ウグイス(読み)うぐいす(英語表記)bush warbler

翻訳|bush warbler

改訂新版 世界大百科事典 「ウグイス」の意味・わかりやすい解説

ウグイス (鶯)
bush warbler
Cettia diphone

ホーホケキョ(法法華経)とさえずることでよく知られている,スズメ目ヒタキ科の鳥。全長約16cm,全体に薄い緑色みを帯びた灰褐色をしており,いわゆるうぐいす色ではない。雌雄同色だが,雌は雄よりも小さい。中国東北~南東部,朝鮮半島,サハリン,日本に分布し,日本では北海道から九州,沖縄までの各地に生息している。ササやぶ,タケやぶ,低木林などに好んですみ,暗い林内にはあまり入っていかない。食物はおもに昆虫。1年を通じて単独,またはつがいでくらしており,群れにはならない。姿を見せることは少なく,やぶ中をチャッ,チャッという声を出しながら移動していく。この声を〈笹(ささ)鳴き〉,このウグイスを〈やぶウグイス〉と呼ぶことがある。また谷から谷にひびき渡るように鋭くキキキキキッキョキッキョと鳴くのは〈谷渡り〉といわれる。ホーホケキョという雄のさえずりは,春かなり早い時期から聞かれる。一般に温暖な地方ほど早く,その〈初鳴き前線〉は季節の進行とともに北上していく。本州中部では3月初めころから聞かれる。

 このさえずりは,テリトリー宣言として働くと同時に,そこに雌を引き付けるのにも役だっている。1羽の雄のテリトリー内に二つの巣が発見されることがあり,一部は一夫多妻で繁殖するらしい。巣はササ上にササの葉を使ってつくられ,側面に入口がある。卵はチョコレート色で,1巣に4~6個産みこまれる。巣づくりや抱卵は雌だけが行う。5月末から7月初めころに繁殖するものは,しばしばホトトギスに托卵(たくらん)される。

 この鳥が属するウグイス亜科には300種を超える鳥が含まれる。全長10~18cmほどの大きさで,全体に褐色や灰色のじみな羽色をしている傾向がある。ヨーロッパ,アジア,アフリカ,オーストラリアに広く分布しているが,アメリカ大陸にはいない。よく茂った枝葉の間をすばやく動き回り,昆虫やクモをとって食べる。

 この類は,習性上いくつかのグループに分けられる。針葉樹の枝葉の間で採食するキクイタダキ類,広葉樹林にすむムシクイ類,ヨシ原などの湿性草原にすむヨシキリ類,乾いた草むらに潜むセンニュウ類やセッカ類,それに,低木やササやぶなどをすみかとする狭義のウグイス類などである。これらそれぞれのグループ内の近縁種は,互いに姿,羽色が非常によく似ているが,さえずりは種ごとにはっきりと違っている。
執筆者:

春に早く現れて微妙な声で鳴くので,春告鳥,花見鳥,歌詠鳥,経読鳥などの異称がある。この鳥を重要な要素とする昔話に,鳴声で父が子の死を知る〈継子と鳥〉,禁止を守らず幸福を失う〈見るなの座敷〉,愚か嫁がウグイスの声をまねて失敗する〈鶯言葉〉などがある。これらに現れるウグイスの声がもっとも重要な関心事だった人々が催したのが〈鶯合(うぐいすあわせ)〉で,各自飼い慣らした鳥の鳴声の優劣を競う春2月の遊びで,公式にもまた民間でも江戸時代には盛んに行われた。これを飼育するには1羽ずつすり餌籠に入れ,さらに障子紙をはった桶に入れる。餌にはすり餌を用い2日に1度の割合で水浴させ,つねに籠の中を清潔に掃除する。照明時間を調節すれば早期に鳴かせることができる。また,ウグイスの糞は肌を美しくする効があるとして古くは洗顔に使用した。なお,現在ではウグイスの飼養には許可が必要である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウグイス」の意味・わかりやすい解説

ウグイス
うぐいす / 鶯
bush warbler
[学] Cettia diphone

鳥綱スズメ目ヒタキ科ウグイス亜科の鳥。ウメの花が咲くころ人里近くでホーホケキョ(法、法華経)と鳴き始めることから、ハルツゲドリ(春告鳥)ともよばれ、親しまれている。秋から春にかけては平地や低い山で過ごし、チャッチャッという声(笹鳴き(ささなき)という)を出しながらやぶを伝っていくので、このころのウグイスをヤブウグイス藪鶯)ということがある。夏に山の中でさえずっているときに何かに驚いて、ケッキョー、ケッキョーと鳴きたてるのを「鶯の谷渡り」という。

[竹下信雄]

