イミタティオクリスティ(英語表記)De imitatione Christi

改訂新版 世界大百科事典 「イミタティオクリスティ」の意味・わかりやすい解説

イミタティオ・クリスティ
De imitatione Christi

聖書に次いで愛読されてきたといわれる,キリスト教的信心名著。著者についてはかつて盛んな論争があったが,トマス・ア・ケンピス(1380ころ-1471)の作とされる。彼はデュッセルドルフ近くのケンペン生れ,12歳でG.フローテが初代キリスト信者の生き方にならって創立した〈共同生活兄弟会〉に入る。司祭となり,副修道院長もつとめたが,終生筆写などの労働と祈り,読書,著述に専念する簡素な生活を愛した。本書4巻の内容は霊的生活のための勧告,内的生活への導き,キリストの内的な語りかけ,聖体の秘跡であり,カトリック信仰ないし教義の完全な説明というよりは,信者,とくに修道者の内的生活を深めるための一連の黙想である。1427年ころ完成,直ちに多数の写本流布,印刷本は72年に出たが,83年のベネチア版は1500年までに50版を重ね,18世紀末にはすでに1800の異なった版と翻訳が現れた。日本でも1596年刊のキリシタン版《こんてむつすむんぢ》以来,《キリストに倣いて》《キリストのまねび》など,10種類以上の訳が試みられた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のイミタティオクリスティの言及

【キリスト教】より

…これらの異端は13世紀に入って形をととのえた異端審問制度によって弾圧されたが,清貧と説教の生活がベルナールやエックハルトをはじめとする多くの神秘家にうけつがれて,新しい敬虔と知の形態を生んだことは重要である。それは聖職者中心の教会と異なる民衆の敬虔でもあって,15世紀になるがトマス・ア・ケンピスの作とされる《イミタティオ・クリスティ》ほど多くの人に読まれたものはほかにない。 このような,10世紀の修道院改革から生じて時には異端と接しながらも深化した敬虔は,教会の学問である神学にも大きな影響を与えてきた。…

【ドイツ神秘主義】より

…この潮流は14世紀後半にはライン川をさらに下って北ドイツおよびネーデルラントにおいて,内面的にしてしかも実践的な〈近代的敬虔(新しき信心)Devotio moderna〉の運動を展開し,ロイスブルークフローテ,F.ラーデウェインスなどの活動を通して修道院制によらない新しい〈共同生活の兄弟会〉が形成された。トマス・ア・ケンピスの作とされるかの《イミタティオ・クリスティ》もこの運動から生まれたものである。若き日にこの兄弟団の教育を受け長じて枢機卿に挙げられたニコラウス・クサヌスは,哲学者としてエックハルトの精神を再び形而上学的思弁の次元で受け継ぎ,〈学識ある無知docta ignorantia〉〈反対の一致coincidentia oppositorum〉などの独特な考え方によって無限性の思惟を遂行した。…

【トマス・ア・ケンピス】より

…1413年司祭となり,その長い生涯を同修道院のなかで送った。今日なお論争の最終的結着はついていないが,彼が《イミタティオ・クリスティ》の著者であることはほぼ確実視されている。すなわち,彼が書きのこした多くの信心生活に関する論考のうち,四つが一つにまとめられ,この表題の下に後世に伝えられたと推定される。…

【原田アントニオ】より

…トマス・ア・ケンピス著《イミタティオ・クリスティ》の国字本《こんてむつすむんぢContemptus Mundi》を1610年(慶長15)京都で出版した民間印刷業者。生没年不詳。…

※「イミタティオクリスティ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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