オットセイ(英語表記)northern fur seal
Alaskan fur seal
Callorhinus ursinus

改訂新版 世界大百科事典 「オットセイ」の意味・わかりやすい解説

オットセイ (膃肭臍)
northern fur seal
Alaskan fur seal
Callorhinus ursinus

鰭脚(ききやく)目アシカ科の哺乳類。ミナミオットセイ類も含めてオットセイと総称することもある。この場合,本種をミナミオットセイと区別するためキタオットセイと呼ぶ。短くとがった吻(ふん)と比較的長い耳介や長い後肢を有する。毛は密生し,下毛も多く生える。下毛層は水を通さず,空気の膜をつくり断熱効果がある。体色はぬれているときは黒く見えるが,乾くと,若い個体は銀灰色,成老獣では灰赤褐色を呈す。雄は体長2.1m,体重180kgに達するが,雌は1.4m,50kgと小さく性的2型が顕著である。またたてがみは雄にしかない。雌雄の差は6~7歳以後でも雄は成長が続くので明りょうになる。北太平洋のみに分布し,ベーリング海,オホーツク海が主分布域である。繁殖地としてプリビロフ諸島コマンドル諸島ロベン島(海豹島)の主繁殖島と千島列島とサン・ミゲル島が知られている。5~6月の繁殖期以外は南下回遊する。プリビロフ群やコマンダー群はカリフォルニア沖や三陸沖にまで回遊し越冬する。ロベン群はおもに日本海に回遊する。生息数は約180万頭で,プリビロフ群がもっとも多く130万,コマンダー群26万5000,ロベン群16万5000である。性的な成熟の年齢は雌雄で異なり,雌はロベン群,コマンダー群は3歳で,プリビロフ群は4歳で成熟。雄は6~7歳で成熟するが繁殖には参加できず,バチェラーと呼ばれ繁殖場の周辺にいる。12~15歳になって初めて繁殖に参加し,なわばりをもつハレムブルになる。ハレムブルは雌15~60頭をなわばり内にもつ。オットセイは夜間摂餌し,イカ,ニシン,タラ類,ハダカイワシなどを捕食する。1日の摂餌量は体重の10%である。外敵はシャチ,サメであるが,トドもオットセイの新生子を捕食するといわれている。
アシカ
執筆者:

本来の名はオットツで,その臍(へそ)と陰茎とを取って薬としたことから膃肭臍と書くといわれる。日本では北海道以北の寒帯の海岸に生息し,アイヌとの貿易品として古くから名が知られていた。《日本山海名産図会》には,大をネッフ,中をチョキ,小をウネウというとあるが,アイヌ語でオンネプonnepはもと成獣の雌,ウネウはそれの転訛で,雌雄両方を指すようになったらしい(《分類アイヌ語辞典》)。海狗とも記され,寒流に乗って金華山沖までくることもあり,三陸で〈沖の犬〉と呼ばれたのもこれらしい。主として肉と陰茎を強精薬,毛皮を敷物,履物として珍重したので他の動物によって偽物もつくられた。雄獣が多くの雌獣を占有する生態からその性器に強精の力があると考えられたのであろう。北海に産するために京阪地方の人にはアシカ,アザラシ,トドなどと混同され,近世の文献でも記載に混乱が見られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オットセイ」の意味・わかりやすい解説

オットセイ
おっとせい / 膃肭獣
northern fur seal
[学] Callorhinus ursinus

哺乳(ほにゅう)綱鰭脚(ききゃく)目アシカ科の海産動物。体は紡錘形で、前後肢はともにひれ状である。頭は丸く、耳介は小さい。吻(ふん)部は短く、尾も目だたない。全身に刺毛と綿毛が密生し、刺毛は背側で濃い茶色、腹側は淡色である。その下に綿毛がある。寒さに適応し、体表に汗腺(かんせん)はない。四肢の大部分だけは無毛で、皮下に密に毛細管が分布するので、わずかに気温が上昇すると、四肢をあおいで皮膚表面から放熱する。

