エッダ(英語表記)Edda

翻訳|Edda

精選版 日本国語大辞典 「エッダ」の意味・読み・例文・類語

エッダ

(Edda) アイスランドに伝わる、北欧の神話と英雄伝説の集成。一三世紀の歴史家スノッリ=スツルソンが散文で書いた「新エッダ(散文のエッダ)」と、韻文で書かれた古い「古エッダ(詩のエッダ)」の二種があり、特に新エッダは、ゲルマン最古の詩学入門書、ゲルマン神話入門書といえる。

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デジタル大辞泉 「エッダ」の意味・読み・例文・類語

エッダ(Edda)

アイスランドに伝わる北欧の神話と英雄伝説集大成。古歌謡の集成である古エッダと、スノッリ=スツルソンによる散文の新エッダの2種類がある。神話詩は天地創造や神と巨人の闘争などを主題とし、ゲルマン神話の宝庫。

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改訂新版 世界大百科事典 「エッダ」の意味・わかりやすい解説

エッダ
Edda

9世紀から13世紀にかけて古ノルド語で書かれた歌謡の集成。このほかにもうひとつ13世紀のアイスランドの学者スノッリ・ストゥルルソンの書いた詩学入門書《エッダ》があり,これら2書を区別するために,前者を《古エッダ》《歌謡エッダ》《セームンドのエッダ》などと呼び,後者を《新エッダ》《散文エッダ》《スノッリのエッダ》と称する。

 《古エッダ》は,1643年アイスランドのスカウルホルトで発見された古写本の歌謡29編に,後世からの数編を加えたゲルマン神話,英雄伝説を内容とする古歌謡集である。古譚律,歌謡律,談話律の3通りの韻律によって書かれ,ゲルマンの古詩《ヒルデブラントの歌》《ベーオウルフ》などにも共通する頭韻で語句が結ばれた,直截で力強い歌謡である。個々の歌謡の作者名や,それがいつ,どこで成立したかなど確実なことはわからないが,大体9世紀から13世紀にかけてノルウェーとアイスランドで書かれたものらしい。内容は神話,英雄伝説,箴言(しんげん)の三つからなる。

 神話詩は北欧人の奔放で壮大な宇宙解釈,神々と巨人族の凄絶な戦いと滅び,オーディントールロキなど個性あふれる神々の多彩な形姿など,尽きない興味をわれわれに与えてくれる。北欧神話ゲルマン神話や宗教を研究するうえの第1次資料といえる。ワーグナーの音楽,フログネルの彫刻,北欧民話はこの流れを汲んでいる。なかでも著名なものとしては,巫女がオーディンの要請にこたえ世界の起源,神々の生活と運命,世界の終末と新しいよりよい世界の再来について語る〈巫女の予言〉は,古今を通じ北欧での最も偉大な詩で,また有名である。愚直で生一本のトール神の冒険を扱って秀逸な〈ヒュミルの歌〉〈スリュムの歌〉,神々の中でいちばん賢いオーディンともの知り巨人の首をかけての知恵くらべ〈バフスルーズニルの歌〉,巨人の国から帰るトールと渡し守に化けたオーディンの瀬戸をはさんでの口論〈ハールバルズの歌〉,海神エギルのところでの神々の酒宴にロキが乗りこんで次々に神々を罵り,スキャンダルをあばく〈ロキの口論〉など,神話詩全体としてみるとオーディンの占める位置の大きさが目だつ。

 英雄詩は〈ヘルギの歌〉と〈ニブルンガルの歌〉の二つのグループに分けられる。全ゲルマンに広くうたわれた英雄たちの武勲や悲劇を伝えたもので,ドイツの中世叙事詩や古英詩のそれと違う点は,キリスト教や中世騎士道の影響をほとんど受けずに,民族大移動期を背景にした異教的な英雄精神をよくとどめていることである。〈グリーンランドアトリの歌〉はなかでも最も力のあふれる雄編で,ニーベルンゲン伝説の最も古い素材を示している。ブルグンドの宝を手に入れんとしてグンナルホグニの兄弟を欺いて招待するアトリ。そのはかりごとにかかって捕らわれ,笑いながら心臓をえぐり取られるホグニ。皿の上にのせられた弟ホグニの心臓を見せられ,今はニブルング族の宝を知る者はわれ一人,宝を見ることはかなわぬぞと昂然と豪語するグンナル。これらにゲルマン人の英雄精神をみてとることができる。

