クレッチマー(英語表記)Kretschmer, Ernst

デジタル大辞泉 「クレッチマー」の意味・読み・例文・類語

クレッチマー(Ernst Kretschmer)

[1888~1964]ドイツの精神医学者。多くの精神障害患者との面接経験から、体格と気質(性格)との相関関係に注目し、肥満型躁鬱そううつ病患者に、痩身そうしん型は分裂病患者に多いことなどを主張。著「体格と性格」「敏感関係妄想」「医学的心理学」など。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クレッチマー」の意味・わかりやすい解説

クレッチマー
Kretschmer, Ernst

[生]1888.10.8. ウュステンロート
[没]1964.2.8. テュービンゲン
ドイツの精神医学者。テュービンゲン大学で哲学と医学を学び,1926~46年にマールブルク大学教授,1946~59年にテュービンゲン大学教授を務めた。第1次世界大戦に軍医として参戦し,そこでヒステリー研究したのが,精神医学に携わるきっかけとなった。テュービンゲン大学在職中,子供の性格や精神病の研究を進め,精神療法や催眠術を発展させた。1918年以降,ほぼ毎年著書を出したが,体格と性格とを関連づけた実証類型論は特に有名。1921年の著書『体格と性格』Körperbau und Charakterのなかで,特定の精神疾患と特定の体格の間に相関関係があるとして,体格をおもに細長型,肥満型,闘士型の 3種に分類し,細長型には分裂性気質が,肥満型には躁うつ性気質が多いことを示した。この研究は,クレッチマーが例としてあげた細長型で分裂性気質の患者が,肥満型で躁うつ性気質の患者より若かったため,体格差は年齢によるものであるという批判を受けた。それでも体格説は大衆には広く受け入れられ,さらなる心理学的研究を促した。しかし統計学的には疑問が多く,近年のパーソナリティの研究にはほとんど使われていない。そのほか,天才犯罪者妄想などに関する業績がある。主著『医学的心理学』Medizinische Psychologie(1922),『天才』Geniale Menschen(1929)など。

クレッチマー
Kretschmer, Paul

[生]1866.5.2. ベルリン
[没]1956.3.9. ウィーン
ドイツの言語学者。マールブルク大学,ウィーン大学教授。インド=ヨーロッパ語族の比較言語学的研究に従事,非インド=ヨーロッパ系諸言語の及ぼした影響に関する研究や言語外的資料の有効性の実証などにより重要な貢献をした。『ギリシア語史序説』 Einleitung in die Geschichte der griechischen Sprache (1896) はギリシア語先史研究に一時期を画した。

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百科事典マイペディア 「クレッチマー」の意味・わかりやすい解説

クレッチマー

ドイツの精神医学者。1926年マールブルク大学,1946年チュービンゲン大学教授。いわゆる体格型(肥満型,やせ型,闘士型)と気質型(躁鬱(そううつ)質,分裂質,癲癇(てんかん)質)との対応を論じたことで知られる。著書《体格と性格》《医学的心理学》など。
→関連項目気質循環気質体質闘士型肥満型分裂気質やせ型

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改訂新版 世界大百科事典 「クレッチマー」の意味・わかりやすい解説

クレッチマー
Ernst Kretschmer
生没年:1888-1964

チュービンゲン学派を代表するドイツの精神医学者。豊かな芸術的直観と厳密な科学的精神によって妄想論,体質・性格論,精神療法論などの広範な領域に独自の完結した学問体系をうちたてた。チュービンゲン学派の伝統となった多次元診断・治療学は彼によって確立された。チュービンゲン大学のガウプに師事し,第1次大戦中は軍医となり,1926年マールブルク大学教授,46年チュービンゲン大学教授となった。主著に《敏感関係妄想》(1918),《体格と性格》(1921),《医学的心理学》(1922),《ヒステリー・反射・本能》(1923),《天才人》(1929),《精神療法研究》(1949)がある。
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367日誕生日大事典 「クレッチマー」の解説

