カンジダ・アウリス(読み)かんじだ・あうりす(英語表記)Candida auris

知恵蔵 「カンジダ・アウリス」の解説

カンジダ・アウリス

2005年に東京で発見されたカンジダ一種で、09年に帝京大学の槇村浩一教授らが新種として報告した。カンジダは真菌の一種。
東アジア、南アジア、中近東アフリカヨーロッパ北米南米など全世界で感染が確認されている。
カンジダ・アウリスは、人間の皮膚や体内に存在する真菌であるが、免疫機能が低下していると感染しやすく、敗血症髄膜炎などの全身症状を引き起こす。致死率が高く、全身感染の場合30~60%にも達する。
特徴的なのが、多くが院内感染として発症し、爆発的に感染が広がるアウトブレイクを引き起こしていること。次々に感染が広がるため鎮静に困難を極めるという報告が多い。
強い病原性を持つカンジダ・アウリスは、患者の皮膚や体内に存在するばかりでなく、医療機器や病院の環境の中で長期間生存することができることが知られている。医療機器などが感染源となって免疫機能が低下した患者に感染し、大規模な感染拡大を引き起こすことがある。
複数の抗真菌薬に耐性を持ち、薬が効かないことでも知られている。
薬の効く他の種類のカンジダと、カンジダ・アウリスとを鑑別するための手法が確立されておらず、感染予防のための的確な手段が取りにくいことが感染拡大の要因となっている。
日本では、世界各国のような院内感染の集団的発生は起きていない。しかし、国際交流やメディカルツーリズムの増加、そして東京オリンピック開催などを背景に、集団感染を起こすような菌が国内に持ち込まれ、大規模な感染拡大を引き起こす可能性がある。
カンジダ・アウリスの感染リスクが高いのは、糖尿病、慢性腎疾患患者、使用している薬剤の影響で免疫機能が低下している患者や中心静脈カテーテルを留置している患者、腹部手術後の患者などである。
予防対策としては、カンジダ・アウリス陽性患者の隔離、陽性患者との接触が否定できない全ての医療機器等の消毒除菌、陽性患者と同室した患者の特定、そして的確な初期対応と、長期に及ぶ感染防止対策を実施することである。
しかしながら、限られた高価な機器を使用しなければ感染の診断をすることができず、そのため有効な対策ができないことが課題となっていた。
こうしたなか、帝京大学大学院医学研究科医真菌学(槇村浩一教授)の研究グループが、カンジダ・アウリスを1時間以内に検出・診断できる遺伝子診断法を開発し、米国微生物学会のジャーナル・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー誌9月号で報告した。今後、海外研究機関の協力の下に流行地における実証試験が予定されている。

(星野美穂 フリーライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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