エピカルモス(英語表記)Epicharmos

改訂新版 世界大百科事典 「エピカルモス」の意味・わかりやすい解説

エピカルモス
Epicharmos

前5世紀初期のシチリア喜劇詩人。生没年不詳。シラクサ生れと伝えられるが詳細は不明である。アッティカの喜劇詩人キオニデス,マグネスよりもはるかに先輩であり,悲劇詩人アイスキュロスに対しても影響を及ぼしたとの伝もある。作品はわずかな引用文と数片のパピルス文書だけしか伝わっていない。ドリス方言によって,神話伝説をちゃかした滑稽な芝居を著したらしく,大どろぼうのプロメテウス大食漢で女色に弱いヘラクレス,うそつきで油断のならないオデュッセウスなどが主役となる悪漢喜劇であったことがうかがわれるが,後年シチリアで流行をきたした同様の喜劇の祖となったとも考えられる。しかし登場人物の数,合唱隊の歌詞や動作などについては,何も伝えられていない。

 エピカルモスの名のもとに多数の哲学書や自然学関係の著述が古代には伝存していたことが知られているが,その真偽や成立の由来は明らかではなく,アリストテレス学派のアリストクセノスによれば,《偽エピカルモスの書》はいずれも偽作と断定されている。エピカルモスの教えは哲学者プラトンにも多大の影響を及ぼしたと伝える記事ディオゲネス・ラエルティオスの《哲人伝》にあるが,これも信憑性に乏しいとみなされている。エピカルモスがピタゴラス学派の哲人であったとする伝承は,ローマ帝政期の文筆家プルタルコスの記すところであるが,これも確証がない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エピカルモス」の意味・わかりやすい解説

エピカルモス
Epicharmos

[生]前550/前530
[没]前460/前440
ギリシアの喜劇作家。生地はシチリアのシラクサ,または同島のメガラ・ヒュブライア,またはコス島。ドーリス系のシラクサ喜劇の創始者および代表的作家としてシチリアで活躍。作品は 50以上あったらしいが,35編の題名とわずかな断片だけが伝わる。そのうち 18編は神話伝説のもじりで,フリュアケス笑劇と同じように英雄や神々が滑稽化される。脱走兵オデュッセウス,魚屋ポセイドン,大食漢ヘラクレスなどである。またアッチカ古喜劇に現れるアゴン (討論) の形式に似た論争劇もある。さらに中喜劇を思わせるような日常生活を扱ったものもあり,新喜劇に登場するような幇間 (ほうかん) や大酒飲みなどの決り役もあった。彼の喜劇は合唱隊を用いず,宗教的役割もなく,アッチカ喜劇に比べれば道化芝居に近かったが,文学性は高く,アテネでも読まれ,アッチカ喜劇に与えた影響は大きい。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エピカルモス」の意味・わかりやすい解説

エピカルモス
えぴかるもす
Epicharmos

生没年不詳。紀元前6世紀後半から前5世紀前半にかけて活躍したシチリアの喜劇詩人。生まれはシラクサ、またはコス島ともいわれる。ドーリス方言を用いて神話伝説のもじりや、後のギリシア古喜劇にみえる討論形式のやりとり、また日常茶飯事を素材とする滑稽譚(こっけいたん)を書き、ギリシア喜劇の先駆となった。わずかな断片と、『キクロペス』『略奪』『陸と海』など37編の表題が知られるのみであるが、そこでは大食漢のヘラクレス、狡猾(こうかつ)なオデュッセウス、また市井の庶民の飲んだくれや居候などが登場し活躍したらしい。その用語もギリシア古喜劇に劣らずカラフルで洗練されており、韻律も多彩である。ただ古喜劇と異なり、コロス(合唱隊)をもたず、内容もより自由であった。一方また彼は、古来、かなりの数の哲学および自然科学の著作の作者に擬せられ、ピタゴラス派の哲学者とも目されたが、これは誤伝であろう。

[丹下和彦]

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百科事典マイペディア 「エピカルモス」の意味・わかりやすい解説

エピカルモス

シチリア出身のギリシア最古の喜劇作者。生没年不詳。現存するのは断片のみ。大部分は神話・伝説を戯画化,または市井の些事(さじ)を題材とした滑稽な芝居であったらしい。

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