カベ(英語表記)Étienne Cabet

精選版 日本国語大辞典 「カベ」の意味・読み・例文・類語

カベ

(Étienne Cabet エチエンヌ━) フランスの空想的共産主義者。共産的理想社会を描いた空想小説「イカリア紀行」を著わす。のちアメリカに渡り、理想社会を建設しようとしたが失敗。(一七八八‐一八五六

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改訂新版 世界大百科事典 「カベ」の意味・わかりやすい解説

カベ
Étienne Cabet
生没年:1788-1856

フランスの思想家。イカリアIcarieとよぶ共産主義の理想社会を建設する理論を説き,また信奉者とともにアメリカ合衆国に渡ってその実験を試みた。王政復古期のフランスでカルボナリ党の指導部に所属したが,後に秘密結社の閉鎖的な運動に批判的となる。七月革命後,政府によりコルシカ島控訴院検事総長に任命されるが,強硬な共和派とみなされ罷免される。1831年代議士に当選するが,共和派の文筆家として活躍しはじめ,33年に発刊した新聞《ポピュレール》は労働者層に影響を与えた。翌年この新聞が訴追されると,ベルギー,次いでロンドン亡命。彼はそこで工業生産力の重要性とそのもたらす社会問題を認識し,オーエンの影響を受けつつ主著の《イカリア旅行記》(1840)を執筆した。彼の理想社会は強大な工業生産力に支えられた共同体に基づくものであって,この点でバブーフの共産主義とはすでに異なった歴史段階に属している。また暴力による政治権力の奪取を説く共産主義思想にも反対であった。フランス帰国後は現実政治への批判の論陣もはり,二月革命後は〈中央友愛協会〉を組織して共和政の政府と対決した。しかしすでに二月革命直前に信奉者をアメリカのテキサスに送り,実際に理想社会の建設にのり出していた。六月蜂起の後の48年末に自らもアメリカに渡るが,共同体を運営する理論が定まらず,この実験は信奉者の間の分裂によって失敗した。
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「カベ」の解説

カベ
Étienne Cabet

1788~1856

フランスの初期共産主義の思想家。カルボナリ党の幹部となる。七月革命に参加,1834年代議士となるが政府の圧迫で亡命。39年帰国し,のち,『イカリア旅行記』を書き共産主義ユートピアを構想した。

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百科事典マイペディア 「カベ」の意味・わかりやすい解説

カベ

フランスの共産主義思想家。主著《イカリア旅行記》(1840年)などで理想の共産制社会建設を提唱,二月革命以前のフランスの職人労働者層に強い影響力をもった。1848年末,米国に渡りコロニー建設の実験を試みたが失敗,客死。

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旺文社世界史事典 三訂版 「カベ」の解説

カベ
Etienne Cabet

1788〜1856
フランスの空想的社会主義者
トマス=モアの影響をうけ,『イカリア航海記』を著す。二月革命後,合衆国に共産的ユートピア建国を試みたが失敗。

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世界大百科事典(旧版)内のカベの言及

【季節社】より

…フランスの秘密結社。1830年代,七月王政下のフランスでは,議会内外の共和主義者による自由主義的改革運動と,ストライキを中心とした労働大衆の運動や蜂起が頻発し,人間の権利協会のように,一部には両者の連帯の組織化も生ずる。これに対し政府は,抑圧の強化をもってのぞみ,反体制運動と組織の壊滅を行った。こうした状況を前提に組織されたのが季節社である。バブーフの平等主義とブオナローティの秘密結社運動の伝統にたつ革命家ブランキ,およびバルベスとマルタン・ベルナールMartin Bernard(1808‐83)の3者を中心に37年に結成され,その加盟者は600ないし1000名の間と見積もられている。…

【共産主義】より

…共産主義という言葉は,共有財産を意味するラテン語のcommuneに由来している。共産主義とは,私有財産を否定して財産の共有の状態と,共有財産にもとづく社会・政治体制を実現しようとする思想と運動である。
[思想の系譜]
 共産主義の思想は,人類の歴史と同じように古い。私有財産,貧富の差,支配者と被支配者の対立が発生するとともに,古代ではプラトンの国家論とキリスト教の教義に,中世では修道院の生活と農民一揆の運動の中に,共産主義は多様な形式のもとで出現した。…

【ユートピア】より

…現実には存在しない,理想的な世界をいい,理想郷,無可有郷(むかうのさと)などと訳される。ギリシア語を手がかりとして〈どこにもないou場所topos〉と〈良いeu場所topos〉とを結びつけたT.モアの造語。ユートピアの観念は,人間の自然な感情として普遍的にいだかれうるものであるが,同時に特定の内実をもった思想的表明,もしくは運動をもうみだす。
[ユートピアの系譜]
 ヨーロッパでは古代以来,ユートピア思想と運動の伝統が形成されている。…

※「カベ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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