改訂新版 世界大百科事典 「ウミガメ」の意味・わかりやすい解説
ウミガメ (海亀)
marine turtle
四肢が櫂(かい)状に扁平となった海洋性のカメ類の総称。ウミガメ科Cheloniidaeとオサガメ科Dermochelyidaeとに分かれる。世界の熱帯,亜熱帯の海域に広く分布し,日本近海を含む温帯地方にも回遊する。完全な海生種で,陸地には産卵期しか上陸しないが,アオウミガメが日光浴のため無人島の砂浜にやってくることが知られている。現生のウミガメ類の分類には諸説があるが,ウミガメ科を骨格の違いでアオウミガメ亜科とアカウミガメ亜科の2グループに分け,前者にはアオウミガメChelonia mydasとオーストラリアアオウミガメC.depressaの2種,後者にはアカウミガメCaretta caretta,ヒメウミガメLepidochelys olivacea,ケンプヒメウミガメL.kempiiおよびタイマイEretmochelys imbricataの4種を含む考え方が支持されている。
海洋生活に適応してウミガメ類の甲は平らで,他のカメ類より退化しており,頭部と四肢は甲内に完全には引きこめることができない。甲を覆う鱗板は滑らかで,種類によって数や形状が異なる。もっとも遊泳力の優れたオサガメDermochelys coriaceaの甲は軽量で,骨片の集合からなり鱗板も欠く。櫂状の前肢も他のウミガメ類よりも長く強力で,つめもない。ウミガメ類はアオウミガメが海藻を主食とするほかは雑食性で,海藻,魚類,甲殻類,クラゲ,ウニなどを食べている。ふだんはアマモなどが生えた砂地の波静かな浅い海にすむが,産卵期には集団で長距離を大移動して産卵場に押し寄せる。産卵場は岩礁に囲まれた砂浜が選ばれ,同一個体が1シーズンに2~3回,多い場合は6回も産卵を行うため,その間に休息が必要となり,沖合に休息場所としての浅瀬がある場所が好適地とされる。夜間,雌だけが砂浜に上陸し,高潮線よりも上の砂地に前肢で甲が隠れるほどの穴を掘り,次いで後肢で20~60cmほどの深い穴を掘って産卵する。多いものは一度に150~200個ほどのピンポン球のような卵を産み,砂をかけ穴を埋めてから海に帰る。その間は約1時間ほど。卵は8~10週間ほどで孵化(ふか)し,夜明けごろ子ガメは一つの集団となって穴からはい出し,いちもくさんに海に向かって走る。このとき子ガメが海の方角を知るのは,海面の反射ではないかと考えられている。子ガメは海鳥や魚のえじきとなって,成長するのはきわめて少数に過ぎない。
ウミガメ類はタイマイのべっこうをはじめ,甲羅や皮が細工物の材料となるため,また卵が現地では重要なタンパク源となるため乱獲され激減してしまった。現在ではすべての種が厳重な保護下にあり,人工増殖も世界の各地で行われている。日本にはアカウミガメが南西諸島から千葉県までの太平洋沿岸に上陸して産卵し,アオウミガメが小笠原諸島や屋久島,タイマイが南西諸島に上陸してくる。現在,父島や沖縄でアオウミガメの人工増殖が試みられている。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報