ギルガメシュ叙事詩(読み)ギルガメシュじょじし(英語表記)Epic of Gilgamesh

精選版 日本国語大辞典 「ギルガメシュ叙事詩」の意味・読み・例文・類語

ギルガメシュじょじし【ギルガメシュ叙事詩】

(ギルガメシュはGilgamesh) 古代メソポタミアの英雄叙事詩ウルクの王ギルガメシュを主人公とし、シュメール語アッカド語ヒッタイト語などで記された種々の伝承が知られる。

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改訂新版 世界大百科事典 「ギルガメシュ叙事詩」の意味・わかりやすい解説

ギルガメシュ叙事詩 (ギルガメシュじょじし)
Epic of Gilgamesh

初期楔形文字で書かれたシュメール王名表に記載されている実在の王ギルガメシュGilgameš(シュメールの表記ではギシュ・ビル・ガ・メス)は早くに神話的人物となり,シュメールの断片的な神話物語に登場する。これをもとにしてアッカド語で編集されたのがこの叙事詩で,主として前8世紀ころにアッシリア語で書かれたニネベ版約3600行のうち現存する約2000行によって知られている。ほかにバビロニア語版の一部,ヒッタイト語およびフルリ語の断片などがあり,古代世界に広く流布していたことがわかる。

 ギルガメシュはウルクの城主で,3分の2が神,3分の1が人間であった。はじめ暴君だったのでウルクの人々は天神アヌにこのことを訴え,アヌの命令で粘土から野人エンキドゥEnkiduが創り出される。動物たちに交じって野原にいたエンキドゥはウルク神殿に仕える遊び女によってウルクへ連れてこられ,ここでギルガメシュと力比べをした。戦いは長く続き,互いに力を認め合って友情が生まれた。こののち2人は杉の森の怪物フンババumbaba征伐に行き,やっとのことでフンババを倒した。美の女神イシュタルはギルガメシュの雄々しさを見て,夫になってくれるよう頼むが,ギルガメシュはこの女神の移り気を知っているので,あざけってその願いを退けた。イシュタルは怒り,父の天神アヌに〈天の牛〉をウルクへ送ってここを滅ぼすよう求める。〈天の牛〉はウルクで多数の人を殺すが,ギルガメシュはエンキドゥと力を合わせてこれを倒した。神々はその罰としてエンキドゥの死を決定し,彼は熱病にかかって死んだ。ギルガメシュは涙を流し,〈永遠の生命〉を求めてさまよう。ついに永遠の生命を得たというウトナピシュティムUtnapištimを探しあて,その秘密を尋ねると,彼はその昔生じた大洪水,そしてエアエンキ)神のおかげで箱船を作って助かった次第を語る。しかし彼もその理由は知らなかった。ギルガメシュはあきらめのうちにふるさとウルクへ戻る。

 本叙事詩は1872年に大英博物館に運びこまれたニネベ出土の粘土書板からスミスG.Smithによって発見された。当初《大洪水物語》(第11の書板)が見つかったが,彼は表意文字で書かれた物語の主人公の名を正しく読むことはできなかった。ピンチェスT.G.Pinchesが90-91年にこの名をギルガメシュと読んだ。こののち欧米各国で研究が行われ,イェンゼンP.Jensenはこれを独訳するとともに,世界各国の神話とこの叙事詩を比較した大著を公刊し,バビロニアを古代文明の源泉とする〈汎バビロニア説〉を強調した。その後,古バビロニア語版断片や,この叙事詩の原型であるシュメール語版断片が発見された。1930年にはトムソンC.Thompsonによってニネベ版全文の原典が公刊され,各国語訳はますます盛んに行われた。今日では世界中で20ヵ国語ほどの翻訳があるほか,音楽や演劇の素材としても利用されている。比較文学上からは,ホメロスの《オデュッセイア》や〈アレクサンドロス大王伝説〉などとの関係が論じられており,最古の世界文学とみなされている。
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百科事典マイペディア 「ギルガメシュ叙事詩」の意味・わかりやすい解説

ギルガメシュ叙事詩【ギルガメシュじょじし】

古代オリエントで広く流布した英雄叙事詩。実在の王とみられるギルガメシュGilgameshはシュメールの断片的神話物語に早くから登場しているが,これをもとにアッカド語で編集されたもの。3分の2が神で3分の1が人間のギルガメシュと野人エンキドゥ,美の女神イシュタルらが主な登場人物。主にアッシリア語で書かれたニネベ版によって知られる。その第11の書板にノアの洪水に似た洪水物語があることを1872年G.スミスが指摘した。以後新テキストや新史料の発見,各国語への翻訳が続き,世界各国の神話との比較も行われている。
→関連項目ウトゥナピシュティム

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ギルガメシュ叙事詩」の意味・わかりやすい解説

ギルガメシュ叙事詩
ギルガメシュじょじし
The Epic of Gilgamesh

バビロニア=アッシリア文学のなかで最も重要な作品の1つ。古代メソポタミアの有名な英雄ギルガメシュの物語の集大成。アッカド語で記された文献は,ニネベのアッシュールバニパルの図書館跡出土の 12枚の書板がおもなもので,欠損部分は,メソポタミア各地およびアナトリアで発見された多くの断片により補足されている。この原型というべきシュメール語の断章が,前2千年紀前半に書き残されている。歴史上のギルガメシュは,前3千年紀前半にウルクを支配した実在の人間で,キシュの支配者アッガと同時代であるとされている。しかし,詩のなかには史実と思われることは述べられていない。親友エンキドゥが,女神イシュタルの怒りに触れ,12日間の病気で苦しんだ末に没したことから,ギルガメシュが不死を求めて放浪する,というのが本編の主要テーマ。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ギルガメシュ叙事詩」の解説

『ギルガメシュ叙事詩』(ギルガメシュじょじし)
Epic of Gilgamesh

シュメール語で書かれた,英雄ギルガメシュを主人公とする,古代オリエント最古最大の叙事詩。ギルガメシュは,おそらく実在したウルクの王。種々の版があり,当時の各国語に訳されているが,標準版は12枚の書板からなる。その第11枚目に,ノアの箱舟伝説に連なるウトナピシュティムの洪水伝説が語られている。

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世界大百科事典(旧版)内のギルガメシュ叙事詩の言及

【粘土板文書】より

…叙事詩には実在したと考えられる英雄ギルガメシュを主人公とするエピソードが多く,哀歌には都市ウル,ニップール,ウルク,エリドゥ,アッカドなどの破壊を哀悼する作品が知られている。有名なバビロニア語版およびアッシリア語版の《ギルガメシュ叙事詩》は〈友情〉と〈死〉を主題として構成された長大な物語で,旧約聖書のノアの洪水伝説の原型と考えられるエピソードもこの中で語られている。この《ギルガメシュ叙事詩》は古代オリエント全般に流布していた。…

【メソポタミア】より

…一連のシュメール叙事詩においてウルク支配者の功業が語り伝えられている。とりわけ《ギルガメシュ叙事詩》はアッカド語,ヒッタイト語,フルリ語にまで書き移され,古代西アジア文学中の最大の作品となった。ギルガメシュは初期王朝期I期ないしII期に実在したと思われるが,この時期のウルク周辺では多くの小村落が姿を消すとともに,ウルク自体の規模も大膨張した。…

※「ギルガメシュ叙事詩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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