ウミホオズキ(読み)うみほおずき(英語表記)whelk's egg capsules

改訂新版 世界大百科事典 「ウミホオズキ」の意味・わかりやすい解説

ウミホオズキ (海酸漿)

海産の巻貝類が卵を入れて保護する袋(卵囊)をいう。袋は革質で酸やアルカリに強く,透明または白色~淡黄色で,黄色に見えるのは中の卵の色が透けて見えるためである。これを多数並べたて産みつける。夜店縁日海水浴場で売られているのは赤色や黄色に染められていることがある。形は種類によって異なり,そのため名もいろいろついている。

 ナギナタホオズキは白色で細長くて先端がとがり,やや反っている。アカニシの卵囊で5~8月に産み,泥底,岩れきや貝殻に付着させる。幼生は先端近くの脱出口から海中に泳ぎ出る。グンバイホオズキは単にウミホオズキともいい,袋は黄色でやや厚く,幅が広くて軍配形をしている。前面左右にしわがあってその上方にまるい幼生の脱出口がある。これが植物のホオズキの実でつくった袋同様に空気の脱出口になって,口に含んで押すと音を出す。テングニシの卵囊で,この貝をかこって産卵させて採取する。産卵期は5~7月,幼生は中ではうようになってから脱出口から出る。サカサホオズキはグンバイホオズキに似るが,やや細長い。これはナガニシの卵囊で5~8月に産む。トックリホオズキは透明な乳首形の袋で,その中に紫紅色の卵が多数入っていて,発生が進むと先端の部分が裂けて幼生が泳ぎ出る。ボウシュウボラの卵囊で12~2月に岩礁に産みつけられる。アワホオズキは従来まちがえられて図説されているが,正しくは扁平な四角形の卵囊で,これを多数並べて塊状にする。それが泡状に見えるのでこの名がある。卵は暗褐色バイの卵囊で6~8月産卵する。

 このほか,コロモガイの卵囊をチャンチンホオズキ,ミガキボラの卵囊をマンジュウホオズキという。産卵は雌の生殖口から卵と粘液が出されて足裏のくぼみに入り,ここでさらに粘液が分泌されて卵囊がつくられ,それを地物に付着させる。一つ仕上げると足をもち上げて完了させ,前進して次の卵囊をつくる。したがって卵囊は一列に並ぶ。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウミホオズキ」の意味・わかりやすい解説

ウミホオズキ
うみほおずき / 海酸漿
whelk's egg capsules

一部の海産巻き貝が産む袋状の卵嚢(らんのう)をいう。軟体動物門腹足綱の海産巻き貝類の一部(おもに新腹足目)は、卵を袋すなわち卵嚢に入れて他物に産み付ける習性がある。このうち革質の袋状のものを「ホオズキ」といい、植物のホオズキと区別するため、「ウミホオズキ」とよぶ。一般には袋形、財布形、瓶形などの、黄白色ないし淡紅色の半透明の革質で、酸やアルカリにも強い。縁日や夜店で売っているのは玩具(がんぐ)用に赤や黄色などに染色してある。「ホオズキ」は、雌の生殖口かあら出される卵が、足の裏のポケット状のくぼみに導入され、ここで粘液とともに固められ、これが海底の岩などに付着されてできる。貝は、1個の卵嚢が形成されると足をあげて引き抜き、わずかに前進して、次の卵嚢をつくる動作を繰り返すので、いずれの卵嚢も鋳型でつくられるように同形同大で、わりあい規則正しく並んでいる。巻き貝の種類によって足の裏のポケットの形が一定しているのでホオズキの形も一定で、種々の呼び名がある。アカニシRapana venosaの卵嚢は細くて反っているのでナギナタホオズキ(5~8月に産む)、テングニシHemifusus ternatanusの卵嚢は団扇(うちわ)状で幅広くて大きく、総称と同じウミホオズキ(3~7月)の名でよばれ、ナガニシFusinus perplexusの卵嚢はやや幅が狭い軍配形のためグンバイホオズキまたはサカサホオズキ(5~8月)とよばれる。さらに、ボウシュウボラCharonia sauliaeの乳房形の卵嚢はトックリホオズキ(12月~2月)、コロモガイSydaphera spenglerianaの細長い柄のあるものはチャンチャンホオズキ(夏季)、ミガキボラKelletia lischkeiの半球形のものはマンジュウホオズキ、また、バイBabylonia japonicaやモスソガイVolutharpa perryiのものはアワホオズキなどと俗称される。中の幼生が孵化(ふか)すると、ベリジャー幼生となって外に出るものと、ベリジャー幼生の段階を終わって匍匐稚貝(ほふくちがい)となって出るものがあるが、いずれも脱出するための開口ができる。なお、玩具(植物のホオズキと同じように、口に入れて音を出して遊ぶ)用の商品としては、抜け殻よりも中に卵のあるものがよいとされ、かつてこのような玩具が普及していた時代には、親貝の多くすんでいる海底に木の枝や古網あるいは籠(かご)などを沈めて産卵させ採取していた。

[奥谷喬司]


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百科事典マイペディア 「ウミホオズキ」の意味・わかりやすい解説

ウミホオズキ

海産の巻貝類の卵嚢。半透明な革質で,卵はこの中で孵化(ふか)しベリジャー幼生に成長して脱出口から出る。種類によって形,大きさが異なり,ボウシュウボラのはトックリホオズキ,ナガニシのはサカサホオズキ,テングニシのはウミホオズキ(グンバイホオズキ),アカニシのはナギナタホオズキなどといわれる。親貝を集めて籠(かご)に入れて産卵させ,卵嚢を採取。海水浴場などで売られ,植物のホオズキと同様に口に含んで鳴らし,おもちゃにする。
→関連項目テングニシホオズキ

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世界大百科事典(旧版)内のウミホオズキの言及

【テングニシ】より

…5~6月ころ産卵し,卵囊は黄色で革質の軍配形で高さ約1cm。グンバイホオズキ(単にウミホオズキともいう)といわれ,多数の卵囊をひも状に並べ,卵はその中で幼貝になるまで育ち,小さく丸い脱出口からはい出る。房総半島以南の水深10~50cmの砂泥底にすむ。…

※「ウミホオズキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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