形態・生態

ウグイスの分布は比較的狭く、日本と、アムール川(黒竜江)から揚子江(ようすこう)にかけての東アジアにのみ産する。日本では小笠原(おがさわら)諸島、南西諸島などにも分布している。渡りについてはよくわかってはいないが、樺太(からふと)(サハリン)南部、南千島、北海道では夏鳥であり、海を越えて渡るものがあることは確かである。本州以南のものは、平地に漂行する程度の、ごく小規模な移動をするものが多いと考えられる。雌雄同色で、上面はオリーブ褐色(いわゆる鶯色)、下面は汚白色。雄が一回り大きく、全長約16センチメートル、雌は約13センチメートル。繁殖期のウグイスは、山地の大きな樹木の生えていない明るいササやぶを中心に生活し、巣はササの枝、または低木の地上1メートルぐらいのところにつくる。巣の外形は、ササの葉を絡ませた球形で、横に丸い入口があいている。卵の数は4~6個で、鳥の卵としては珍しく光沢のある赤褐色。営巣場所の決定、巣づくり、抱卵、育雛(いくすう)はすべて雌だけが行い、雄はもっぱら縄張り(テリトリー)の防衛にあたる。

 食物は四季を通じて、昆虫類、クモ類がおもで、低木やササを飛び移りながら、体の上にある枝や葉の裏側を見上げて獲物を探し、伸び上がって、または飛び上がって捕まえる。冬には熟したカキなど、植物質のものも多少とる。ウグイスの好む明るいササやぶは、日本の自然では山火事や崖(がけ)崩れのあとの裸地にのみ一時的に生じるもので、いずれは森林に変わっていき、ウグイスはすめなくなる。しかし現在の日本では、森林の伐採林道の建設などによって、図らずもウグイスの好む環境づくりに人為的な力が働いている。

[竹下信雄]

人間生活との関係

「梅に鶯」の組合せは日本の伝統的な詩歌や画にしばしばみられ、また物事の組合せが適切なことのたとえに使われる。この語がみられるのは、漢詩集『懐風藻(かいふうそう)』(751)以降のことで、それまでは「竹に鶯」が普通であった。梅も、もとは日本に自然分布せず、飛鳥(あすか)時代に中国から持ち込まれたものであり、『懐風藻』の「梅と鶯」の詩も中国の詩が下敷きになっている。中国の「鶯」は、全長26センチメートルもある黄と黒の配色が美しいコウライウグイス科のコウライウグイスをさす。また、夜鳴き鶯、小夜(さよ)鳴き鳥などの異名がたくさんあるヨーロッパ産の小鳥は、ヒタキ科ツグミ亜科のナイチンゲールである。

 日本のウグイスは、江戸時代から、鳴き声を楽しむために飼われ、夜間も照明を与えることにより、さえずりの始まる時期を早めて正月に鳴かせる「夜飼い」、米糠(こめぬか)、大豆粉、魚粉を混合したものを水で練って、ウグイスなどの食虫性の小鳥の飼養を容易にした「擂餌(すりえ)」などの技術を発達させてきた。また、さまざまな変わった鳴き声を競わせることも広く行われてきたが、現在では自然保護の思想から、ウグイスも含めて野鳥の捕獲と飼養は、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」によって厳重な許可制がとられている。なお、ウグイスの糞(ふん)は美顔用として江戸時代から用いられてきたが、各種の化学製品が普及した今日では、あまり利用されていない。

[竹下信雄]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウグイス」の意味・わかりやすい解説

ウグイス
Horornis diphone; Japanese bush warbler

スズメ目ウグイス科。全長 14~16cm。上面と尾は緑褐色で,胸腹部は灰色がかった白色。はやや長い。雌雄同色だが,雄のほうが雌より大きい。中国北東部から朝鮮半島サハリン島,日本に繁殖分布する。中国南部,タイワン(台湾)フィリピン北部に渡って越冬するものもある。日本ではほぼ全国的に繁殖分布し,本州中部以北で繁殖するものの多くは,暖地に移って越冬する。平地から高山までの笹藪や下生えの多い林で繁殖する。秋冬季には平地に移動して市街地の公園や庭などでも姿を見せ,舌打ちのような「ちゃっちゃっ」という地鳴き(笹鳴きという)が聞かれる。繁殖期に「けきょけきょけきょ」と続けて鳴く,一般に「ウグイスの谷渡り」として知られる鳴き声は,雄の警戒声である。また,ホトトギスは自分で巣をつくらずにほかの鳥の巣に托卵する性質で知られているが,おもにウグイスの巣を利用している。北海道では同じカッコウの仲間のツツドリに托卵される。

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世界大百科事典(旧版)内のウグイスの言及

【アエドン】より

…ゼトスとのあいだに一子イテュロスをもうけたが,夫の双生の兄弟アンフィオンの妻ニオベに多くの子どもがあるのを嫉妬し,イテュロスとともに養育されていたニオベの長男の殺害をくわだてた。しかし夜陰に乗じて子どもらの寝室にしのびこんだ彼女は,誤ってわが子を殺したため,悲嘆にくれているところをゼウスによってウグイス(ギリシア語でアエドン)に変えられた。春のウグイスのさえずりは,わが子を刃にかけたアエドンの嘆きであるという。…

※「ウグイス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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