クロイツフェルト・ヤコブ病(読み)クロイツフェルト・ヤコブびょう(英語表記)Creutzfeldt-Jakob disease

六訂版 家庭医学大全科 の解説

クロイツフェルト・ヤコブ病
クロイツフェルト・ヤコブびょう
Creutzfeldt-Jakob disease
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 クロイツフェルト・ヤコブ病は、異常プリオン蛋白が脳に蓄積して神経細胞を破壊する致死的な病気です。

 ①原因が不明な特発性、②プリオン蛋白遺伝子異常が原因の遺伝性(家族性)、③異常プリオン蛋白の感染が原因の感染性(医原性)に大別されます。頻度は特発性が圧倒的に多く、プリオン病の約90%を占めます。

原因は何か

 特発性の原因は、感染説や遺伝子異常説など多方面から研究されていますが、まだ明らかにされていません。最も有力な仮説は、プリオン蛋白生成の段階で突然変異が生じ、異常プリオン蛋白が生成されて発症するという説です。

症状の現れ方

 特発性クロイツフェルト・ヤコブ病は比較的画一的な症状を示します。大部分は40歳以上で発症し、平均発症年齢は65歳です。認知症小脳失調視力障害などが現れます。認知症は急速に進行して半年以内に無動無言症状態になり、1年前後で死亡することが多いようです。

 また、発症早期にミオクローヌスと呼ばれるけいれん様の不随意(ふずいい)運動上肢を中心にみられることが特徴です。

検査と診断

 発症早期に特異的に診断する方法は開発されていません。進行性の認知症、ミオクローヌスに加えて、脳波検査で周期性同期性放電と呼ばれる特徴的な所見があれば、クロイツフェルト・ヤコブ病と臨床的に診断されます。周期性同期性放電とは、脳波で1秒に1回の頻度で異常波が周期的に現れる所見をいいます。

 脳のMRIでは大脳皮質、小脳、基底核に進行性の変性や萎縮(いしゅく)がみられます。早期診断には、MRIの拡散強調画像が有効な場合が多いようです。

 特発性クロイツフェルト・ヤコブ病の確定診断には、脳組織において疾患に特徴的な所見を確認する必要がありますが、脳には強い感染性があり、生前に脳生検を行うことは少ないようです。

治療の方法

 現在のところ、有効な治療法は確立されておらず、致死的な病気です。延命処置を行わない英国での生存期間は平均3.9カ月です。日本では症状に応じた対症療法を行い、経管栄養、抗生剤投与、ミオクローヌスに対する抗けいれん薬投与などが行われます。

病気に気づいたらどうする

 すみやかに神経内科、脳神経外科、精神神経科などの専門医の診断を受ける必要があります。この病気が疑われる時や診断された時は、二次感染の防止が最も重要になります。

 唾液や尿などからの感染性は非常に低いとされており、患者との通常の接触で感染することはありません。患者の脳、脊髄、リンパ系組織には強い感染性があることがわかっています。したがって、医療行為を介しての感染が最も懸念されます。

〈詳しい情報の入手先について〉

国立精神・神経センター疾病研究第七部

http://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r7/index. html

綾部 光芳

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

クロイツフェルト・ヤコブ病
くろいつふぇるとやこぶびょう
Creutzfeld-Jakob disease

脳が萎縮して海綿状になり、急速に認知症の症状が進行する中枢神経病。人口100万人に1人の発病率で厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されている。原因はヒツジの海綿状脳症であるスクレイピーと同様、感染性タンパク、プリオンと判明した。プリオンは本来、人間の脳に存在するが、異常な形のプリオンが入ると正常プリオンも異常化して発病すると考えられている。また、牛海綿状脳症(BSE)からの感染が疑われる特異な症状のケースとして1995年(平成7)10月、10代の男女、1996年4月には10代から40代までの10人が、いずれもイギリスの医学誌『ランセット』に発表された。クロイツフェルト・ヤコブ病は死者の下垂体から集めたヒト成長ホルモン剤や角膜移植、ヒトの硬膜移植などからも感染する。2008年2月現在、自然感染が約8割で、家族性、感染性が各1割ほど。感染症のうち硬膜移植を受けて発病した患者132人のほか、脳外科手術器具からの感染が疑われる患者が8人出ている。

[田辺 功]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

クロイツフェルト・ヤコブ病
クロイツフェルト・ヤコブびょう
Creutzfeldt Jakob Disease; CJD

特殊な感染性蛋白質プリオンを病原体とする病気で,脳がスポンジ状になり,けいれん,麻痺,痴呆等の脳障害を引起し,多くは死にいたる。通常は中高年に多く発症するが,イギリスの場合若年層に発症が目立ったため,ウシ海綿状脳症 (狂牛病) にかかったウシからの感染の可能性が問題となった。 1996年,イギリス政府の委員会は狂牛病との関連性を認める発表を行なったが,これに対し世界保健機関 WHOの専門家会議は,狂牛病との明確な関連性を否定しながらも,狂牛病への何らかの接触が最も可能性のある仮説であると曖昧な結論を下した。同年 10月,ロンドン大学の J.コリンズ博士らは,クロイツフェルト・ヤコブ病の病原体プリオンと狂牛病のプリオンが同系列のものであるとの研究結果を発表した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

知恵蔵 の解説

クロイツフェルト・ヤコブ病

プリオンという特殊なたんぱく質によって起こる、進行性認知症。35〜60歳代に発症、男女差は見られない。症状としては、人格障害や痴呆が見られ、意識障害、幻覚、妄想などの精神症状や不随意運動、筋緊張亢進、運動麻痺、歩行障害などの神経症状を示すこともある。急速に進行し、1年以内に死亡することもまれではない。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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