キクメイシ(読み)きくめいし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キクメイシ」の意味・わかりやすい解説

キクメイシ
きくめいし / 菊目石
海花石
菊銘石

腔腸(こうちょう)動物門花虫綱六放サンゴ亜綱イシサンゴキクメイシ科の海産動物の総称、またはそのなかの1種。キクメイシFavia speciosaは、相模(さがみ)湾以南の水深2~20メートルに普通に産する。太平洋、インド洋サンゴ礁域に広く分布し、もっとも普通にみられる種である。群体塊状または半球状で、その径は通常20~40センチメートルであるが、3メートルに及ぶものもある。莢(きょう)はほぼ円形で径は約1センチメートル。隔壁は薄く約40枚、そのうち約15枚は莢心に達する。莢は表面よりわずかに突出するため、隣接する莢の間に溝がある。口盤内分裂による無性生殖で群体は成長する。ポリプ肉部の色彩は褐色、緑色、赤褐色などの変異がある。触手は無色透明で非常に長く、先端に淡黄色の刺胞球を備える。ポリプは夜間に活動してプランクトンを摂食する。多くのイシサンゴ類は陸水の影響を受ける環境では成育が適さないが、本種はそのような海域にもよくみられる。

 キクメイシ科の近似種には、口盤外分裂をするルリサンゴ属Leptastrea、マルキクメイシ属Plesiastrea、トゲキクメイシ属Cyphastreaや、口盤内分裂をするカメノコキクメイシ属Favites、コカメノコキクメイシ属Goniastreaなどがある。これらは、いずれも骨格表面は菊紋状の莢が並び、キクメイシ類とよばれる。

[内田紘臣]


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改訂新版 世界大百科事典 「キクメイシ」の意味・わかりやすい解説

キクメイシ
Favia speciosa

花虫綱キクメイシ科の腔腸動物刺胞動物)。個虫を側方に出芽しながら増やし,大きなものでは直径2~3mにも達する塊状や球状の群体になるイシサンゴ。相模湾以南に分布し,黒潮沿岸の水深2~20mにふつうに産する。莢(きよう)は直径10mm前後で円形,部分によっては多角形のものもある。これがキクの花のように見えるのでこの名がある。莢と莢との間には明りょうな溝があり,近似種から容易に区別できる。莢内には薄い隔膜が多くあり,その中で16~18個が中央まで達し,上縁にはのこぎりのような歯がある。共肉の色に褐色,緑色,赤褐色など変化があり,ポリプは夜間活動する。多少陸水が影響する場所で成育がよい。同属にはカメノコイシ,オオカメノコキクメイシ,フトウネカメノコキクメイシなどがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キクメイシ」の意味・わかりやすい解説

キクメイシ
Favia speciosa

刺胞動物門花虫綱六放サンゴ亜綱イシサンゴ目キクメイシ科。代表的な造礁サンゴで,塊状または半球状の群体をつくり,一般に 20~40cm,ときに直径 2~3mに達するものもある。莢は円形で直径 1cmほどあるが,密接して多角形状になっている。莢は表面よりわずかに突出するため,隣の莢との間に溝ができる。個虫の分裂により群体が成長する。ポリプの触手は長く,夜間に伸ばしてプランクトンを捕食する。房総半島以南の西太平洋,インド洋に分布する。(→サンゴ刺胞動物花虫類無脊椎動物

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百科事典マイペディア 「キクメイシ」の意味・わかりやすい解説

キクメイシ

花虫綱イシサンゴ類キクメイシ科の腔腸(こうちょう)動物。直径1cm内外の固体が集まって,径2〜3mの群体を構成する。生きている時は青緑色のポリプで全面がおおわれるが,死後は石灰質の個体がキクの花のようにみえる。熱帯地方のサンゴ礁に普通の種類で,日本でも相模湾以南の黒潮下の海岸付近の水深2〜20mにみられる。

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世界大百科事典(旧版)内のキクメイシの言及

【毒消売】より

…それが女性中心の行商となったのは,明治になってこの地方の塩業が自由競争で打撃をうけたことから,それまで塩業労働を支えてきた女性たちが売薬行商へと転換をはかったためである。越後の毒消丸は,硫黄(各地の毒消丸の主薬)にキクメイシ(キクメイシ科の腔腸動物,イシサンゴの1種)と白扁豆(びやくへんず)(マメ科フジマメの成熟種子)を配合した丸薬で,キクメイシを配合した消毒丸では,京都山科の金屑(きんせつ∥きんしよう)丸が有名だったが,金屑丸にみられない白扁豆(健胃・消炎・解毒作用をもつ)が加わっているところに改良の跡がみえる。【宗田 一】。…

※「キクメイシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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