40番を用いる。中小形の魚では、ナイロン糸10~16号のハリスにすることもある。餌はサザエ、トコブシの身、イセエビ、ヤドカリ、ウニ、カラスガイ、アカガイなど。釣り場の第一条件は、海流の影響を受ける磯で、50メートルほど沖で水深10~50メートルぐらいある岩礁帯。釣り場によっては渡船で沖に浮かぶ小島に上陸して釣る。単独行は避け、救命具など海難防止対策を万全にしたうえで釣り始める。魚信は、置き竿の場合は、竿先にくる小さな前触れから、ぐうっと持ち込まれるときに大きくあわせて竿を立て、一気にリールを巻く。魚を鉤にかけて、一瞬気を抜くと、魚は海溝に逃げ込んで、出てこなくなって失敗する。

[松田年雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「イシダイ」の意味・わかりやすい解説

イシダイ (石鯛)
Oplegnathus fasciatus

スズキ目イシダイ科の海産魚。同科のイシガキダイとともに歯が積み重なり,間隙(かんげき)が石灰質でみたされくちばしのようになっているのが特徴。体側に7本の幅の広い黒い横縞があり,シマダイ,シチノジなどとも呼ばれる。この縞は成長するとはっきりしなくなり全体に黒ずんでくる。老成魚では口のまわりが黒くなってくるので,とくに関西ではクログチ,クチグロ,ブラックマスクなどの呼名も使われる。北海道以南の各地の沿岸に見られるが南日本に多い。産卵期は4~7月。初夏から流れ藻に数cmの稚魚が見られる。5~10cmくらいになると流れ藻から離れて礁に群れる。好奇心が強く,いろいろなものをつつきかじりたがるので,チンボカミの別名がある。大きくなるにつれてやや深みへ移る。鋭い歯でウニや貝類のような硬いものをばりばり食べる。磯釣りの好対象。全長65cmくらいになる。夏に美味。東京付近では4月ころから脂がのってうまくなる。肉がかたいので,刺身,洗いが最上。
執筆者:

イシダイ釣りの期間は,地域による潮温差で違うが春と秋がとくに好機。冬は水温低下でシーズンオフ。斧のような鋭い歯と,引く力の強さのために,専用のイシダイざお,ドラッグ調整機構の大型両軸受けリールを用いる。道糸は魚の大きさにより12号から26号の太さを100m以上巻く。針は専用15~17号が標準。針を結ぶ糸は専用ワイヤ38番から37番。1本針または2本針での投込み釣り。餌はサザエ,トコブシ,イセエビ,ウニなど。岩礁帯の海溝状になっている海底を釣場にして水深10~40m前後のところが目安になる。置きざおにして待つと,1回,2回と小刻みにさお先がもちこまれ,3回目に大きく曲がるのを待ってさおを立てるのがふつう。南方釣りといい,さおをもち磯寄りの中層をねらう方法もある。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「イシダイ」の意味・わかりやすい解説

イシダイ

イシダイ科の魚。地方名シマダイ,チシャ,ヒサなど。全長65cm余になる。上下の歯は顎骨(がっこつ)と合着し,強固なくちばし状になっていて,ウニや貝類などの硬い動物を好んで食べる。好奇心が強くいろいろなものをかじりたがるのでチンボカミの別名がある。稚魚時代は流れ藻について海面近くで生活する。北海道以南の各地の沿岸に分布。夏は美味で,特に大型のものは,洗い,刺身,塩焼によい。磯釣の対象魚。
→関連項目イシガキダイ

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イシダイ」の意味・わかりやすい解説

イシダイ
Oplegnathus fasciatus

スズキ目イシダイ科の海水魚。全長 50cm余。体は青みがかった淡黒色で,若魚や雌では明瞭な7条の黒色横帯がある。体高は高く,側扁し,口は小さく嘴状に突き出す。沿岸性。雑食性でウニ類など硬い動物を食べる。磯釣魚として有名。北海道以南に分布する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android