 第3の格言詩は多く神話の枠に入っているが,内容は北欧の民衆の現実生活に根ざした処世訓である。〈財産は滅び,身内の者は死にたえ,自分もやがては死ぬ。だが決して滅びぬのが自らのえた名声だ〉。〈愚か者は財産か女の愛を手に入れると鼻高々となり増長するが,分別は増しはしない〉。この〈オーディンの箴言〉からの引用でもわかるように現代でも通用しそうな鋭い洞察をいくらでも見いだすことができる。

 一方,スノッリの《エッダ》の内容は3部からなる。第1部〈ギュルビたぶらかし〉は一種の枠物語で,伝説的なスウェーデンの王ギュルビが老人に姿をやつしてガングレリと名のり,アースガルズに行き,この世の過去と未来のことを神々にたずねる。最後に彼が野原に立つと,突然今まであった宮殿があとかたもなく消え失せている。このため〈ギュルビたぶらかし〉の名がついているのだが,《古エッダ》の〈巫女の予言〉に大枠を借り,世界の創造から破滅にいたる神々の事績を,鮮やかな性格描写,多彩な事件を織りまぜながら芸術的にまとめ上げている。巨人ウートガルザロキの国でのトールのかずかずの冒険など《古エッダ》にもない興味深い話が含まれ,古歌謡,古代伝承,同時代の詩人の作品など貴重な引用資料から《古エッダ》理解の有力な手がかりを与えてくれる。第2部〈詩人のことば〉は,ケニングと呼ばれる換喩(たとえば武器の嵐→戦い,白鳥の道→海)の説明やヘイティという同意語の紹介に90名もの詩人の400に余る詩を引用している。詩語の的確な解明と同時代の詩人の作品を残してくれた点が貴重である。第3部〈韻律一覧〉は,スノッリが親交のあったホーコン・ホーコナルソン王とスクリ侯のために作った自作の頌歌(しようか)とそれへのコメントで,スノッリが若い詩人の入門書としたこの書に,いわば詩の規範として掲げたものである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エッダ」の意味・わかりやすい解説

エッダ
えっだ
Edda

アイスランドに伝えられた、北欧神話および英雄伝説の歌謡の集成。エッダという名でよばれる古ノルド語による作品は二つあり、普通、古いほうのエッダを『古エッダ』『歌謡エッダ』『セームンドのエッダ』とよび、もう一つの13世紀のアイスランドの学者スノッリ・スツルソンの書いた詩学入門書のほうを『新エッダ』『散文エッダ』などとして区別する。『古エッダ』は、1643年アイスランドのスカウルホルトで発見された写本をもとに、後世の写本から数編を加えた北欧神話、英雄伝説の古歌謡の集成である。3通りの韻律で書かれており、ゲルマンの古詩『ヒルデブラントの歌』『ベオウルフ』『ヘーリアント』などに共通の特徴といえる、頭韻で語句が結ばれた力強い歌謡である。個々の歌謡の作者や成立時代、場所については確実なことはわからないが、だいたい9世紀から13世紀にかけて成立したものらしい。内容は神話、英雄伝説、箴言(しんげん)の三つからなる。神話詩はゲルマン神話のもっとも豊かな宝庫として、神話や宗教研究の第一次資料を提供している。天地創造から、神々と巨人族の壮絶な戦い、世界の滅亡、またオーディン、トール、ロキなどの神々の多彩な形姿は、もっぱら『古エッダ』によって知ることができる。英雄詩は「ヘルギの歌」と「ニブルンガルの歌」の二つのグループに分けられる。大部分は大陸の歴史上の英雄を扱っていて、伝説圏の広がりを感じさせる。『ニーベルンゲンの歌』と同じ素材を扱った諸編は、簡潔素朴な表現のなかにゲルマン人の激情的な英雄精神をみなぎらせ、両者の比較研究に好個の材料を提供している。箴言は、多くは神話の枠に入っているが、北欧の民衆の現実生活に根ざした処世訓である。『オーディンの箴言』に記されている「財産は滅び、身内の者は死に絶え、自分もやがては死ぬ。だが、けっして滅びぬのが自らの得た名声だ」、「愚か者は財産か女の愛を手に入れると鼻高々となり増長するが、分別は増しはしない」などからもわかるように、北欧人の冷静で厳しい人間観察から生まれたモラルが示されている。『新エッダ』の内容は3部からなっている。第1部「ギュルビたぶらかし」は、枠物語の体裁をとり、『古エッダ』の「巫女(みこ)の予言」に大筋を借りて、世界の創造から破滅に至る神々の事績を、鮮やかな性格描写、多彩な事件を織り交ぜながら、芸術的にまとめた興味深い北欧神話概観である。たとえばトールの巨人の国での冒険などは『古エッダ』にない話で、『古エッダ』理解の有力な手掛りを与えてくれる。第2部「詩人のことば」は、ケニングという換喩(かんゆ)(武器の嵐(あらし)=戦い)の説明や同意語の紹介に、同時代の多くの詩人の作品を引用している。難解な詩語の説明と、ほかでは失われた詩人たちの作品が多数含まれている点が貴重である。第3部「韻律一覧」は、親交のあったノルウェーのハーコン・ハーコナルソン王とスクーリ侯のための、自作の頌歌(しょうか)とコメントである。このスノッリの『エッダ』は、ゲルマン最古の詩学入門書であると同時に、ゲルマン神話入門書ともいえる。

