キュウカンチョウ(読み)きゅうかんちょう(英語表記)hill myna

翻訳|hill myna

改訂新版 世界大百科事典 「キュウカンチョウ」の意味・わかりやすい解説

キュウカンチョウ (九官鳥)
hill myna
Gracula religiosa

スズメ目ムクドリ科の鳥。人語などのまねがじょうずなので,飼鳥としてよく飼われている。原産地は中国南部とインドから大・小スンダ列島およびフィリピンまでの南アジアである。全長約30cm,くちばしと脚は橙黄色。眼の後方から後頸(こうけい)部に黄色の肉垂がある。羽色は,風切の一部に顕著な白斑があるほかは,全身紫色ないし青緑色の光沢のある黒色。小群で森林に生息し,とくに村落や農耕地近くの森林に好んですむ。食物はおもに昆虫類と漿果(しようか)類である。大きな木の比較的高いところにある樹洞で繁殖する。1腹の卵は2~3個。野生状態でもさまざまな声を発してにぎやかな鳥である。飼育すると人の話しことばや動物の鳴声などを非常にうまく覚えるので,東南アジアの各地で籠鳥(ろうちよう)として愛玩されている。日本にも古くから輸入され,よく親しまれている飼鳥の一つ。餌としては,すり餌がよいが,市販されている固型飼料を水にひたして与えてもよい。
執筆者: 〈九官鳥〉という名の由来はおもしろい。中国ではこの鳥を〈秦吉了(しんきつりよう)〉と呼び,《大和本草》では〈サルカ〉と訓じているが,この鳥が中国から江戸時代に初めて日本に移入されたときに,その鳥の飼主であった九官という人が,通訳に,〈この鳥は自分の名をいう〉といった。ところが通訳は,その鳥が飼主の名まえをまねるという意味にはとらずに,その鳥が鳥自身の名まえをいうという意味にとってしまったため,以後,この鳥の名まえとして〈九官鳥〉が伝わってしまったというものである。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キュウカンチョウ」の意味・わかりやすい解説

キュウカンチョウ
きゅうかんちょう / 九官鳥
hill myna
[学] Gracula religiosa

鳥綱スズメ目ムクドリ科の鳥。同科キュウカンチョウ属2種中の1種。全長約25~28センチメートル。全体に紫色の光沢がある黒色で、翼に白斑(はくはん)がある。顔から後頸(こうけい)、後頭部にかけて存在する黄色の肉質部がこの鳥の特徴である。嘴(くちばし)、足は黄色。中国南部、インドシナ半島、ミャンマー(ビルマ)、ネパール、インド、スリランカ、マレーシア、フィリピン、インドネシアなどの山地や森林帯に広く分布し、普通は小群で生息している。生息地域によって全体の大きさや、後頸肉質部の形状などが異なり、10亜種に分類されている。日本には江戸時代から輸入されるようになったと思われる。九官という中国人が持参したとき、この鳥が自分の主人の名をよんだので九官鳥と名づけられたという挿話がある。この話からもわかるように、人語やほかの鳥の鳴きまねは実に巧みで、オウム科のヨウム以上の天才である。「こんにちは」「おはよう」などは序の口で、歌曲の一節を口ずさんだり、人をからかうような高笑いをしたりもする。身体は頑丈で足も太くじょうぶである。すむ場所を暖かく、乾燥しすぎないように気をつければ、雑食性であり、果実、昆虫類を好むので非常に飼育しやすく、飼い鳥として人気が高い。物まねをさせるには幼鳥から飼育するのがよい。ジャワ島産のオオミミキュウカンチョウも1亜種であるが、物まねは巧みではない。

 キュウカンチョウ属の他の1種はスリランカにのみ生息するセイロンキュウカンチョウG. ptilogenysで、キュウカンチョウと異なり、肉質部は顔面になく後頭部にのみ存在し、嘴は赤色である。

[坂根 干]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キュウカンチョウ」の意味・わかりやすい解説

キュウカンチョウ
Gracula religiosa; common hill myna

スズメ目ムクドリ科。全長 29cm。に白帯(開かないと見えない)があるほかは全身金属光沢のある黒色で,目の後ろから後頸にかけて黄色の皮膚が裸出した付属部,肉垂が目立つ。は赤橙色,脚は黄色。インド東部から東南アジアにかけて分布する。森林や果樹園などにすみ,果実食だが,花蜜や昆虫も食べる。小群をつくって暮らし,巣は樹洞など穴のなかにつくる。ものまねをする鳥としてオウム類とともに有名で,飼鳥として人気がある。野生の鳥は鳴き声にいくつかのレパートリーをもち,若鳥のときに学習して覚えるが,ほかの鳥の鳴きまねはしない。

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世界大百科事典(旧版)内のキュウカンチョウの言及

【コミュニケーション】より

…しかしながら野生状態のチンパンジーでは,言語の片鱗すら見つかってはいない。なお,キュウカンチョウやオウムはヒトの言葉をまねることで知られているが,音声の模倣が,その内容まで理解したコミュニケーション機能にまで高まることはまったくない。【杉山 幸丸】。…

※「キュウカンチョウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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