 樺太(からふと)(サハリン)のロッペン島(海豹(かいひょう)島)、ベーリング海のコマンドルスキー諸島・プリビロフ諸島、千島列島の中部にそれぞれ繁殖地がある。毎年6月上旬に、雄(ブル)が上陸して縄張りをつくって雌を待ち、出産を控えた妊娠雌を取り込んでハレムとする。その大きさは雌100頭を超えるものもあるが、平均約40頭である。雄は体長2.5メートル、雌は1.3メートル、体重は雄では200キログラムを超え、雌の約5倍に達し、典型的な性的二型を示す。雌は上陸後数日で出産、哺育に専心する。1産1子。生まれた子(パップ)は胎内で乳歯から永久歯に生え換わっており、黒っぽい体毛も生えそろっていて、すぐ歩きだすほどに完成しているため、母親の世話も少ない。授乳回数は週1回程度と少ないが、43%にも達する高率の乳脂肪がそれを補っている。繁殖期は上陸・出産後、7月末ごろまでで、発情雌が少なくなる8月ごろからしだいにハレムは崩壊する。雌と雄はしだいに索餌(さくじ)のため海上へ出て、南下する。最後に子が11月ごろ繁殖島を離れる。この時期が発育期のなかでもっとも高い死亡率を示す。プリビロフ系はカリフォルニア沖へ、コマンドルスキー系とロベン系はそれぞれ北太平洋と日本海へ、アシカ科のなかでもっとも長大な回遊をする。先頭は高年齢の雌が占め、北西太平洋では12月上旬に釧路(くしろ)沖に現れ、親潮の張り出しとともに南下し、銚子(ちょうし)沖にまで達する。食物はイカ類、ハダカイワシ類、スケトウダラ、マサバ、サンマなど、いずれも普通にみられるが、とくに両水塊の潮境に密に分布する種類で、それらの濃密群を追いつつ南下する。雄は繁殖島と同緯度の北辺水域に、子は沿岸域にとどまっている。このように海上では、繁殖島における社会構造とはまったく異なるルーズな個体間関係を示す。4月ごろから黒潮の勢力が強くなるのと並行して北上し、妊娠雌を先頭に繁殖島を目ざす。

 密生する綿毛のため、毛皮獣資源として19世紀から利用され、生息数は激減したが、1911年、日本、イギリス(1957年からの条約ではかわりにカナダが加盟)、アメリカ、ロシアの4か国により、オットセイ条約が結ばれ保護された。その結果、現在約220万頭が生息し、毎年約10万頭が捕獲され、毛皮として供給されている。

 別属のミナミオットセイは、南半球に分布し、体形はオットセイに似るが、吻がややとがっている。

[和田一雄]


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百科事典マイペディア 「オットセイ」の意味・わかりやすい解説

オットセイ

キタオットセイとも。食肉目アシカ科。平均体長は雄2.1m,雌は1.4m。体色はぬれているときは黒く見えるが,乾くと若い個体は銀灰色,成老獣では灰赤褐色。北太平洋に分布する。夏〜秋にコマンドルスキー諸島,プリビロフ諸島およびサハリン沖のチュレニイ島(旧海豹島)に上陸。雄は15〜60頭の雌を従えてハレムをつくり繁殖する。妊娠期間は約1年。1腹1子。秋に島を離れて南方を回遊。一部は房総付近まで南下する。主として明け方にイカ,魚を食べる。毛皮は良質で高価だったため乱獲され一時は絶滅に瀕した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オットセイ」の意味・わかりやすい解説

オットセイ

キタオットセイ」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のオットセイの言及

【毛皮】より

…しっぽはデービー・クロケットの帽子の飾りで有名。 シールsealオットセイ,アザラシなどの海獣の毛皮。ラコダはオットセイの毛を3mmくらいに刈りこんだもので,あずき色の優雅なつやをもつ。…

※「オットセイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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