グラビア印刷(読み)グラビアいんさつ(英語表記)gravure
photogravure

改訂新版 世界大百科事典 「グラビア印刷」の意味・わかりやすい解説

グラビア印刷 (グラビアいんさつ)
gravure
photogravure

写真製版による凹版印刷の一種。版上の小さなくぼみの深浅でインキ層の厚みを変えることによって濃淡を表現する。オフセット印刷と並ぶ主要な印刷方式で,週刊誌のグラフページなどの印刷に用いられ,写真の大量印刷に適する。写真の階調を十分に再現し,比較的品質のよくない紙に高速で大部数を印刷でき,また紙以外のプラスチックセロハン金属箔などにも印刷できる特徴があるが,欠点としては製版が困難で,印刷物の文字部分にもスクリーンが入ることがあげられる。1879年にチェコのクリッチュKarl Klič(1841-1926)が,写真印画法の一つであるカーボン印画を彫刻凹版の製版法に応用して開発した。

原稿の写真や絵は複写してポジフィルムを作り,これを1枚の原板にレイアウトしてはり込む。活字や文字などは活版からとった清刷り(きよずり),あるいは紙に書いたものから複写してポジフィルムにするか,写真植字機で印字したものからポジフィルムにしてはり込む。次にグラビア用のカーボンチッシュゼラチン溶液に顔料と少量のセッケングリセリン,砂糖などを混合分散させ,バライタ原紙に塗布したもの。ピグメント紙ともいう)を重クロム酸カリの水溶液にひたして感光性を与え,これにスクリーンを焼き付ける。グラビアに用いられるスクリーンには砂目スクリーン,グラビアコンタクトスクリーン,白線スクリーン(グラビアスクリーン)などの種類があるが,もっとも一般的なものは,フィルム,あるいはガラス板の黒い膜面に透明な白線が互いに直角に交差している白線スクリーンで,これを焼き付けると白線部分のみチッシュのゼラチン層が硬化する。このスクリーンを焼き込んだチッシュにポジチブ原板を焼き付けると,スクリーンの透明線の部分は強く感光し,一方,不透明の角点はポジチブの濃度に反比例して感光する。これをあらかじめ表面を平滑に磨いた銅円筒に,チッシュのゼラチン面を接してはりつけ(これを転写という),温湯で洗えばゼラチンの未感光部分は溶け出し,乾燥させるとゼラチンのレリーフができる。このゼラチンレリーフの上から塩化第二鉄液で腐食すると,銅円筒の表面にレリーフの厚さに反比例した深さをもつ小さいくぼみが無数にでき,耐食膜を除いてクロムめっきをすれば版は完成する。

シートの用紙を刷るものと,巻取紙に刷るものとがあるが,大部分は後者であって,凸版,オフセットなどの印刷機に比べて特異な点はインキローラーが少ないこと,乾燥装置があること,グラビア版胴の表面のインキをかき落とすためのドクターdoctorという薄い鋼刃があることである。版胴は液状のグラビアインキを入れたインキだめにつかって全面にインキが塗りつけられ,ドクターで表面のインキが除かれて,小さいくぼみにたまったインキが圧胴の接触部で紙に移る。このとき,深いくぼみのインキは浅いくぼみのインキよりも濃く見えるから,スクリーンの角点の面積は同じでも濃淡を生ずる。写真の階調をよく表現する理由である。グラビアインキは,揮発性の溶剤(ガソリン,ベンゾールなど)で溶かした樹脂に顔料を混ぜたものであるから,印刷後は急速に乾燥し,紙のみでなく,非吸収性のプラスチック,セロハン,金属箔などにも高速印刷できる特徴は,このインキの性質と速乾性とによる。
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百科事典マイペディア 「グラビア印刷」の意味・わかりやすい解説

