カニグズバーグ(読み)かにぐずばーぐ(英語表記)Elaine Loble Konigsburg

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カニグズバーグ」の意味・わかりやすい解説

カニグズバーグ
かにぐずばーぐ
Elaine Loble Konigsburg
(1930―2013)

アメリカの作家、画家。ニューヨーク市に生まれ、カーネギー工科大学(現、カーネギー・メロン大学)およびピッツバーグ大学に学び、子育てに専念するまで科学の教師だった。子供を育てながら創作と絵に強い関心をもち、自らイラストレーションを描いた最初の作品『魔女ジェニファとわたし』(1967)がニューベリー賞推薦作、同じ年に出版された2作目の『クローディアの秘密』はニューベリー賞を受賞した。

 第一作は、孤独な都会の少女2人が魔女修行ごっこを通じて友情を育てる話で、はっきり書いてはいないが黒人とわかるジェニファと、クラスでも孤独なエリザベスほかの登場人物が生き生きと描かれているうえに、全体的にわかりやすくておもしろいすぐれた作品と評価された。2作目は、少女と弟がニューヨークのメトロポリタン美術館家出をする発想の新鮮さや、美術館での2人の生活の細部にわたる描写の巧みさ、さらに魅力ある登場人物たちなどが高い評価を受けた。

 はじめの2作で作家としての地位を築いた彼女は、『ロールパン・チームの作戦』(1969。後に『ベーグル・チームの作戦』と改題)、『ぼくと(ジョージ)』(1970)、『ほんとうはひとつの話』(1971)など、現代アメリカの都会に育つ子供や若者たちを、彼らに対する深い理解と洞察力を駆使して明快に語り続けた。

 1972年の『誇り高き王妃』は、12世紀のフランスとイギリスをおもな舞台に、はじめはフランスのルイ7世の、後にイギリスのヘンリー2世の妻となったエリナー(アリエノール)王妃の生き方を語った歴史物語である。おそらく人物像が現代人に比べて陰影に乏しいところが、高い評価を受けない理由の一つと思われるが、教会王権凌駕(りょうが)していた時代に、刺激を求め好奇心を燃やして生き続け、政治のいくぶんかにも影響を及ぼし得た女性の物語は、新しさへの冒険と精神の自由――つまり、この作家が常に追求しているテーマ――をわかりやすく表現した作品であった(この作品は、20年前に英語で出版された作品のうち出版時におもな賞を受けなかった作品に贈られる「フェニックス賞」のオナーブックとなった)。歴史物語には、もう一つ、有名なモナ・リザ肖像を描いたレオナルド・ダ・ビンチを、召使の小悪党サライの目を通して語った『ジョコンダ夫人の肖像』(1975)がある。都市国家の集合体であったイタリアを背景に、その背景描写を含めて、そこでのできごとや人物たちが、過不足なくたくみに捉えられていて、華麗な絵巻となっている。

 カニグズバーグの作品のほとんどは、明快だが、なかでもよくわかってしかもおもしろく読めるのは『800番への旅』(1982)だろう。これは、一流生活を生き甲斐にしている女性が、一流人と再婚して新婚旅行に行くために、息子ボーを前夫に預けるところから話が始まる。ボーの父親は象を1頭もっていて、お祭の興行や宣伝やなにかに出て暮らしをたてている。ボーは、父親とラクダ旅行をするうちに、すばらしい人たちに会い、珍しいできごとを経験して、自分をみいだしていく。

 カニグズバーグは、1996年の『ティーパーティーの謎』でニューベリー賞を再度受賞した。

[神宮輝夫]

『松永ふみ子訳『ほんとうはひとつの話』『ジョコンダ夫人の肖像』(1977、84・岩波書店)』『岡本浜江訳『800番への旅』『エリコの丘から』(1987、88・佑学社)』『松永ふみ子訳『ロールパン・チームの作戦』『ぼくと(ジョージ)』(1989・岩波書店)』『小島希里訳『なぞの娘キャロライン』『ドラゴンをさがせ』『Tバック戦争』(1990、91、95・岩波書店)』『松永ふみ子訳『クローディアの秘密』新版(2000・岩波書店)』『小島希里訳『ティーパーティーの謎』(2000・岩波書店)』『松永ふみ子訳『魔女ジェニファとわたし』新版(2001・岩波書店)』『松永ふみ子・小島希里・清水真砂子訳『カニグズバーグ作品集』全9巻・別巻(2001~02・岩波書店)』『清水真砂子著『子どもの本のまなざし』(1995・洋泉社)』『デヴィッド・リーズ著、白坂麻衣子訳『物語る人びと 英米児童文学18人の作家たち』(1997・偕成社)』『本多英明編著『英米児童文学の宇宙――子どもの本への道しるべ』(2002・ミネルヴァ書房)』『河合隼雄著『ファンタジーを読む』(講談社+α文庫)』

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