カワマス(読み)かわます(英語表記)brook trout

翻訳|brook trout

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カワマス」の意味・わかりやすい解説

カワマス
かわます / 河鱒
brook trout
[学] Salvelinus fontinalis

硬骨魚綱サケ目サケ科に属する渓流魚。この名は英名直訳で、北アメリカ東部原産イワナの1種である。生活型は北方ではアルプスイワナやオショロコマと同様にアナドロマス型となり、ある期間海洋生活をする。分布はカナダ東側のラブラドル半島北部沿岸と河川からアメリカのジョージア州北部の山間渓流まで広範囲に及ぶ。1800年代の後半から養殖適種として世界各地に移殖され、日本には1901年(明治34)から数回、日光などに卵で輸入され、その後各地の冷水域で池中養殖および河川放流をされた。同じ輸入養殖魚のニジマスに比べ、より低い水温を好む。体長は50センチメートルにもなる。茶褐色の背面に黄白色の虫食い状の斑点(はんてん)を有し、背びれ尾びれにも同様の模様がある。体側には白色小円点と混じって紅紫色の小円点が散在し、美麗である。現在、日本の自然分布として北海道西別(にしべつ)川上流、日光湯ノ湖と湯ノ川、および長野県梓(あずさ)川上流(上高地)とくに明神(みょうじん)池が知られる。食性はかなり荒く、おもに昆虫類や小魚を食う。産卵期は10月下旬から12月以降にも及び、やや流れの緩い平瀬の砂礫(されき)床を掘って産卵する。釣りの対象魚としておもしろく、食用としても相当に美味である。他種のイワナ、とくに日本のイワナと交配しやすく、その一代雑種は一般に成長、生残率ともに良好であるが、その第2代以降は成熟が正常でなく、生残率も著しく低下する傾向がある。河川内では実際に自然の交配も確認され、これの放流により在来のイワナの再生産を著しく低下させるおそれがある。

[久保達郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「カワマス」の意味・わかりやすい解説

カワマス (川鱒)
brook trout
Salvelinus fontinalis

サケ目サケ科イワナ属の魚。原産地はカナダおよび北アメリカ北部の東岸で,日本へは1901年に日光の中禅寺湖の養殖場へ初めて輸入され,一時は各地の養殖場,河川,湖に移殖された。その後,ニジマスの養殖にとってかわられたが,現在でも栃木県の湯の湖,湯の川,長野県の梓川ではまだ増殖が行われている。ニジマスよりやや冷水を好む。体は淡い緑青色であるが,体側に瞳孔径よりもやや小さい朱紅色の斑点が散在する。背面および背びれ,しりびれには不規則な雲形の斑紋があり,虫のはった跡のように見える。腹びれ,しりびれとも淡い橙色で,その前縁に沿って鮮やかな乳白色帯があり,そのすぐ後ろは黒く縁取られている。10月下旬~12月に1500~2500個の卵を産む。卵は橙赤色で直径4~5mmである。昆虫や小魚を捕食し,全長80cm近くに達する。ブルックトラウトと呼ばれ釣人から好まれる。肉の色は赤く,フライ,塩焼きなどにして美味である。
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百科事典マイペディア 「カワマス」の意味・わかりやすい解説

カワマス

サケ科の魚。体の背面に虫食い状の斑紋と,体側に赤い斑点がある。北米北東部の原産で,日本への卵の移殖は1901年に日光の中禅寺湖で初めて成功した。山間の冷水域を好み,餌は昆虫,小魚などの小動物。現在養殖はニジマスほど盛んではない。フライ,塩焼などにして美味。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カワマス」の意味・わかりやすい解説

カワマス
Salvelinus fontinalis; brook trout

サケ目サケ科の淡水魚。全長 50cm。体は黄色みがかった褐色で,背部には虫食い状の斑紋があり,体側には鮮明な朱赤斑紋がある。胸鰭,腹鰭,尻鰭の前部軟条は白い。山間の渓流,湖にすみ,昆虫,小魚などを餌とする。原産はカナダ,北アメリカ北部の東岸の河川で,日本には 1901年に移殖された。

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世界大百科事典(旧版)内のカワマスの言及

【サケ(鮭)】より

…その中で,昔,沿岸で捕獲されるサケ科の魚の中では大きく漁獲量も多かったサケO.ketaのみが王者としてのサケの名を用いられ,海に生息するもの,淡水に生息するものとしての厳密な区分けは薄らいでいる。 外国では,海へ下るものとしてAtlantic salmon(Salmo salar)をsalmon,一生を湖でくらすものとしてbrook trout(S.trutta)をtroutと呼びならわしてきた。しかし,sea troutなどのように,またbrook troutでも海へ下るものがいることが明らかになり,湖川を中心に生息するものをtroutと呼んでいる。…

※「カワマス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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