オトヒメノハナガサ(読み)おとひめのはながさ

改訂新版 世界大百科事典 「オトヒメノハナガサ」の意味・わかりやすい解説

オトヒメノハナガサ (乙姫の花傘)
Branchiocerianthus imperator

ヒドロ虫綱オオウミヒドラ科に属する腔腸動物刺胞動物)で,世界最大のポリプアラスカ湾パナマ湾,東アフリカ沖,相模湾などの水深約1000~2000mから得られている。高さ1.5mにもなる細長い柄の上に直径約20cmのヒドロ花をつける。ただし,柄はヒドロ花の中央に付着せず,端のほうに付着するため,ヒドロ花は柄に対して45度くらい傾いている。柄の下部は少し膨らんでひげのような細い突起が生えていて,泥の中につきささっている。ヒドロ花では上端に開く口を取り巻いて70~120本の短い糸状の触手が1列に並び,またヒドロ花の周囲には長さが30cmになる150~250本もの長い触手が2列に並んでいる。長い触手の内側には樹枝状に分かれた150個もの突起が馬蹄形(ばていけい)に並び,それぞれに生殖体をつけている。この種類は1875年北太平洋からイギリスの探検船チャレンジャー6世号により最初に採集されたもの。相模湾が世界でもっとも多産する海域で,日本産の標本が世界各地の博物館で保管されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オトヒメノハナガサ」の意味・わかりやすい解説

オトヒメノハナガサ
Branchiocerianthus imperator

刺胞動物門ヒドロ虫綱アンソアテカータ目オオウミヒドラ科。ヒドロ虫類のなかでは世界最大で,高さが 1.5mにもなる細長い柄の上に直径 20cmほどのヒドロ花をつける。ヒドロ花は紅色で,上端に開く口を取り巻いて 70~120本の糸状の短い触手が並び,ヒドロ花の周囲にも長さが 30cmほどの長い触手が 150~250本並んでいる。長い触手の内側にはたくさんの生殖体が馬蹄形になってつく。柄の下のほうは少し太くなって泥の中に埋まって海中に直立する。1875年にイギリスの海洋調査船『チャレンジャー号』により房総半島沖で採集され,以後世界各地から報告されている。日本の深海用潜水調査船しんかい2000』で,触手を広げて魚を捕える様子などが観察されている。生息水深の記録は 50~5307mである。アラスカインド洋などに分布する。(→刺胞動物無脊椎動物

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オトヒメノハナガサ」の意味・わかりやすい解説

オトヒメノハナガサ
おとひめのはながさ / 乙姫の花笠
[学] Branchiocerianthus imperator

腔腸(こうちょう)動物門ヒドロ虫綱ヒドロイド目オオウミヒドラ科に属する海産動物。単立で群体をつくることはない。ヒドロポリプとしては世界最大種で、個虫の高さ1.5メートルにも達する。細長い円筒状の柄の上端に大形のヒドロ花がある。ヒドロ花は、ほかのヒドロ虫類が放射相称であるのとは異なり左右相称であり、下端の柄と接するところで強く一方に傾いている。上端の口を取り巻いて70~120本の短い糸状触手が、またヒドロ花下部には150~250本の30センチメートルにも及ぶ長い糸状触手が、それぞれ環状をなして密生している。これらの両触手の環列の間には多数の生殖体が樹枝状の房をなして生ずる。生殖体はクラゲとなって遊離することはない。柄部は下端が多少膨らんでおり、その部分を海底の砂泥中に埋めて直立している。触手は紅色できわめて美しく、大形でもあることからこの和名がつけられた。本州中部以南の太平洋沿岸の数百から数千メートルの海底から得られる。

[山田真弓]


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世界大百科事典(旧版)内のオトヒメノハナガサの言及

【腔腸動物】より

… ヒドロ虫綱では,多くの種類はポリプが無性的に増えて樹枝状の群体をつくるが,少数のものは単体である。単体のもので日本沿岸に産しているオトヒメノハナガサは高さ1m以上,ヒドロ花の直径が約20cmになり,世界最大のポリプとして有名である。群体をつくるものは他物に付着したヒドロ根よりヒドロ茎が直立し,その先端やヒドロ茎から分かれた各枝にヒドロ花をつけている。…

※「オトヒメノハナガサ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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