日本大百科全書(ニッポニカ) 「カノン(美術用語)」の意味・わかりやすい解説
カノン(美術用語)
かのん
canon
美術用語で「規準」を意味するギリシア語に由来し、人体比例(プロポーション)のことをいう。普通、もっとも理想的な調和のとれた人体比例は八等(頭)身であるとされ、それは八等身のカノンといわれる。八等身とは、直立した人体の頭の頂点から顎(あご)の先までの垂直距離で身長を割った数が8になるような人体の比例である。といっても、単にそれが8になるだけでは理想的なカノンといえない。それに応じて身体各所の長さも全体との比例において整っていなければならない(たとえば脚(あし)全体の長さが身長の2分の1、膝(ひざ)までの長さがさらにその2分の1、というように)。古くから画家や彫刻家が人体を表現描写する際に問題とされてきており、時代や地域によってさまざまなカノンが考えられてきた。古代エジプト美術にも独自のカノンがみいだせるし、古代ギリシアでは多くの彫刻家によってカノンが研究された。紀元前5世紀のポリクレイトスが『カノン』という書物を著した(現存せず)ことが知られており、彼はその原理を七等身のカノンによって『槍(やり)をかつぐ男』(ローマ時代の模刻が残っている)の像に具体化した。その後ギリシア彫刻では八等身のカノンがリシッポスらの作品に表された。カノンの研究はさらにローマ美術やビザンティン美術にも受け継がれた。またルネサンスではレオナルド・ダ・ビンチやデューラーらによって実測的な人体比例の詳しい研究が進められた。
[鹿島 享]
『中尾喜保著『生体の観察 体幹・体肢・生体計測編』(1965・メヂカルフレンド社)』