イソキノリン(英語表記)isoquinoline

改訂新版 世界大百科事典 「イソキノリン」の意味・わかりやすい解説

イソキノリン
isoquinoline



縮合環式化合物の一つ。キノリン異性体で,3,4-ベンゾピリジン,2-アザナフタレンともいう。1885年にコールタール中から初めて単離され,ガブリエルS.Gabrielにより合成された。石油原油中にも含まれる。ベンズアルデヒドのような特有のにおいをもつ。無色の吸湿性固体で,融点26.0℃,沸点242.5℃。水にはほとんど不溶,有機溶媒には可溶である。キノリンより強い塩基で,塩基解離指数pKb=8.62(20℃)。

 アルキル化剤と窒素原子上で反応して四級塩をつくり,過酸化水素と酢酸N-オキシドをつくる。求電子置換反応は一般に環の5位で最も起こりやすい。たとえば濃硫酸によるスルホン化,臭化アルミニウム存在下での臭素化などで5-置換体が生成する。酸化するとフタル酸およびシンコメロン酸が得られる。フェニルエチルアミンからN-アシル化合物を経て,オキシ塩化リンまたは塩化リン(V)と加熱し閉環後酸化する方法が一般的である。誘導体は,染料殺虫剤,ゴム添加剤,医薬品として用いられる。イソキノリンの誘導体とみられるアルカロイドは天然に多く存在し,イソキノリンアルカロイドと総称される。ケシアルカロイド(モルフィン,パパベリン),サボテンアルカロイド(アンハラミン),ベルベリンアルカロイド(ベルベリン)などがこれに属する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イソキノリン」の意味・わかりやすい解説

イソキノリン
いそきのりん
isoquinoline

環内に窒素原子を含む複素環式芳香族化合物の一つ、2-アザナフタレンともいう。コールタール中に存在し、硫酸塩としてコールタールから分離する。ベンズアルデヒドとアミノアセタールの縮合により合成できる。

 キノリンの異性体、無色の固体で、悪臭をもつ。普通の有機溶媒に溶けるほか、酸類には塩をつくって溶ける。抗マラリア剤などの医薬、染料、殺虫剤などの合成原料としての用途をもつ。

[廣田 穰]

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化学辞典 第2版 「イソキノリン」の解説

イソキノリン
イソキノリン
isoquinoline

benzo[c]pyridine.C9H7N(129.16).キノリンの異性体.コールタール中に存在する.ベンズアルデヒドと2-アミノアセトアルデヒド=ジエチルアセタールとの反応,またはホモフタルイミドの亜鉛末蒸留により得られる.キノリン様の臭いをもつ無色の板状晶.融点26.5 ℃,沸点243.3 ℃.水に不溶,希鉱酸および普通の有機溶媒に可溶.酸化するとフタル酸およびシンコメロン酸を生じる.医薬,染料,殺虫剤,ゴム加硫促進剤などの合成原料に使われる.[CAS 119-65-3]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イソキノリン」の意味・わかりやすい解説

イソキノリン
isoquinoline

キノリンの異性体で,3,4-ベンゾピリジンともいわれる。塩基性物質としてアニリンとともにコールタールに含まれる。無色板状晶または液体。融点 27℃,沸点 243℃。医薬,農薬,染料などの合成原料。天然物であるアルカロイドにこのイソキノリン骨格をもつものが多い。キノリン様の特異な臭いをもつので密閉して保存する。

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