エソ(読み)えそ(英語表記)lizard fishes

改訂新版 世界大百科事典 「エソ」の意味・わかりやすい解説

エソ (狗母魚)

ハダカイワシ目エソ科Synodontidaeに属する海産魚総称。鱠とも書く。一般に扁平な頭部,細長い体,大きな口に鋭い歯をもち,外見はヘビやトカゲに似る。英名のlizardfishトカゲウオ)もこれに由来する。全世界の海に4属約34種が知られているが,そのうち日本近海からは,マエソ属Sauridaマエソワニエソトカゲエソ,マダラエソ,オキエソ属Trachinocephalusオキエソアカエソ属Synodusアカエソスナエソ,ホシノエソ,ハナトゴエソチョウチョウエソの3属18種が知られている。各種にはそれぞれ地方名が非常に多く,混同しやすい。日本産の種の大部分は,南日本より東南アジア海域を経てオーストラリア海域,インド洋まで分布する。また一部は大西洋に分布を広げている。陸棚とその周辺海域の底層に生息し,底引網で漁獲される。日本では多くの種が練製品の材料に使用される。体は細長く,円筒状またはやや縦扁する。口は大きく裂け,上あごの後端は,眼の後縁よりはるか後方に達する。両顎歯は鋭く,2列から数列に並び後方に倒すことができ,小動物や小魚を捕食するのに適している。背びれの始部は体の中心より前位。腹びれは背びれの始部より前位。しりびれは尾びれの近くにあり脂びれと相対する。頭部および体表は円鱗で覆われる。

 多く漁獲されるマエソS.undosquamisは体長30cmくらいで,ときには50cmを超える。背面暗褐色から黄褐色で,下方にいくにつれて体色は薄くなり,腹面は銀白色を呈す。尾びれの上縁部に1列の暗色点があることも特徴である。ワニエソS.waniesoは体長65cmに達し,体色はマエソと同じパターンを示す。体長20cmくらいのころから雄では背びれの第2軟条が糸状にのびる。漁獲量はマエソより多い。トカゲエソS.elongata胸びれが短く,その後端が腹びれの基底部まで達しないことで,他のマエソ属魚類と区別される。体長約50cm。オキエソT.myopsは,吻(ふん)の長さが眼径より短く,体側に青色の不規則な縦線が3~4本走っている。また両眼の間隔が狭く,眼が頭頂近くにあり,体を内湾の浅海底の砂中に埋め,眼だけを外に出し餌をまつ。体長約30cm。チョウチョウエソS.macropsの体側には,X形のチョウに似た斑紋の列がある。体長約20cm。ハナトゴエソS.kaianusの体側には,大小交互に約8~10個の暗色斑紋が並ぶ。体長約20cm。いずれの種も練製品の材料とされるが,水産上重要なのは,マエソ属の魚類で,とくにマエソとワニエソは上等なかまぼこの材料となる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エソ」の意味・わかりやすい解説

エソ
えそ / 狗母魚

lizard fishes

硬骨魚綱ハダカイワシ目エソ科の魚類の総称。エソ科Synodontidaeの魚類は、温帯から熱帯の海域に分布し、砂泥質の海底に生息する。全長60センチメートルに達するものがある。体形はほぼ円筒状で細長く、尾部に向かって細くなる。頭部は一般に縦扁(じゅうへん)し、頭部も体部も鱗(うろこ)で覆われており、側線に沿った鱗もとくに大きくない。口は斜め上向きに開き、細くて先の鋭い歯が両あごに密生している。1種を除き、脂(あぶら)びれがある。背びれの条数は9~14本で、臀(しり)びれの条数は8~16本である。世界で4属34種ほど報告されているが、日本では3属15種(アカエソ属Synodus10種、マエソ属Saurida4種、オキエソ属Trachinocephalus1種)の報告がある。幼魚は細長く、体の腹面に沿って暗色斑(はん)が数個並ぶのが特徴。エソ科魚類は肉食性で、小形の魚類などを食べる。肉は白身で、練り製品の材料としては最高級品とされている。

 エソ科のうち代表的なものはマエソSaurida undosquamisで、全長35センチメートルほどに達し、尾びれの上縁に黒点が並んでいるのが特徴。鱗は大きく、側線鱗数は48~53枚、背びれ前方の鱗数は17~20枚である。本州中部以南、オーストラリア、インド洋、紅海、アフリカ東岸にかけて広く分布する。近縁種のトカゲエソS. elongataは、新潟県以南、東シナ海に分布し、全長50センチメートル。体は黄褐色を帯びる。アカエソSynodus variegatusは東海地方以南に分布し、全長25センチメートル。体の背方は灰赤色の地で8~9条の赤褐色の横帯がある。スナエソS. fuscusは、東海地方以南に分布し、全長25センチメートル。体の背方は灰色で、上部に約10条の暗灰色斑がある。オキエソTrachinocephalus myopsは、世界中の暖海に広く分布し、全長37センチメートル。体は淡黄色で、3~4条の不規則な青色縦帯がある。これらの種はいずれも底引網で漁獲され、練り製品の材料にされる。

[上野輝彌]

料理

マエソはエソ類中ではいちばん味がよい。なまのものをそのまま煮ると小骨が口に当たって食べにくいが、開いて干してから焼くと小骨が感じられない。年間通して味のよい魚である。関西、四国、九州で多く用いられ、上等かまぼこの材料にされる。大分県の海ではエソが多くとれることがあるが、そのときは総菜類にもしている。エソを用いた郷土料理として、大分県の光明寺飯(こうみょうじめし)とおかやくが知られる。光明寺飯は、エソを包丁の柄(え)でたたいて骨を取り去り、干したミカンの皮といっしょにすり鉢ですり、しょうゆ、調味料で味つけし、熱い飯の上にかけて用いるものである。また、おかやくは、エソの肉を焼いて野菜と煮込んだものである。

[多田鉄之助]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

栄養・生化学辞典 「エソ」の解説

エソ

 ヒメ目エソ科の海産魚で,かまぼこなどに,加工される.マエソ (largescale lizardfish)[Saurida sp.],アカエソ(red brown lizardfish)[Synodus ulae],オキエソ(snake fish)[Trachinocephalus myops],ワニエソ[Saurida wanieso]などがある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

百科事典マイペディア 「エソ」の意味・わかりやすい解説

エソ

エソ科の魚の総称。とくにマエソ属,アカエソ属,オキエソ属の魚を指すことが多い。すべて暖海性の底生魚で,口が大きく,歯が鋭いのが特徴。マエソは円筒状で体長30cmくらい,ときに50cmを超える。背面は暗褐色,腹面は銀白色。本州中部以南に分布,近海の砂泥底にすむ。近縁のワニエソ,トカゲエソなどとともにかまぼこ原料として重要。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android