改訂新版 世界大百科事典 「カゲロウ」の意味・わかりやすい解説
カゲロウ
カゲロウ目Ephemeropteraに属する昆虫の総称。モンカゲロウ,ヒラタカゲロウなど数科に分類され,多くの種類がある。しかし古くはトンボ類の古名で,著名な《蜻蛉日記》などでも知られる。蜉蝣の漢字を当てられることが多いが誤用で,中国で古く出版された《本草綱目》などを見ると,蜉蝣は糞虫のマグソコガネ類を指すもののようである。
昆虫類には,クサカゲロウ,ウスバカゲロウなどカゲロウと名がついた昆虫群もあるが,これらは脈翅目に属し,まったく異なった分類群である。
カゲロウ目の成虫はすべて陸生。体はやわらかくて弱く,体長は5~20mm。翅は多くは透明で,ときに暗褐斑がある。前翅は三角形で大きく,細かく分岐した脈がある。後翅は退化して小さいか,まったくない。静止するときにはチョウのように翅を背上に合わせる。腹端には2~3本の細長い尾毛がある。口器は退化して食物はとれない。そのため成虫の寿命は短くたいていの種は数日である。雄は交尾後まもなく死ぬが,雌は産卵のため数日生きる。目名のEphemeropteraは〈ただ1日の命〉という意味のギリシア語ephēmerosに由来している。羽化は早春から秋にわたるが,5月にもっとも多く,英語でmayflyというのはこのためである。5~6月の蒸し暑い夕べにおびただしく羽化し灯火に来集する。
交尾は飛翔(ひしよう)中に行う。産卵は卵塊を水上に落とすもの,後腹部を水面に打ちつけて産卵するもの,潜水して石面に産みつけるものなどさまざまである。
幼虫はすべて水生。渓流や流水中で生活するグループには,流水に適応した扁平な体型をもち,急流中の石の面上に取り付いて生活するヒラタカゲロウやタニガワカゲロウ。また,魚のような紡錘形の体で,水中の石の間を巧みに遊泳するグループには,チラカゲロウ,フタオカゲロウ,コカゲロウ,トビイロカゲロウなどがある。ふちや川岸に近い静水中の樹枝片や落葉,石間のごみの中や石のくぼみには,体にとげが多く,行動はのろのろしているマダラカゲロウが生息する。水底の砂泥中に潜ったり,埋もれたりして生活する掘潜形のグループには,キイロカワカゲロウ,モンカゲロウなどが見られる。
呼吸は腹部の側面か背面の気管えらから水中の酸素を取り入れるが,気管えらの形態は葉状,糸状,羽状など各分類群の特徴となっている。幼虫の口器はよく発達し,川底の石れき面や水草などに付着した微小藻類を食べる。幼虫の期間はふつう数ヵ月程度のものが多いが,1年あるいはそれ以上の長期にわたるものもある。この間に何回も脱皮する。成熟した幼虫は水面上に上がり,また川岸の石にはい上がり羽化して亜成虫となる。したがって蛹期(ようき)はない。亜成虫は成虫と同一形態であるが翅が不透明で,あしと尾毛は太く短い。まもなく再び脱皮して成虫となる。亜成虫はよく飛ぶこともでき,灯火に飛来してから成虫になることもある。成虫は水上または水辺で群飛する習性があり,ときに大群で灯火に飛来することもある。成・幼虫ともに魚類に好食されるので,その形を模した毛ばりなどがつくられるし,幼虫は魚釣りのよい餌に使われる。幼虫は河川の底生動物の重要な構成員で,魚類の餌としての価値は高い。最近,水質汚濁の指標種として生物学的な環境評価に用いられている。昆虫綱中,カゲロウ目のみが,羽化後もう一度脱皮して成虫となる(2回羽化)。
執筆者:御勢 久右衛門+長谷川 仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報