キブシ(英語表記)Stachyurus praecox Sieb.et Zucc.

改訂新版 世界大百科事典 「キブシ」の意味・わかりやすい解説

キブシ
Stachyurus praecox Sieb.et Zucc.

早春の低山に,淡黄色花穂を葉に先立って下垂するキブシ科の落葉低木。渡島(おしま)半島以南の日本全土の林縁や崩壊地に普通に見られ,中国にもまれに生育する。花穂は前年枝の落葉した葉腋ようえき)から出て,早春,20個内外の小さな鐘形の花をつける。雌雄異株で,雌花雄花よりやや小さく緑色を帯び,おしべはあるが小さい。雌木には,はじめ緑色で熟すと黄色を帯びる堅い球形果実をつけ,中に非常に小さな種子を多数入れる。このマメ状の果実はタンニン原料となり,干して粉にし,ヌルデの五倍子(ふし)の代りに黒色染料として用いる地方があり,木ブシあるいは豆(まめ)ブシという。沖縄では歯を染めるのに用いたという。材は黄白色で比較的柔らかく楊枝や杖を作る。また庭園樹として栽植もされる。

 キブシ科Stachyuraceaeはキブシ属のみの科で,約5種が東アジア,中央アジアに分布する。離弁で子房上位,側膜胎座の花を有する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キブシ」の意味・わかりやすい解説

キブシ
きぶし
[学] Stachyurus praecox Sieb. et Zucc.

キブシ科(APG分類:キブシ科)の落葉低木。高さ約3メートル。分枝が多く、樹皮褐色。葉は互生し、卵状楕円(だえん)形で先がとがる。春、葉が出る前に総状花序を下垂し、多数の黄色花が連なってつく。雌雄異株。萼(がく)は4枚で黒褐色を帯び、花弁は4枚。雄花は大形雄しべは8本、雌花は小形で雌しべは1本。果実は球形で、種子が多数ある。北海道から九州に分布する。果実はタンニンを含み、五倍子(ごばいし)の代用となり、花枝はいけ花に用いる。変種のナンバンキブシは葉の裏面が粉白色で大形。果実も大形。四国、九州の太平洋側と奄美(あまみ)大島、徳之島に分布する。

[古澤潔夫 2020年9月17日]

 キブシは地域によって非常に変異が多く、ハチジョウキブシ、ナガバキブシ、ハザクラキブシなどがある。

[編集部 2020年9月17日]


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百科事典マイペディア 「キブシ」の意味・わかりやすい解説

キブシ

日本全土の山地にはえるキブシ科の落葉低木。葉は卵形で先がとがり,縁には鋭い鋸歯(きょし)がある。3〜4月,新葉の出る前に前年枝の葉腋から長さ3〜10cmの花穂が垂れ,4弁の淡黄色花を密につける。花は鐘形で長さ7〜9mm。雌雄異株。果実はやや球形で,秋,成熟,ヌルデの五倍子の代用とする。樹は庭木。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キブシ」の意味・わかりやすい解説

キブシ
Stachyurus praecox

キブシ科の落葉低木。山地に広くみられる。高さ2~3m。褐色の樹皮で,卵形で先がとがった,鋭い鋸歯のある葉が互生する。春に,若葉が伸びる前に枝に穂状花序が並んで垂れ下がる。雌雄異株。花は黄色の6弁で,4本のおしべがある。雌木に球形の果実を生じる。これを五倍子 (ふし) の代用品とするので「木ぶし」の名がつけられたという。マメブシの別名もある。

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