クレッチマー

生年月日:1888年10月8日
ドイツの精神医学者
1964年没

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世界大百科事典(旧版)内のクレッチマーの言及

【医学的心理学】より

…このためには,精神生理学的知識と並んで精神分析学,行動科学,条件反射学などの知識も重要となってくる。医学的心理学という言葉は,精神現象の理解のために生理学的知識を導入したR.H.ロッツェにはじまるが,その後医学的心理学は,精神の異常に対して身体因,心理因,環境因,性格因といったさまざまな方向からの解析が必要であるとし,多次元精神医学を提唱したE.クレッチマーによって確かなものとなった。クレッチマーは《医学的心理学Medizinische Psychologie》と題する有名な著書を著した(1922)。…

【体】より

…身長はさまざまである。
[体型――クレッチマーの体型分類]
 体型habitは,E.クレッチマーによって,次の3群に類型化されている。(1)細長型 体つきはきゃしゃで,体重は軽い。…

【気質】より

…このうち,血液が優勢ならば,陽気で快活な〈多血質sanguine〉が,胆汁が優勢ならば,短気で興奮しやすい〈胆汁質choleric〉が,黒胆汁が優勢ならば,陰気で憂鬱(ゆううつ)な〈黒胆汁質melancholic〉が,また粘液が優勢なら,鈍感で冷血な〈粘液質phlegmatic〉がそれぞれ生ずると信じられた。このいわゆる四性論(四体液説)は,こんにちの目からみれば,科学的根拠を欠く空想の産物にすぎないが,体液病理学を医学の基本とみなした古代ギリシア・ローマ期に広く行きわたったばかりか,ルネサンス期を経て,近代医学の成立する19世紀まで受け継がれ,下記のクレッチマーの気質論にも多少の影響をおよぼした節がある。ちなみに,さきの4気質のうち〈黒胆汁質(メランコリック)〉は,こんにちの医学その他の分野でよく使われる〈メランコリー〉(憂鬱,鬱病)という言葉のなかになお生きつづけている。…

【思春期危機】より

…さらに,思春期とはこれまでの依存的な存在から自立を志向し,自己とは何かを問う時期でもあり,それが精神的不安定を招く。このような時期に精神的不適応状態がとくに生じやすいことに注目し,思春期危機という概念を提唱したのはドイツの精神科医E.クレッチマーであった(1948)。クレッチマーが強調したのは内分泌機能の変動による心理的本能の作用であり,この危機の発現に生理学的成熟が大きな役割をはたすものとした。…

【性格】より

…性格学が学問として確立したのは類型学からである。その代表的なものとしては,ユング(内向型と外向型),イェンシュE.R.Jaensch(統合型と非統合型),ファーラーG.Pfahler(固執型と流動型),シュプランガー(理論的人間,経済的人間,審美的人間,社会的人間,政治的人間,宗教的人間の6種型),エーワルトG.Ewald(反応類型),クレッチマー(体質学的類型)などがあげられる。また精神病質人格に関しては,クレペリンが主として心理学的特性と社会学的関係から神経質,興奮者,軽佻者,ひねくれ者,虚言欺瞞者,反社会者,好争者,衝動者に分けており,K.シュナイダーは主として臨床経験にもとづいて性格異常(精神病質)を〈自分自身が悩むもの〉と〈社会が悩まされるもの〉に分け10類型(発揚者,抑鬱者,自信欠乏者,熱狂者,顕示者,気分変動者,爆発者,情性欠如者,意志欠如者,無力者)を列挙している。…

【躁鬱病】より

…今日では躁鬱病の異種性が注目され,例えば鬱病に関しては,躁と鬱の両面相をもつ循環病性鬱病(双極型)と鬱病相のみを示す周期性鬱病(単極型)とは,家系研究によると,循環病性鬱病の方が遺伝の働きが強く,遺伝的に分離させるべきだとの主張もある。(2)体格,性格,発病状況 クレッチマーの研究によれば,躁鬱病者は肥満型に多く,細長型や闘士型には少ない。性格的には社交的,善良,親切,親しみやすいという共通した特徴のある循環気質に属する。…

