クセナキス(読み)くせなきす(英語表記)Iannis Xenakis

デジタル大辞泉 「クセナキス」の意味・読み・例文・類語

クセナキス(Iannis Xenakis)

[1922~2001]ギリシャ作曲家。ルーマニア生まれ。レジスタンス運動に参加し、のちパリに亡命。数学を音楽作品に取り入れ、コンピューターを用いた「推計音楽」を提唱、斬新な作品を発表した。建築家としてル=コルビュジェの下で働いていたこともある。作「メタスタシス」「ポリトープ」「ピソプラクタ」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クセナキス」の意味・わかりやすい解説

クセナキス
くせなきす
Iannis Xenakis
(1922―2001)

ルーマニア生まれのギリシア人作曲家。音楽の勉強と並行してアテネ工科大学で建築学を学んだ。第二次世界大戦中は地下組織に身を投じて対独抵抗運動に参加。大戦後も反独裁政府抵抗運動を行い、そのため死刑を宣告されたが、1947年パリに亡命し、65年にはフランスに帰化。1948年からル・コルビュジエのもとで建築設計を担当するかたわら、オネゲルミヨーメシアンに音楽を学ぶ。55年初演の『メタスタシス』、57年初演の『ピソプラクタ』以降、一貫してコンピュータを利用した作曲活動を続け、確率分布の法則、蓋然(がいぜん)性理論を音楽に導入した作曲家として広く知られている。ミクロ的には偶然的にみえてもマクロ的にみれば統御されているような構造を音楽に適用した。カオス(混沌(こんとん))と秩序の厳密な階層構造を特徴とする。表面的にはリゲティらの音群技法とも似ているが、クセナキスの場合、音の密度の濃淡、音域の計算などから、巨大な音の壁を聴くようなところがある。80年代にはデジタル・コンピュータを用いた音楽教育、作曲プログラムの開発などにも従事した。代表曲に『エオンタ』(1964)、『ポリトープ』(1967)、『ノモスガンマ』(1969)、『ペルセポリス』(1971)などがある。97年(平成9)京都賞受賞。著書に『形成化された音楽』Musiques formelles(1963。英訳Formalized Music』1971)、『Musique. Architecture』(1971。邦訳『音楽と建築』)がある。

[細川周平]

『高橋悠治訳『音楽と建築』(1975・全音楽譜出版社)』『オリヴィエ・ルフォー・ダロンヌ著、高橋悠治訳『クセナキスのポリトープ』(1978・朝日出版社)』『武満徹著『すべての因習から逃れるために――武満徹対談集』(1987・音楽之友社)』『武満徹著『歌の翼、言葉の杖――武満徹対談集』(1993・ティビーエス・ブリタニカ)』『Iannis Xenakis:Formalized Music;Thought and Mathematics in Composition(2001, Pendragon Press)』

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百科事典マイペディア 「クセナキス」の意味・わかりやすい解説

クセナキス

ルーマニア生れのギリシア人作曲家,建築家。10歳でギリシアに帰国しアテネ工科大学で建築学と数学を学ぶ一方,音楽の勉強を続ける。第2次大戦中は対独レジスタンスに身を投じ,戦後も軍事政権との闘いに参加。死刑を宣告され1947年パリに亡命,1965年フランス国籍を得る。パリではル・コルビュジエのもとでブリュッセル万国博覧会のフィリップス館(1958年)などを設計。一方でオネゲルミヨーメシアンシェルヘンらに作曲を師事し,管弦楽曲《メタスタシス》(1955年)でデビュー。以後,確率論や集合論,コンピューターを導入したユニークな作品で作曲界に大きな影響を与えた。代表作に,ピアノ,トランペット,トロンボーンのための《エオンタ》(1964年),アイスキュロスの三部作のための舞台音楽による組曲《オレステイア》(1966年),混声合唱曲《夜》(1968年),管弦楽曲《ノモス・ガンマ》(1968年),打楽器アンサンブルのための《プレアディス》(1979年)など。→電子音楽

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改訂新版 世界大百科事典 「クセナキス」の意味・わかりやすい解説

クセナキス
Iannis Xenakis
生没年:1922-2001

ルーマニア生れのギリシア人作曲家。第2次世界大戦中の抵抗運動のため祖国を追われ,1947年以来パリに定住し,フランス国籍を獲得。H.シェルヘンの支援を受け,アテネ工科大学で音楽と建築学を学び,そこで得た数学の知識を音楽に応用する試みを行う。ル・コルビュジエの下での建築の構造計算の仕事は,やがて《ポリトープ》(1967年,モントリオール。1972年,クリュニー)という光と建築と音楽の総合をはかる作品として結実。コンピューターによる確率論にもとづく諸作品をみずから〈ストカスティック音楽stochastic music(推計音楽)〉と呼び,コンピューター音楽に多大な影響を与える。代表作に《ピソプラクタ》(1956),《エオンタ》(1964),《ノモス・ガンマ》(1968)などがあり,また彼が携わった主要建築にブリュッセル万国博のフィリップス館(音楽はE. バレーズ)などがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クセナキス」の意味・わかりやすい解説

クセナキス
Xenakis, Yannis(Iannis)

[生]1922.5.29. ブライラ
[没]2001.2.4. パリ
ルーマニア生れ,ギリシア系のフランスの作曲家,建築家,数学者。第2次世界大戦中はギリシアのレジスタンスに参加し,アテネ工科大学で建築学を学ぶ。卒業後の 1947年パリに亡命,ル・コルビュジエの建築事務所に入る。その間,エコール・ノルマル・シュペリュール (高等師範学校) で A.オネゲルと D.ミヨーに,パリ音楽院で O.メシアンに作曲を学ぶ。音楽の確率理論のもとに,54年管弦楽のための『メタスタシス』を作曲。次いで,みずからミュジック・ストカスティック (確率音楽) と呼ぶ作曲法によって 56年『ピソプラクタ』を発表し,さらに 62年コンピュータを用いて作曲した,10人の演奏者のための『ST/10-1,080262』や,66年『テレテクトール』 (聴衆のなかにばらまかれた 88人の演奏家によるオーケストラのための作品) を書き,また同 66年数学的・自動的音楽研究センターを設立するなど,現代音楽において特異な位置を占めた。

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ピティナ・ピアノ曲事典(作曲者) 「クセナキス」の解説

クセナキス

ルーマニア出身のギリシア系の作曲家。主にパリで活動した。アテネ工科学校を卒業している。和声と対位法はクンドゥロフに師事した。ドイツ、イタリア、イギリスと相次いで占領される中、抵抗運動に身を投じたクセ ...続き

出典 (社)全日本ピアノ指導者協会ピティナ・ピアノ曲事典(作曲者)について 情報

世界大百科事典(旧版)内のクセナキスの言及

【コンピューターミュージック】より

…前者の方向はアメリカのヒラーL.A.Hillerなどによって追求され,アイザクソンL.M.Isaacsonと共作した弦楽四重奏のための《イリアック組曲》(1957)などが作られたが,音楽的に評価されるものはあまりない。後者の方向を積極的に追求したのはクセナキスである。彼は当初より数学的な形式モデルに基づく作曲を行っていたが,音の分布状態等を推測統計学を応用して確率論的に決定する方法を採るようになると,その計算のためにコンピューターを導入した。…

※「クセナキス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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