クレーン(Stephen Crane)(読み)くれーん(英語表記)Stephen Crane

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

クレーン(Stephen Crane)
くれーん
Stephen Crane
(1871―1900)

アメリカの小説家、詩人メソジスト派牧師の子としてニュー・ジャージー州に生まれたが、8歳で父を亡くす。早くからスケッチ風の短編を書き、また新聞社の地方通信員の兄を手伝って記事を執筆するが、ガーランドのリアリズム文学についての講演を取材して感銘を受ける。1891年大学を中退してニューヨークに出、赤貧に甘んじながら、在学中に書き始めた『街の女マギー』を完成させる。売春婦に転落し、自殺に追い込まれていく哀れな娘の運命を描いたこの作品は、反道徳的なものとみなされ、93年自費出版せざるをえなかったが、ガーランドやハウェルズに認められ、やがてアメリカにおける自然主義文学の先駆的作品と目されるに至る。95年『赤色武勲章』が出版されるや一躍有名になる。この作品は、戦争体験が無くまったくの想像力で書かれたが、一方、体験こそ真実発見の道だと信じるクレーンは、通信社の求めに応じて西部メキシコに取材の旅をしたり、ギリシア・トルコ戦争、アメリカ・スペイン戦争の従軍記者となって戦場に赴く。とくに97年キューバ革命の取材に出かけようとしてフロリダ沖で船が難破し、九死に一生を得る。その体験をもとに書かれたのが短編「オープン・ボート」(1897)である。彼の私生活や作品における因習にとらわれない態度は多くの誤解中傷を招き、同年イギリスに居を移す。コンラッドらと親交を結ぶが、肺結核を病み、28歳の若さで世を去る。長編ジョージの母』(1896)、短編集『オープン・ボート』(1898)、『怪物』(1899)、『ホワイロムビル物語』(1900)、詩集『黒い騎士たち』(1895)などがある。イメージの豊かな、簡潔な文体、印象主義的手法はヘミングウェイなどに影響を与え、また彼の詩は現代詩におけるイマジズムの先駆と称される。

[板橋好枝]

『押谷善一郎著『スティーヴン・クレイン』(1981・山口書店)』

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