グラビア印刷【グラビアいんさつ】

写真製版により食刻した銅円筒を用いて輪転印刷する凹版印刷の一種。1890年チェコのK.クリッチュ〔1841-1926〕が発明。カーボンティッシュ(ゼラチンと顔料を混合し台紙に塗被したもの)を重クロム酸アンモニウム溶液で処理して感光性を与え,これにグラビア用スクリーンと透明ポジを重ねて焼き付け,銅面に転写し塩化第二鉄溶液で腐食して版をつくり,耐刷力を増すためクロムめっきを行う。版画はスクリーン線によって区切られた微細な網点からなり,原稿の濃淡に比例した深さに腐食されているため,微妙な濃淡の階調の再現が広範囲にわたって可能で,写真の多いものに適する。特に多色印刷によく,高速・大量印刷も可能で雑誌の口絵などの印刷に広く利用されるが,小部数印刷ではコスト高になる。またグラビア用インキの速乾性を利用し,セロハン,プラスチック,金属,ガラスなどにも印刷。
→関連項目秋山庄太郎写真植字輪転機

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「グラビア印刷」の意味・わかりやすい解説

グラビア印刷
ぐらびあいんさつ
gravure printing

凹版印刷に属する印刷。版は規則正しく配列している細かい凹点からなり、これにインキを入れて印刷する方法。同一版面の凹点の大きさは同じであるが、深さが原稿の色の濃さにより異なり、深い凹点ほどインキが多く入るので印刷物は濃色となる。凹点の大きさは、ポスターやカタログでは0.1ミリメートル平方程度である。普通のグラビア(コンベンショナルグラビア)のほかに網グラビアがあり、凹点の大小の差によりその濃淡を表現する。製版方法には腐食法と電子彫刻法とがある。グラビアの特長は、色の階調が豊富でその再現性がよい、インキの乾燥が早く高速印刷ができる、プラスチックなど広い範囲の材料にも印刷が可能である、エンドレス模様の印刷ができる、などである。短所としては、製版費が高いので少部数の印刷には不向きである、印刷物の文字の縁に刻み目が生じる、などである。用途は出版物と包装用が主であるが、建材や織布の印刷にも利用される。

[平石文雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グラビア印刷」の意味・わかりやすい解説

グラビア印刷
グラビアいんさつ
gravure printing

凹版印刷の代表的な一種。定期刊行物の写真ページや美術写真集,包装用のセロハンやビニルフィルムの印刷などに最も多く使われている印刷方式。原稿写真などの濃淡を,印刷網目ごとに盛上げるインキの層の厚みで表わすのが最大の特徴で,濃い部分には厚い,淡い部分には薄いインキ層の網点で印刷するので,網点の大小 (面積) で濃淡を出す凸版,平版より写真印刷効果が高い。製版はコンベンショナル法,網グラビア法などがあるが,要するに銅の円筒の表面を網目ごとに微妙な深浅をつけて腐食し,このくぼみに入るインキの量に変化をつけ,紙上を回転させて濃淡のインキを転写する印刷である。1枚ずつ刷る平台印刷機もあるが,輪転印刷機が普及したため,高速多色印刷も可能となっている。

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図書館情報学用語辞典 第5版 「グラビア印刷」の解説

グラビア印刷

連続的な濃淡を出すのに向いた,写真製版法を用いた凹版印刷の一種.グラビア製版用のスクリーンにかけて原稿を撮影してポジ版を用意し,版面にセルというインキポケット用のくぼみを作って,セルの深さに応じてインキを入れて印刷し,インキの量によって濃淡を表す.

出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のグラビア印刷の言及

【印刷】より

…現在の凹版は彫刻とエッチング(食刻)の二つに大別されるが,さらに細かい技法が工夫され実用になっている。また,写真製版法および写真印画法と結びついてグラビア印刷が発明された。1879年チェコのK.クリッチが散粉式写真凹版を考案したのにはじまり,現在のグラビア(ロトグラビア)に発展した。…

【大日本印刷[株]】より

…秀英舎は,明治の三大名著の一つといわれる中村正直の《西国立志編》の再版の際に《改正西国立志編》として,それまでの木版に代えて日本で初めて活版印刷を行った。新聞,雑誌などの活版印刷を中心に,明治,大正の両時代を通して発展したが,1928年には日本で初めて本格的グラビア印刷を開始するなど印刷技術の高度化も進めて,総合印刷会社になった。昭和初期の恐慌のなかで印刷業界も苦境に陥り,35年秀英舎は日清印刷と合併し,大日本印刷(株)と改称した。…

※「グラビア印刷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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