【体型】より

…身体の形態的類型,〈からだつき〉のこと。ヒッポクラテス以来,体型の類型化や気質・行動との関連づけは数多く行われてきたが,ドイツのクレッチマーの研究は画期的である。彼は躁鬱(そううつ)病と精神分裂病と体型との関連に着目し,躁鬱病と〈ふとり型pyknic type〉(脂肪が多く,丸みをもち,四肢が短くずんぐりして皮膚が薄い),分裂病と〈やせ型eptosomic type〉(やせぎすで胸が狭くて薄く,四肢が長く筋肉も薄い)の関係を指摘し,後に癲癇(てんかん)と〈闘士型athletic type〉(胸が広くて厚く,筋骨が発達し,皮膚も厚くて緊張している)との関連をつけ加えた。…

【体質】より

…しかし,ルネサンス以後は,解剖学,生理学などが分化してきて,18世紀から20世紀初頭にかけては,体質を体型によって分類し,これと性格,能力,罹病性などとの関連が研究された。E.クレッチマーによるやせ型,闘士型,ふとり型はその代表的な分類である。また,罹病性に注目した体質分類としては,胸腺リンパ体質,滲出性体質,関節体質または神経関節体質,結合組織体質などがある。…

【短絡反応】より

…ドイツの精神科医E.クレッチマーがあげた心因反応の一つの型。爆発反応とならんで水準の低い原始的な反応形式とされる。…

【天才】より

…天才の遺伝も初期に興味を呼んだテーマの一つで,たとえばイギリスのゴールトンは高い天分をもつ学者や芸術家415人の家系をしらべ,31%にすぐれた父を,48%にすぐれた息子を,41%にすぐれた兄弟を,14%にすぐれた孫を見いだして,高度の天分が遺伝することを実証した(《天才と遺伝》1869)。こうした知見の延長上にあるのがクレッチマーの指摘で,それによると,近世ヨーロッパの天才たちは北方人種とアルプス人種との混交地帯に多く現れており,フランスの大部分,フランドル・オランダ,ドイツの大部分,上部および中部イタリアがこれに属するという(《天才人》1929)。他方,天才の知能指数を問題にしたのがアメリカの心理学者ターマンL.M.Termanで,1916年に考案したビネ=シモン知能検査のスタンフォード改訂版を用い,知能指数(IQ)140以上が天才で,その百分比は0.25%であることを明らかにした。…

【同性愛】より

…同性を性愛の対象とすることと定義できる同性愛は,そのイメージを20世紀において大きく変えた。同性愛はすぐれて20世紀的現象であり,人類の歴史において20世紀ほど同性愛者差別問題が激化し,また解放が強く叫ばれた時代はない。そして20世紀末,同性愛者に対する偏見は弱まりつつある。アメリカ精神医学会発行の《精神障害の診断と分類の手引》は1980年版以降,同性愛を削除し,WHO(国連世界保健機構)編纂の《国際疾病分類》も1992年版以降,同性愛を削除した。…

【犯罪学】より

…ロンブローゾ以降,犯罪原因として犯罪者の素質を重視する生物学的・精神医学的研究は,とくに20世紀前半のドイツとオーストリアを中心に,フィールンシュタインT.Viernstein,レンツA.Lenz,エクスナーF.Exner等による〈犯罪生物学〉として展開された。クレッチマーは体質生物学的研究に基づいて人間の体型を肥満型,細長型,闘士型(および形成不全型)とに分け,これが気質に関する循環性,分裂性,粘着性の3類型とそれぞれ親和性のあることを指摘してその後の体質と犯罪についての研究に大きな影響を与えた。同様の研究はアメリカにおいても,シェルドンの体型と気質の分類を基としたグリュックS.Glueckの研究などがある。…

【ヒステリー】より

…これも口唇期水準の葛藤の存在を示唆する見方である。E.クレッチマーは,ヒステリーにかかりやすい素因として体質的発育の遅れや不均衡を重視した。彼はこのような体質者が,エディプス葛藤を長く持ち続けるのだと推測した。…

【敏感関係妄想】より

…ドイツの精神医学者クレッチマーが創唱した精神疾患群。ガウプの影響をうけて1918年に発表した教授資格論文の題名ともなっている。…

【分裂気質】より

クレッチマーによる性格類型の一つ。彼は,精神分裂病から分裂病質schizoidと分裂気質への移行系列を提起したが,このうち正常な範囲のものを分裂気質と呼んだ。…

※「クレッチマー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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