インダストリアル・エンジニアリング(読み)いんだすとりあるえんじにありんぐ(英語表記)industrial engineering

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

インダストリアル・エンジニアリング
いんだすとりあるえんじにありんぐ
industrial engineering

IEと略称し、経営工学産業工学生産工学などと訳されるが、訳はいずれも内容を適確に反映しているとはいいがたく、そのためIEがもっとも広く用いられる。IEの定義には種々のものがあり、IEの発展とともに変化してきているが、アメリカIE協会は、「IEは、人間、資材、設備、およびエネルギーの総合されたシステムの設計、改善、および実施に関する技術である。IEは、このようなシステムによって得られる結果を明示し、予測し、評価するために、工学的な分析や計画に関する方法とともに、数学物理学、および社会科学における専門知識や技法を使用する」としている。また日本IE協会は、「IEは、人間、材料、および設備が一体となって機能を発揮するマネジメント・システムの設計、改良、設置をすることである。前記システムの成果を規定し、予測し、評価するために、数学、自然科学、人文科学中の特定の知識を利用するとともに、技術上の分析と総合についての原理と手法を併用する」としている。これらを通じた特徴を要約すれば、経営管理の問題解決へのエンジニアリング的(工学的)アプローチということになる。

 IEの内容は、(1)経営管理全般に関するもの、(2)生産(作業)に関するもの、(3)その他のもの、に大別することができよう。

 経営管理全般に関するIEとしては、長期経営計画策定のための各種経営予測、マピー法MAPI)に代表される設備計画、新製品の研究・開発・評価、情報システムの設計と管理、事務のオートメーション化すなわちOA(office automation)、商品計画などがある。これらを通じてもっとも広く用いられる手法はオペレーションズ・リサーチ(OR)である。

 生産(作業)に関するIEは、IEの中心部分であり、狭義のIEである。その基礎は、作業測定と作業改善からなる作業研究である。作業測定の源流は、F・テーラーの科学的管理法における時間研究であるが、最近の作業測定は、時計のような器具を用いないで標準時間を測定するPTS法(既定時間法)としてワーク・ファクター法(WF法)、MTM法、DMT法(dimensional motion times)などの方法が広く用いられる。作業測定は作業実施前の計画段階で、動作と作業の関係を定量的に分析することを可能にする。作業改善はメソッド・エンジニアリングmethod engineering(方法技術)ともよばれ、ギルブレス動作研究を源流とする。現在の作業改善は、メモ・モーションなどの高度撮影技術、VTRなどを用いる個々の動作や作業の改善と、それらの作業から構成される工程を全体として分析・改善する工程分析とに大別される。また作業改善は生産現場の作業についてのみでなく、事務作業についても実施される。IEは、これら作業測定と作業改善に基づいて、生産計画、工場配置、作業管理、賃金管理などへ展開され、またこれら主要な管理を円滑化するために、資材管理、在庫管理、設備管理、運搬管理、エネルギー管理(動力管理、熱管理など)、品質管理、外注管理など、実体面について工学的・技術的貢献をし、原価管理、原単位管理などの計数面についてもそれを補強する役割を果たす。

 その他のIEとしては、たとえばインダストリアル・デザインがある。これは、顧客の要求、設計能力、生産加工能力など、あらゆる条件を考慮に入れて、適切な製品内容を決定するための体系的方法である。

 IEの導入と実施は、経営管理の科学化に不可欠であるが、その推進主体はIE部門である。しかし、もっとも重要なことは、部門を設けるか否かではなく、IE技術者を育成すること、IE的な思考を浸透させることである。

[森本三男]

『甲斐章人著『IE基礎要論』(1996・税務経理協会)』

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百科事典マイペディア の解説

インダストリアル・エンジニアリング

仕事に従事する人間,もの,設備などの投入資源をより少なくし,産出される製品やサービスをより多くすることをめざす管理技術の体系。IEと略称。生産工学,経営工学と訳され,狭義には作業研究を土台とし生産工程の合理化を目的とする諸技術を意味し,これに在庫管理,品質管理など側面的効果をもつ諸管理の技術が組み合わされる。IEの源流は20世紀初頭の科学的管理法にまでさかのぼるが,今日では経営戦略にオペレーションズリサーチとか経営情報システム(MIS),あるいはIDP方式のような現代的手法が導入されIEの意味も広義化した。これにともなって,最高経営者のための技術体系,あるいは企業経営の総合的なシステム形成を目的とする技術体系としての性格が強くなった。
→関連項目経営工学システム工学動作研究

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

インダストリアル・エンジニアリング
industrial engineering; IE

人,資材および設備の総合的システムの設計,導入,改善を対象とする工学の一分野。そのシステムから生じる結果の規定,予測,評価のためには,数学,自然科学,社会科学の専門的知識,熟練ならびに工学的解析,工学的設計の原則と方法を使う。製造業での研究と応用に始るが,適用分野は製造業に限定されず,医療機関,政府機関,輸送業,農業,商業その他のきわめて広い範囲にわたる。独立した工学分野として発展したのは 20世紀に入ってからで,F.W.テーラーの作業研究,F.B.ギルブレス動作研究,ガントの工程研究の発展として,生産部門のライン部門のなかで,最適の生産達成を目的に展開されているが,近時は生産面の技術的,人間管理的複雑性が急増したため,生産を中心とする経営に科学的知識と工学的手法を総合的に適応し,合理化や意思決定の推進をはかるアプローチがとられている。

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