[谷口幸男]

『谷口幸男訳『エッダ――古代北欧歌謡集』(1973・新潮社)』『谷口幸男著『エッダとサガ』(1976・新潮社)』

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百科事典マイペディア 「エッダ」の意味・わかりやすい解説

エッダ

北欧の古歌謡の集成。(1)《古エッダ》。《歌謡エッダ》《セームンドのエッダ》とも。9―13世紀に古ノルド語で書かれた神話や英雄伝説に取材した歌謡集。神話詩の〈巫女の予言〉はその最大力編で,天地創造から神々と巨人の決戦による世界の滅亡を説いたもの。英雄詩では民族移動時代の英雄精神をとどめた作が多い。〈グリーンランドのアトリの歌〉が最も有名。ほかに〈オーディンの箴言(しんげん)〉などを含む格言詩がある。(2)《新エッダ》。《散文エッダ》《スノッリのエッダ》とも。スノッリ・ストゥルルソンが書いた詩論書で,古神話・古伝承を引き,詩法を説明し,自作の詩を見本に添えている。
→関連項目アイスランド語サガスカルド詩ニーベルングの指環

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エッダ」の意味・わかりやすい解説

エッダ
Edda

アイスランド古典文学の代表的な作品。韻文エッダと散文エッダがある。韻文エッダは,9世紀から 13世紀にかけて制作された作者未詳の約 40編の物語詩で,その写本は 13世紀後半にさかのぼる。神々,人間,巨人の世界の創世からラグナレク (神々のたそがれ) にいたる物語を含んだ神話詩と,古いゲルマン人の人生観や処世訓を反映する教訓詩と,シグルズ (ドイツの『ニーベルンゲンの歌』のジークフリートに相当する) の物語を主軸とする英雄詩から成る。散文エッダはスノッリ・ストゥルルソンによっておそらく 1222~23年に書かれたもので,スノッラ・エッダともいわれる。本来スカルド詩の作詩法を説明したもので,序に続いて,問答形式で神話体系を語る章,詩語についての章,および作者自身の作った 100の異なるスカルド詩形で書かれた国王賛歌から成る。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「エッダ」の解説

エッダ
Edda

北欧の神話,伝説の集大成で2種の異なる作品がある。古エッダは8~12世紀に成立した神々・英雄の叙事詩で約40首現存。新エッダは13世紀前半にアイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンが散文と韻文で著した詩作入門書である。両者ともに当時に関する重要な史料。

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旺文社世界史事典 三訂版 「エッダ」の解説

エッダ
Edda

北欧一帯に生まれた古代伝説詩
7世紀から11世紀に成立し,1200年ころ集成された。神話・英雄伝説を題材とするものが多い。

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世界大百科事典(旧版)内のエッダの言及

【アイスランド】より

… 文字による本格的な文学は12世紀に興り,13世紀にはアイスランド語による古典文学が栄えた。古典的な韻文学はエッダ詩とスカルド詩に大別される。いずれも9世紀以降に成立するが,すべて作者不詳のエッダ詩は比較的簡潔な韻律によって古い神々と英雄を扱い,古代ゲルマン・北欧精神文化を究める貴重な民族遺産となっている。…

【海】より

海神創世神話【吉田 敦彦】 海についての伝説,禁忌も数多くある。エッダによるとボルの息子らが,殺された巨人ユミルの血から海をつくったといい,フランスの海岸地方では,神がそれぞれの島にパラダイスから水滴を運ばせてつくったといい,あるいは悪魔が神の仕事を邪魔するために海をつくったともいい伝えている。神が水ばちと3粒の塩から海をつくり,太陽がかつて地上に降り聖者を小便によって追い払ったために海ができ,そのために塩辛いとも伝えられる。…

※「エッダ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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